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鳥籠の中  作者: さく
七章
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妊娠

「……というわけで、有希の希望としては、このままマッチング結果通りに、あなた方が番いになるのが一番だと思うの」


 美緒が勝と玲香に向けて言った。

 一緒に住む話を提案したが、最終的にはやんわりと断られた。

 そもそも、美緒と結婚し、そこに事実上未婚の姉がいるのは非常に気まずいとのことだった。

 当たり前といえば、至極当たり前の結果であった。


「それにしても、本当に貴方、有希とは何もなかったの? とてもそうは思えないんだけど」

「ああ、何もなかったよ」

「ふぅん、そう? まぁいいわ。どっちにしても二人とも、あと三ヶ月しかないから、急がないと大変よ?」


 同棲期間は半年だ。当然その間に子作りを済ます必要がある。

 子がなされなければ結婚出来ないのだ。


「君はまだ童貞だよね? 彼女はネコだったから安心して任せればいいわ。気に障ったら悪いけど」

「俺は別に気にはしないし、むしろそっちの方が有り難いっつーか。それよりも」


 勝は玲香の身のほうを案じていた。


「貴方、本当はただの馬鹿なんじゃないの? 自分の命が掛かっているのよ?」

「そうなんだけど、あー」


 勝が頭をガシガシと掻きだす。


「正直にいうと、有希が幸せになれれば俺はそれで満足なんだ。それに俺がこういう状況っていうのは知らないんだろう?」

「まだ、そこまでは話してないわね」

「それに、玲香さん、あんたもだよ」

「私?」

「そう。玲香さんは自覚無いかもしれないけど、あの見合いの場での危なっかしさは、見ていられない位のレベルだったんだよ」

「私、そんなに酷かったかしら」

「もう忘れたのかよ、実力行使しようとしてたじゃないか」

「……ま、まぁそうね。そうだったかもしれないわね」


 玲香が顔を赤らめて目を泳がせた。


「ちょっと、それ本当? 初耳よ?」

「まぁ、もう済んだことだし、いいじゃ無いか。だから、あんたの気の済むようにしてくれ」


 勝がそういうと、玲香はすっと立ち上がって部屋に戻っていく。


「もし、彼女が本当に何もしないのであれば、襲いなさい」

「と、とんでもないことを言う人だな。童貞に向かって言う台詞か? それは」

「ふふ、そうね。そんな度胸ないか」

「度胸とかそういう次元の話じゃねぇ。そんな事したら、有希に合わせる顔がなくなる」

「ふぅん。君は施設で育ったんだよね、その割にはずいぶんとまっすぐ育ったもんだ」

「ほっとけよ」


 むすっとする勝を美緒はにこやかに眺めていた。


 * * *


 それから一ヶ月程経過した。


「それで、貴方達はまだ出来てないの?」

「いざというと、男の人相手だと怖くなって」

「信じられない。いい? 私はもう妊娠したのよ? なに? 勝のほうがヘタレだったの?」

「いや、俺はその」

「あーっもう、じれったいな。あと二ヶ月切ってるって自覚あるの? 有希にサプライズ報告したいと思わないの?」


 玲香も勝も口をもごもごさせている。


「べつに勝がEDってわけでもないんでしょう? なら、これ」


 コトリとテーブルの上に小瓶を置く。


「これ。する前に気付け薬のように吸い込んで使う媚薬。これでもだめなら、もう本当に勝、貴方が玲香を襲いなさい。これは命令よ!」

「そんな酷い」

「じゃぁ、普通に腹くくってやりなさいよ」


 美緒は元々男性には興味がない。しかし、話に乗った手前、きちんと有希と子を成していた。

 それは自分自身のけじめだと理解していたためだ。

 もっとも、今ではその気持ちも徐々に変化しつつはあった。


「いい? 玲香。別に男に抱かれたって、気持ちに変化は無いわ。私が保証する」


 そういって、玲香の頬にキスをする。


「今、自分でも不思議な気持ちなのよ。有希も愛してるけど、玲香も愛してる。だから恐れないで」


 そういって、玲香の顔を両手で包み込む。


「……わかったわよ」

「それじゃぁ、私はそろそろ行くわ。いい? 次くるときにはきちんと報告出来るように!」


 美緒はそういって、東坂邸を後にした。


「姉弟そろって、本当に世話の焼ける」


 そんな美緒の愚痴を聞く者はこの場には居なかった。

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