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鳥籠の中  作者: さく
二章
4/14

DNAマッチング

 意外な事に、«鳥籠»の男性の殆どがDNAマッチングには消極的であった。

 そこで初めて、東坂家が異質であったことを思い知らされた。

 大半の男性は施設で育った者が多く、両親の顔を知らない。

 また、一夫多妻の制度を悪用した家庭で育ち、虐げられた子供も少なくは無かった。

 これは一人の女性が複数人の女性と結婚する際に使われる手である。

 DNAマッチングを用いて偽装結婚相手の男性を探し、結婚。一夫多妻の制度を利用して、本命のパートナーと結婚する。

 その後、第二第三のパートナーとも結婚を行う。

 元々、少子化対策法案であったため、一妻多夫という構図は存在せず、また、女性交配法が生まれたとしても、多妻結婚が認められることは無かった。

 ただし、この偽装の問題点として、初婚では必ず妊娠を確認する必要があるため、初子が男子だった場合は、虐待の対象となる場合が少なくはない。

 よって、多くの男性は女性を忌避し、男性を求める傾向にあった。

 一夫一妻の下に生まれ、姉からは別れを惜しまれた有希は本当に幸せであったのだ。


「それで、相手は見つかりそうか?」


 五年前から同室となった瀬名が有希に問いかける。

 あれから何度か話している内に、結構居心地が良い事に気づいて、彼とのDNAマッチングを確認したところ、判定は優であった。

 有希はいつの間にか彼の事を勝と呼ぶようになっていた。

 勝から同室の提案がなされた時は、有希は喜んで賛成した。

 彼に恋愛感情を抱いている訳ではないのだが、報告をすることで同室での生活が許可される。

 対外的には恋人同士に見えるかもしれないが、気にはしない。


「どうかな、DNAマッチングといっても、DNAだけでOKとはならないみたいだし」


 DNAマッチングは、先ず男性のDNAと女性のDNAを比較し、なるべく遠いものが選択される。

 次に、先方の女性に男性の写真が送られ、そこで先方が了承すれば、実際に会う場が設けられる。

 あくまで女性上位の考え方であった。


「まぁ、有希なら苦労せずとも見つかるだろう。綺麗な顔だしな。問題は俺だなぁ」

「勝だって、言うほど変な顔をしているとは思えないけどな。僕は好きだよ?」

「嬉しいこといってくれるなぁ」

「それはそうと、恋人認定を受けてるのにDNAマッチング依頼かけて平気なのかな?」

「その辺は問題無い。元々、男女交配のほうが強い子が生まれるって通説があって、政府も推奨しているからな。この辺は講義でも受けただろう?」

「そうなんだけどさ」


 同室であるのは、恋人同士である事が多数だ。

 自分のこの行為は、果たして他人の目からどのように映っているのか気にはなる。


「また面倒な事考えてる顔してるな」


 勝が僕の顔を見つめて、大きく息を吐き出す。


「別に同室だからって恋人同士が確定する訳でもないだろう? まぁそういう奴らが多いのは事実なんだが。仲のいい友人同士が同室でも何ら問題はない」

「そこは理解してる」

「ならいいじゃ無いか。それともアレか。『俺、有希には死んで欲しくないんだ。だから、俺の事は気にしないで、DNAマッチングを受けてくれ』とでも言って欲しいか?」


 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。


「ああ、そうだね。僕も勝には死んで欲しくないな」


 有希は対抗して、愁いを帯びた流し目で勝を見つめてやった。


「ちょっ、お前」


 勝の顔はほんのりと赤くなっていた。

 つられて、有希の顔もだんだんと赤くなってくる。


「なんだよ、顔赤くして。最初に恥ずかしいこと言ったのは勝だろ?」

「止めだ、止め。まぁ、そんなに簡単には見つからないとは思うが、のんびりいこうぜ」


 軽く手をパタパタさせて勝は立ち上がりキッチンへと向かった。

 なんだか調子が狂う。しかし。


「おい、勝。メールアラートが点滅してるぞ」

「マジかよ。マッチング成立したか?」


 コップを手に持った勝が慌てて着席し、舌なめずりをしながら画面をタップしていく。


「うん、ビンゴだ。DNAマッチングOKの報告が来た。俺もいよいよお見合いか」

「そうか。おめでとう」

「ん……。有り難う」


 そんな言葉を言う勝はなんとなく寂しそうではあった。

 それから一週間後、勝は先方と話し合い、そこで同棲期間に入る。

 半年間、子をなさなければまた«鳥籠»に逆戻りだ。

 逆に、子をなすことが出来れば、晴れて勝はここから巣立つ事になる。

 有希は少しの寂しさを感じつつも、友人が上手くいくようにと願っていた。

 それから三ヶ月後。

 誰も居ない部屋に戻ると、メールアラートの表示があった。

 嬉しいはずのDNAマッチングOKの報告を見ても、何故か喜びの感情が上がらないのだった。

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