えき
とある町の、とある駅。
大きな地震が町を襲った。
揺れはしばらく続き、人々は恐怖した。
駅前のロータリーでは液状化現象が発生し、地面がドロンドロンになった。
この駅があった場所にはかつて、宮があった。
大規模工事により宮を廃し、駅としたのだ。
年若い宮司は言った。
この地には古来より疫神様がお住まいだ。
疫神様の怒りに触れる、と。
駅建設は住民達が長年にわたり待ち望んだ夢であった。
議員選挙、町長選挙では、町民のほとんどが駅建設推進派の候補者を推した。
交通の利便性の向上。
駅前の開発、整備。
人口流出に歯止めがかからぬ町にとって、駅建設は希望であり救いであった。
誰が年若い宮司の話などに耳を貸そうか。
否。
誰も耳を貸す者などいなかった。
宮司は疫神様のために、工事の間、ずっと祈祷し続けた。
鎮まりたまへ、鎮まりたまへ。
雨の日も、カンカン照りの日も、雪の日も、ずっと、ずっと、毎日、毎日……。
住民達の協力もあり、駅は一年半で完成し、駅周辺の道路は綺麗に整備された。
宮司は町長と駅長に言った。
疫神様への供物は決して絶やすな。
供える水は毎日取り替えろ。
年に一度、疫神様をお慰めするために、賑やかなる祭りをせよ、と。
神棚は駅長室に作られた。
駅長は供物を絶やさず、毎朝水を入れ替えた。
駅長の代替わりにはきっちりと引き継がれ、供物は絶やされることなく、水も毎日取り替えられた。
大地震が起きた。
駅前のロータリーでは液状化現象が発生し、地面がドロンドロンになった。
鎮まりたまへ。鎮まりたまへ。
五十年前疫神様のために祈祷し続けた老宮司、地震で折れた巨木の下敷きになり、亡くなった。
ドロンドロンの沼底から、得体の知れぬ何かが顔を出す。
ドロンドロン、ドロンドロン。
ドロンドロン、ドロンドロン。
復興が最優先されたため、年に一度、駅前で行われる町をあげての大きな祭りは中止となった。
ドロンドロン、ドロンドロン。
ドロンドロン、ドロンドロン。
ドロンドロン、ドロンドロン。
疫神様がお怒りだ。
ドロンドロン、ドロンドロン。
そうして、その町では正体不明の疫病が広まったとさ。
「……どうっすかね? 監督」
「お前なぁ、こんなので映画作れるわけないだろう。利益出せないような作品、無理に決まってるだろ」
「そっすかぁ。そっすよね。ゴホッ、ゴホン、ゴホン。すいません」
「もっとさぁ、売れる映画作りたいなら足使え、足。街の若い子の声、聞いてこい」
「ゴホンゴホン、はいっ、ゴホッ、ゴホン、ゴホン」
「お前、大丈夫か? 早めに病院行けよ」
「ゴホンゴホン、ゴホッ、はい。駅前の病院が遅くまで開いてるらしいんで、帰りに行ってみます」
ゴホンゴホン、ゴホンゴホン。
ゴホンゴホン、ゴホンゴホン。
疫病が広まる。
それはもう、貴方のすぐそばまで……。
「駅」で、ただ駄洒落たかっただけのこの作品。←やたら「た」が多い。
駅、液状化現象、疫神様、疫病、利益、声聞いて
上記の「えき」を含む語を頑張って入れました。
疫病……新型コロナと重なります。
京都の祇園祭はもともと疫病を鎮めるための祭りだそうです。旦那が祇園祭中止のニュースを見て「本来ならば今こそしなければならない祭りなのに」と嘆いていました。
悪ふざけのつもりはありません。
新型コロナの終息を願っています。