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追放少女の剣は三度煌めく~不老不死幼女は最強の火炎魔術師で二人はなかよし~  作者: さざなみかなで
1章ーどうせ語り始めるのならこの辺りからが良い、と彼女は言った
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1-0.《プロローグ》彼女と彼女の最初の出会いは、ずいぶんと一方的なものだったという

10/13 全体に大幅改稿を行いました。

「どうして駄目なんですか!? どれもこれも、危険度は一番低い依頼じゃないですか!逆にランクGの駆け出し冒険者はどの依頼なら受けられるんですか!?」


 フレアがギルドオフィスを見学に来ると、一人の女の子が受け付け員を困らせている現場に遭遇した。


 見るからに安物、腰部を外した、おそらくは中古の皮鎧。

 古着屋で用意したのであろう、皮のベストに実用面と可愛らしさ半々で選んだと思しき厚手のシャツとスカート、腰には剣。

 顔はよく見えないが、少なくとも腰元まで伸ばした艶のある金髪から、ワケアリの娘なのだろうという事は想像に難くない。

 ただの町娘の髪が、あんなにもつややかで綺麗なわけがない。


 受け付けが言うには複数パーティー向けの依頼を駆け出しの少女一人で受けようとしていたようで……グレーゾーンながら、これは受け付けの男の言い分も正しい。

 冒険者の適性依頼を見繕ったり、無謀な依頼を受けようという冒険者に道を説くのもギルド員の仕事のうちだ。


「なら、私の強さを認めてもらえれば依頼を受けさせてもらえるんですね?誰か、鍛錬場で私の相手をしてくれませんか!?」


 少女が大見栄を切ってギルドオフィスから繋がる交流場……通称、酒場にいる者達に自信満々で喋りかけ、酒場はどっと男達の笑い声に包まれる。


 それはそうだ。ようやく顔を見れたけれど、剣よりお花やお人形を持っている方がずっと似合う可愛らしい女の子。凛とした蒼い瞳には強い自信を感じさせるけれど、強者を知らない駆け出し特有の無謀さに裏打ちされたものだ――と、見えた。

 

 少なくとも、その時は。


「ぐわっはっはっは。よぉし嬢ちゃん、木剣で叩かれれもぉ、泣くなよぅ?俺が、相手してやるれ」


 昼間から酒を飲んで、ろれつが多少怪しい男が少女の挑戦を受ける。

 おいおいマジかよとか、うわ、えげつねぇとかという言葉が上がる。


 ……それなりに腕の立つ男なのか。駆け出しの少女には手ひどい洗礼となるだろう。


 その二人と、野次馬の数名はギルドオフィス裏手にある更地の広場……鍛錬場と呼ばれる場所へと向かった。


 ――木剣なら、一睨みで灰に出来るかな。


 酒におぼれた男の弱い物いじめは、あまり良いものとは思えない。

 一打で決着としない場合には木刀を無かった事にして介入してあげよう。


 鍛錬上で、二人は位置について構えを取る。

 その構えを見るだけで、フレアは悟った。


(女の子の勝ちだ)


 男のふらついた構えに対し、少女の構えは一瞬も体軸がブレる事も無く剣の揺れも無い。

 ひゅん、と音を立てて少女が動いた次の瞬間、男の身体に真正面から、少女の木刀が押し当てられていた。


 ひゅぅ、と口笛の音、沸きたつ歓声。


「おい酔っ払い、さっさと退きやがれ!次は俺だ!」


「え……あ、はい」


 あまりに鮮やかな少女の勝利に、別の男が現れる。


「おい、ビリー相手は流石に……」


「あいつの個人ランクって幾つだっけ?」


「知らねぇよ、あいつのパーティーはCだろ?って事はDかCか?」


「レッツトトカルチョだ!張った張った!ってビリーだけかよ!賭けが成立しねぇじゃねぇか!」


 急に賑やかになっていく鍛錬場。

 酒場側からしゅわしゅわの飲み物の移動販売まで始まる。

 これでは完全に見世物だ。恐らくは少女が手ひどく負けるまでは止まらない流れだろう。


 少女はその、前動作を感じさせない構えから……一瞬で歩を詰め、ビリーという男が一切の反応をする前に、その胸を突いた。


 なんて洗練された《身体能力強化パワード》の使い手!


 フレアは、少なくともその少女より『美しい』《身体能力強化パワード》を見たことが無い。

 強いて言えば、荒々した、力強さ、総合した強化度合いで彼女を上回る使い手なら大勢見てきた。


 しかし、それが美しく洗練された剣術にのって、あまりにも自然で、そうあるのが当たり前のようなよどみの無さで瞬時に展開される様を見るのは……それも、あんなにも年端の行かぬ少女のものともくれば、驚嘆した、としか言いようがない。


 フレアが呆けているうちに、さらに3人の男達が負け、少女の連勝は5人に登った。

 フレアは急いで、裏手のギルド事務員たちの元へと走る。


「すみません!今訓練場で戦っている女の子の名前は……わかりますか?」


「ええと……確か、本日初めて当ギルドにお越しいただいた子ですね。名前は……シンシア、と……」


「ありがとうございます!」


 フレアが戻ると、また新たな歓声が上がる所だった。


「おいマジかよ、また瞬殺だぞ?」


「《身体能力強化パワード》がエグいんだよ、D以下じゃ相手にもならんって!Cランクを瞬殺だぞ!?」


「よーし、なら次は俺が行ってやろうじゃないか」


「アッド!よっしゃぁこれは勝ったな!」


「大人げねーなーおい!」


「アッド来た! 勝てるこれは勝てる!」


 大男が、どすどす音を立てながら大きめの木剣を選んでぶんぶんと素振りする。


「すみません、あの人強いんですか?」


「あぁ? おっふ……強いなんてもんじゃないぞ、アイツは押しも押されぬBランク冒険者だからな……ところで真っ赤なお目目にきらきら輝く銀髪がキュートな可愛らしいお嬢ちゃん、後で俺とお茶でも」


「結構です」


「おーいトトカルチョ、これじゃまた成立しねぇじゃねーか!誰か女の子の方にも入れてやれよぅ!」


「なら、私が」


 フレアが空のかごの中に1000ルピ硬貨を投げ込む。


「お嬢ちゃん、もらっちまったもんは返せないぞー?お小遣いこんな事に使っちゃって良いのかい?」


「ええ、まあ。私はあの子が勝つと確信していますので……」


 始まった模擬戦は、これまでのパターンと逆に男の攻勢から始まった。

 シンシアという少女が不意打ち・速駆けに長けている事を潰そうという判断だろう。

 しかし、シンシアは自身のリーチより遠くから振り回される剣を全て躱し、弾き、その全てを通さない。


 シンシアがバックステップで距離を取った瞬間、男は右腕の剣を振り上げ、シンシアも剣を大上段に構え、着地と同時に瞬く間に男の脇の下、降り降ろされようとしたその剣の下をすり抜ける。


「っ痛ぇっ!」


 ぺしん、という音に、脇もと付近を抑える男。

 振り返って『血糊を飛ばす』かのように剣を振るシンシア。


『これが本物の剣ならお前の右腕は斬り落とされていた』


 とでも、言わんばかりの迫力。


 なんて美しく、なんて洗練された身体能力強化パワードだろう。入りも抜きも、『完璧』だなんて言葉では表現できないほどの集中速度だ。

 それにシンシアという少女は、自分の長所を完全に理解して剣を振っている。

 小柄な身体、軽い体重。

 加速利用に特化した《身体能力強化パワード》と、体格差を逆に利用した剣術。


 シンシアが距離を取った瞬間、彼女お得意の速掛けが来ると予測したB級冒険者の危機感知は見事。

 けれど、シンシアは男の剣が降り降ろされても剣が自分を守る上段の構えを取り、男の想定を上回るもう一段高い《身体能力強化パワード》を使って、彼の腕の下を潜り抜けざまに打った。


 これは、何度戦ってもこの試合の結果が揺らぐことは無いだろう。

 シンシアという少女の剣才は、本物だ。


「……欲しい……」


 あの子が、欲しい。

 あれは、逸材だ。


「お……おう、嬢ちゃん。そうだな、嬢ちゃんの総取りだ。重たいぞ?」


 そういえば、そんなものにも参加していた。

 じゃらりと音を立てる重たいルピの詰まった籠を受け取り、フレアはそれを鞄の中に流し込んで籠を返す。


「おい……どうすんだよこれ……」


「戦い続ければいつか倒れんだろ!次は俺だ!」


「えーと……はい、わかりました」


 あぁ、解っていない。新しくシンシアの前に立った男の冒険者ランクは知らないが、その、目の前に居る少女が息一つ切らしていない事にすら気付いていないようでは、勝ち目などあるわけがない。


 まだ、底を隠している。

 その少女の底を少しでも伺おうと、フレアは次々に繰り広げられる男達の惨敗劇を、食い入るように見つめた。



◆◆◆



 何人目の男が倒れただろうか。

 シンシアは相手を倒すと、ふぅと一息つくようになった。

 流石にシンシアの戦い方も『完全な寸止め』ではなく、『一打当てる』という戦い方に変わりつつある。

 しかし逆に言えば、男達はシンシアの体力を、その程度しか削る事が出来ていない。


「おいおい、こいつぁなんの騒ぎだぁ?」


 背後からその男の声がした瞬間、半ば諦めムードだった冒険者達が色めきだった。


「あんたは【黒天狼】の!今、すげぇのが来てるんだよ!こんなちっこい子供が、俺達相手にさっきのでもう負け知らずの50連破だ!いやぁもう、Aランクパーティーのお前さんらにしかあいつは止められないって!」


 【黒天狼】。マーク対象のパーティーと聞いている。

 魔獣・猛獣の類が少ないエルピス西部に拠点を構える、唯一のAランクパーティー。

 態度や立ち位置からして、頭目は筋骨隆々で頭部が剥げた男か。

 確かに、少しは『やりそう』なものだが……


(こんなのがAランク?いくら平和な地方でも……それとも、何か隠し玉があるんですかね……)


「ふぅむ。俺は剣なんか使えねぇよ。ランドガー、片手剣ならお前だろ。いっちょもんでやれ」


「うぃっす、リーダー」


 鋭い目つきで少々痩せ気味の男が、木剣を握っては振り、別の剣を握っては振りと慎重に剣を選ぶ。


「レッツトトカルチョ!さーさー無名の新人、謎の美少女とAランクパーティー最強の剣士、ランドガーの一戦!張った張った!」


「なぁ、おい、どうする?」


「ランドガーは個人ランクAだぞ? 流石に……」


「いや、でもなぁ……個人ランクBのアッドがやられてるんだぜ……?」


 周りの冒険者たちの会話に耳をそばだてながら、フレアは早々にシンシアへと1000ルピ硬貨を投げ入れた。

 これでシンシアが勝てば、その実力は『本物』という事だ。

 流石に今回は何票か割れて、2割程がシンシアへと賭ける結果になった。


「試合開始!」


 二十戦目を超えた辺りから練習試合にも審判がつき、仕切る者が現れていた。

 酒場からはしゅわしゅわした飲み物以外に、串焼きの立ち売りまで始まっていた。


「おぉぉ!」


 試合の開始と同時、ランドガーが吠える。

 シンシアは年相応の女の子らしく、その気合の入った雄叫びにびくりと身体をすくませてしまう。


 カッ!カンッ!カッ!


 シンシアの怯え、怯みが落ち着かないうちの速攻。

 シンシアに比べるとそこまで速いとは感じない剣戟だが、シンシアはそれを受けるのでせいいっぱいだ。


(……ダメですね……完全に飲まれちゃってます。さっきまでの実力の半分も出せてない……)


 不意にランドガーが、シンシアの身体に蹴りを入れる。

 長身のランドガーの回し蹴りは、丁度シンシアの胸部を襲い、その小柄な体躯を軽く吹き飛ばす……が、当のシンシアにダメージは無く、着地。


 おそらくは《身体硬度強化アーマード》を使ったのだろう。

 胸元は皮鎧に守られている事にも救われたようだ――いや、わざと皮鎧で『受けた』ようにも見える。


 それより、シンシアは急に肩で息をし始めた事が気になる。

 どうやら、焦りがあるように見える。お行儀の良い剣術試合で剣に合わせた蹴り技など、経験した事が無いのだろう。


 そんなシンシアに休む間も与えず、ランドガーという男はシンシアへと斬りかかる。


 シンシアはそれを受けずに、躱す。

 距離を取り、避け、一瞬、剣を打ち合わせる事があってもそのまま受け流す。

 そのシンシアに拳打や足技が次々と襲い掛かり、シンシアの剣はそちらへの防御に使われる。


 激しい防戦を切り抜けてランドガーから距離を取ったシンシアは、大きく息を吸って、吐いた。


「そっか……『なんでもあり』なんだ……」


 呟くと、シンシアは珍しく構えを変える。

 下段、斬上げを予告するような構え。

 もう一度、シンシアがふぅと息を一つ吐くと、突風のように駆ける。


 ランドガーがそのシンシアの低すぎる剣の出元に対して構えあぐねるその瞬間、さらなる加速で詰め寄ったシンシアは、その剣を斬り上げた。


 ――ランドガーの、股の下から。股間に対して。


「――ッ!?」


 流石に、それは完全に予想外だったのだろう。

 明らかに狼狽した表情のランドガーが、すんでの所でその剣を斬り落とすが――もう遅い。

 ランドガーの剣がシンシアの剣をしたたかに打つよりも先に、既にシンシアは剣を手放していた。


 剣を捨てたシンシアは、手にした剣を地面にたたきつけて前傾姿勢となったランドガーの肩に手を伸ばして掴んだシンシアの飛び膝蹴りが、ランドガーの顎を撃った――



◆◆◆



 鍛錬場は、わぁわぁという歓声で盛り上がっている。

 Aランクギルドの剣士を相手に、これまでずっとお行儀の良い剣術のみで戦っていた子が、ラフプレーに苦戦して……お返しのラフプレーを覚えて、それで返す。なんと胸のすく結末だろう。


 吸収が早い所も気に入った。


「あの……」


 フレアはさっそくシンシアに声を掛けようとした所。


「おい!」


 フレアの小さな声をかき消すように、【黒天狼】の頭目がシンシアに向かって声を掛ける。


「お前、まだ冒険者になり立てでソロなんだって?ならウチに来い。エルピス西部じゃ唯一のAランクパーティーだ。その才能、最高の所で活かせるぜ」


「え……は、はい!願ってもないです!ありがとうございます!」


 ……先を越されてしまった。


 おいおい、とかマジかよ、とかいや当然だろうとか、そのヘッドハンティングに冒険者たちが口々に思い思いの感想を口にする。


「ならこっち来い。パーティーの加入手続きしてやる」


 もったいないなぁ。惜しいなぁ。


 フレアはうーん、と考えた。

 まぁ、目印を付けておくだけなら誰にも文句は言われないか。


「《広域炎熱探知ホットサーチライト》」


 フレアはこっそりと、小さな声で魔法を発動させる。

 赤の魔法陣が広がっていき、その中のシンシアの熱反応トーチを記憶する。


(よし、これで――)


 その瞬間、シンシアが振り返った。

 フレアの目と、シンシアの目が合ったまま、お互いの視線が動かない。

 シンシアはじっと、ただ一点、フレアの方を凝視している。


「……ん?おいお前、どうした?」


「あ、いえ、多分気のせいです。何か変な気配がした気がして……」


 フレアは、フーデットケープを被って、人波の中に紛れ込んだ。


(今、あの子にマーキングした事が気付かれた……?)


 周りの冒険者たちは、一人たりともフレアの先ほどの魔法に対して反応する者は居ない。


 フレアは売れ残りの串焼きを一つ買って、ちょんと頬張りながら、思った。


(まさか……ですよね。そんな勘のいいひと、いるわけありませんし……)


 それが、フレアとシンシアの、割と一方的な出会い。


感想どしどし募集中!


面白かったよ!とか

続きが気になるよ!とか

思ってくれたら嬉しいんだけどそう思ってくれたことを伝えてくれるともっと嬉しいので


下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして下さったら大喜びです。


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