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鳥籠の中  作者: さく
五章
8/14

解放同盟

「思ったより動じないのね。でも、わきまえてる人間は好きよ?」


 美緒が勝にそのままを伝える。


「まぁ、有希の話が出たときに、その気が無いって分かったからな」

「それは……」


 玲香が言いかけて、口ごもる。


「気にしなくていい。パートナーというのであれば、つじつまは合うしな」

「報告通り、聡いのね」

「それに、俺と有希が同室だったって時に、玲香さん、殺気放ってたしな」


 «鳥籠»の同室というのは、そういうことを意味する事が多い。

 解放同盟の関係者なら周知の事実であった。


「ふぅん、有希君と君はパートナーだったんだね? それは玲香には刺激が強すぎたかもね」


 美緒が意地の悪い声を出す。


「まぁいいわ、あんまり玲香をいじめても話が進まないし。で、私がDNAマッチングをして、有希君を連れてくれば良いのね?」

「そうね。お願い」

「いくつか条件があるのだけどいいかしら?」


 美緒が差し出されたコップに手を掛けて、一口啜る。


「どうぞ」

「先ず、先に断っておくけど、私はメンバーであるけど異性愛者じゃないの。私が好きなのは玲香だって言うのは覚えておいて。あくまで趣旨に賛同してるだけだから」


 玲香が少し顔を赤らめながら頷く。


「だから、あんまり相手に無理強いはしたくはない。なので、彼が私の容姿なりを気に入らないようだったら、それは諦めて」

「そこは大丈夫じゃないかな?」


 ぼそっと勝が呟く。


「そう? なら、後は私が気に入るかどうか次第ね。いくら玲香の弟とはいえ、気に入らない人間とセックスする気にはならないから」

「セックスって……」


 あえて直接的な言葉を選んだ美緒に玲香が狼狽する。


「だって、そういうことでしょう? そうしないと半年で出戻りよ? 貴方だって、その覚悟はあったのでしょうに」


 玲香は申し訳なさそうな目で勝を見る。


「……ああ、俺は気にしなくていい」


 勝は出戻りを覚悟していたので、さらりとその発言をする。


「だめよ」


 美緒が間髪入れずに否定した。


「せっかく出てきたのだから、きちんとする事はしなさい。弟の所在を確認するためのダシに恋人が使われて、そのまま出戻りしたと知ったら、姉弟の仲に亀裂が入るわよ?」

「待ってくれ。この話を持ち出したのは俺なんだ。だから条件をだしてもよいよな?」

「良いわよ?」

「条件は二つ。日下部さんがきちんと有希を連れてくる事、有希がお姉さんと同居したいかどうかが条件でどうだろうか」


 美緒は顎に指を当てて思案した後で「ではその条件で」とだけ言った。

 その晩、玲香宅にて三人で夕食をとることにした。


「ところで、同盟の状況はどうなの? «鳥籠»の解放についてはなんとかなりそう?」

「ああ、それについてだけど。かなり難しい状況になってる。少なくともあと十年、下手したら二十年以上はかかる。それだけあの施設の重要度は高くなってしまった」

「そう。あの噂はやはり本当だったのね」

「噂?」

「元々«鳥籠»は男性の精子をとる精子牧場と言われてたのは知ってるわよね?」

「ああ。施設にいたときにも聞いてた話だったな」

「それなんだけど、女性交配法に用いる疑似精液は«鳥籠»で採取された精液を加工したものが使われている様なのよ」

「精子から男性の染色体を末梢した、通称末梢精子ね……。眉唾だと思ってたけど」

「そう。だから、単純に潰すと、女性交配法そのものが破綻する可能性が出てきたの。一部の過激な団体はそんなの気にしないのだろうけど、解放同盟はそういう団体ではないから。だから、当面は私達に出来る事をするしかないのよね」


 解放同盟は地下組織ではあるが、社会的混乱を望む団体ではない。

 そういう意味では、ある種過激な思想をもつ玲香はメンバーとなる事はできなかった。

 この辺は美緒が上手く手綱を握ってくれていたのだろうと勝はほっとしていた。


「ごちそうさま。それじゃ、何かあったらまた連絡するわ」


 玲香と美緒はほおをつけて帰りの挨拶をする。


「DNAマッチングは数ヶ月くらいかかる事もあるから、それまで我慢だな」


 勝の言葉に、玲香はただ、この話が上手くいく事を祈っていた。

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