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鳥籠の中  作者: さく
一章
2/14

鳥籠 ①

 IDでの呼び出しに慣れてしまえば、«鳥籠»の生活は、さほど苦労するものではなかった。

 予め父親から聞いていた事が大きな要因だったのだと思う。

 また、«鳥籠»のルールも至ってシンプルであった事も大きいだろう。


 ルールは大きく五つ。

 一つ、«鳥籠»から出る事は禁止とする。

 一つ、体調管理のため、週に二回の体液採取を行う。

 一つ、«鳥籠»内からの外部への接触は禁ずる。これは家族であっても適用される。

 一つ、«鳥籠»内の恋愛については報告の義務を有する。

 一つ、十八歳以上であれば、対外へのDNAマッチング制度に参加する事を許可する。


 入居する年齢が低い事もあって、決め事を少なくしたのだろうなとは思う。

 DNAマッチングというのはいわゆる結婚斡旋というものらしい。

 «鳥籠»内での性教育で得た知識であるが、男性は男性と女性の間でしか生まれないものらしい。

 年々減っていく男性の保護のために«鳥籠»の施設は作られ、そして、少数の男性を取り合わないように保護しているという大義名分があるのだという。

 その説明を受けた時、有希の隣に座っていた少年が呟いた。


「全く、嘘くさい話だよな」


 彼曰く、この施設には矛盾が多いのだという。


「そもそも、なんで保護する必要があるんだ? 別に俺らだって普通に生活していてもイイと思うんだ。だからきっとこの話には隠された真実というものがあるはずだ」


 漫画や小説に出てくる敏腕探偵のように、ニヤリと笑いながら僕の方を覗き込む。


「考え過ぎだと思うけど」

「そんな事は無いと思うぜ。興味があるなら、俺の持論を披露してやらないこともない」


 確かに、興味はある。

 ただ、かといって、それを知ったところでどうにかなる話でもない。


「ふむ。まぁいいか。興味があったら、俺の部屋まで来てくれ。いつでも歓迎するぜ?」


 そんな事を言って、その少年はネームプレートを見せる。

 そこにはMS一〇四三一五と、彼のIDが示されていた。


 * * *


 昼休み、食堂でざわつく集団に怪訝な目を向けながら、トレーに本日の昼食をのせてテーブルへと運ぶ。

 テーブルに着くと、ネームプレートにMS一〇四三一五と書かれた少年が僕に声を掛けてきた。

 先日の少年だ。


「隣、いいか?」

「構わないけど」

「あれ、何だと思う?」


 少年が先ほどのざわつく集団を指さす。


「さあ? 余り興味はないし」


 トレーに乗った一口大の鶏肉を口に運ぶ。


「そっか。まぁ知っておいた方が良い。あれ、多分同室の恋人が亡くなったんだよ」


 その一言で有希の手が止まる。


「«鳥籠»では、三十歳を超える男性は存在しないって話、知ってるか?」

「聞いた事も無いけど」

「そうか。根も葉もない噂レベルだと思ったけど、実際目の当たりにするとなぁ」

「どんな噂?」

「興味を持ってくれたか。まぁ、ここで話すのもちょっとな」


 有希はやれやれとため息をつくと、彼の話に乗ってみる事にした。


「分かったよ。なんで僕に目をつけたのかはよく分からないけど、それを含めて教えてもらうから」

「オッケー。その前にお前の名を教えてくれよ」

「あー。YT……」

「そっちじゃ無くて、本名だよ」

「東坂有希」

「サンキュー。俺は瀬名勝。宜しくな」


 瀬名は僕の言葉に満足そうに答えると、ご飯を掻き込んで立ち上がる。


「じゃぁ、夕方。講義が終わったら俺の部屋に来てくれ。あと、時々自分の本名言わないと忘れるぜ?」


 軽くウインクをして瀬名はその場を後にする。

 なんだか慌ただしい奴だったな。

 瀬名の第一印象はそんな感じだった。

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