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鳥籠の中  作者: さく
六章
9/14

再会 ①

 日下部美緒の家はいわゆる豪邸であった。

 有希の実家もそれなりに裕福ではあったが、この家に比べると一段見劣りするレベルだった。


「珍しいですか?」

「いえ、凄いなと思いまして」


 有希は素直に答える。


「まぁ、ハッタリも必要ですからね。内情はそうでも無いかもしれませんよ?」


 ハッタリでも何でも、維持できるなら十分過ぎる。

 屋敷の中に案内され、応接間に通される。


「まずはお茶でも飲んで落ち着きましょうか」


 ホテルにあるような立派な装飾が施された茶器が運ばれ、ふわりと紅茶の良い匂いが広がる。

 一息ついたところで、美緒からとんでもない言葉が発せられた。


「ところで、この後早速子作りを致しますか?」


 有希は紅茶を気管に流し込み、大いにむせた。


「な、何を」

「あら、思ったより初心だったのかしら。調べによれば別の男性と同室と聞いていたからてっきり経験があるものかと」

「待って下さい。なんでそんな情報を入手出来るんですか?」

「それはまだ秘密。他にも知っていますよ。東坂有希君?」


 有希が目を丸くして美緒を見る。

 あのときの命名は偶然ではなかったのだ。


「……悪趣味です」

「ふふっ。有り難う」


 褒めてはいないのだが、美緒はその言葉に満足そうだった。


「で、何です? 僕なんて何の価値もない人間ですよ?」

「そう? 私にはとても価値のある人間なのだけどね。東坂玲香って覚えてるわよね?」


 忘れるわけはない。

 あの日、自分との別れに涙してくれた姉のことを。


「彼女、私のパートナーなの」

「まさか……」

「そう。貴方とのDNAマッチングは、彼女の望みでもあるわね。あ、安心して。ちゃんと子作りして、«鳥籠»に戻ることが無い様にしますから」


 有希はまだ少し混乱していた。

 あまりにも偶然が重なり過ぎているし、話がうまくいきすぎている。

 このタイミングで自分がDNAマッチングしているかどうかも不明だろうし、なにより、生死すら不明なのだ。

 このようなケースが無いわけではないが、勝の言うとおり男性が疎まれるのであれば、わざわざパートナーをDNAマッチングに登録するはずもない。


「一応、賭ではあったのですよ。ルーレットでいえば、赤か黒に賭けるくらいの見込みでしたけど」


 確かに、もし姉が後ろにいるなら、自分の容姿を見て気づくかもしれない。

 しかし、確実ではない。流石に十二歳と十八歳であれば雰囲気も変わるだろう。


「貴方にまず聞きたいのは、姉と一緒に過ごしたいかどうか? って事かしらね」

「それは」


 正直、悩ましかった。おそらく、有希と美緒が結婚した後で、一夫多妻制度を用いて、有希と玲香を結婚させるのであろう。DNAマッチングは近親相姦を忌避できるが、二人目以降の妻はDNAマッチングが行われないため、そのような事が可能であった。

 しかし、これは東坂有希という人間がこの世に存在していない事を証明していた。

 «鳥籠»にてIDを付与されたものは、その時点で戸籍を失い、文字通りIDだけが個人を証明する番号であり、名を奪われていたことに気づく。


「お察しの通りよ。貴方と結婚した後で玲香が一緒になれば、一応家族で暮らすことは可能だわ」

「そうですね。魅力的な提案ですけど」

「慎重ね。そういう所、とても好きだわ。遺伝子は近いのに、性格は姉とは対照的ね」


 美緒は紅茶を一口含み、そして続ける。


「無理に即答しなくても良いわ。今度姉にも会わせてあげるから、安心して」

「ありがとうございます。済みませんがちょっと返答は待って下さい」

「解ったわ。それじゃ、早速子作りしますか?」

「勘弁して下さい」


 有希が半ば呆れている表情に、美緒は小悪魔の様に微笑んでいた。

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