2章 初めての女装
「雑誌のモデルだって!?」
俺はいつも仕事帰りにうちのモデル事務所『太田モデル事務所』に行くのが習慣になっているのだがある日突然俺の雑誌モデルデビューの話が舞い込んできた。
しかも雑誌というのも今人気No.1雑誌といわれている『GALAXY』だ。
「おい母さん『GALAXY』って大学生や社会人の女性向けの雑誌だろ?
俺中学生だぜ。14歳なの。知ってるよな?」
「そうね」
それがどうしたという風に話し、別の書類を見ている母さんに俺は怒りを覚えた。
「そうねじゃないだろ・・・
俺が女性になるっていうのも無理があるのにそれに年齢詐称までしろっていうのかよ!」
「まぁ年齢詐称とは失礼ね。
元々香山アリスは20歳ぐらいを想定してたのよ。
それがこんなに若くなっちゃったからそれをカバーできるように私なりにも色々と考えてるのよ。」
それから数日後事務所に行くと母さんの社長室には2人座っていた。
俺は仕事の打ち合わせか何かしているのかと思い、部屋を出ようとすると呼び止められた。
「いいのよ。翔也が帰ってくるのを待ってたの。そこに座って。」
俺は母さんに促され2人掛けソファーが2つ並んでいるところの2人の向かい側の母さんの隣に座った。
「この子かぁ。アリスちゃん。可愛いし巧く作れそう。」
向かいに座っていた綺麗な女性が俺の顔をまじまじと見てそう言ったので俺は少し照れてしまった。
「この子社長の息子さんなんですよね。期待できそうですね。」
女性に同意するようにその隣の男性もそう言った。
「翔也に紹介しとくわ。
こちらの方が古賀博也さん。香山アリスのマネージャーをしてくれる方よ。
そして、こちらの方が飯山優子さん。香山アリスのヘアメイクを担当する方。香山アリスを女性にするのは彼女の役目よ。」
そう言って母さんがその2人を紹介してくれた。2人は紹介すると彼らは立って俺にペコリと頭を下げた。
「そして私が香山アリスの生みの親であり企画や売り出し方を考える代表ということでこの3人が『香山アリスプロジェクト』参加者ってわけよ。
まぁ香山アリスの仕事が増えるとプロジェクトの人数も増やす予定だけど今のところはこの3人と翔也ね」
そう母さんが笑いながら俺に言った。
俺も簡単に自己紹介をして席に座った。
「じゃぁまず『香山アリスプロジェクト』最初の仕事は『GALAXY』の仕事ね。新人モデルということで特集も組んでページ貰えるらしいからね。」
そう言い、雑誌の説明を始めた。
俺も本格的に仕事が始まるということで少し緊張していた。
「それじゃ、試しに優ちゃん、翔也に化粧と髪してやって。服はそこら辺にある合いそうなのでいいから。」
いきなり母さんがそう言うから俺は驚いた。
今日いきなり女装始めるとは思わなかったからだ。
雑誌は今度の日曜日のはずだ。
「なんでいきなり今日からするんだよ。
日曜日だろ?撮影は。」
「何言ってるのよ。早めに練習しておくのは当たり前でしょ。
優ちゃんだってプロと言ってもあんたの肌の様子なんて触ってみなきゃ分かんないんだから。」
そう言われ呆気に取られてる俺は別の部屋に連れて行かれた。
その部屋にマネージャーの博也と母さんも来た。
「なんであんたらも来るんだよ・・・」
俺が少し照れて言うと、
「当然でしょ。翔也がどういう風に仕上がるのか楽しみだし」
母さんが笑いながらそう言った。
それから俺の人生初の化粧が始まった。
まずは化粧水をコットンにつけ顔を濡らしていく。
それから乳液だ。
優ちゃんの手につけた乳液を少しずつ顔につけそれを広げて顔全体に伸ばしていく。
「ん〜翔也くん肌きれいだし下地はつけなくて大丈夫ね。」
そう言いファンデーションを取り出した。
どの色合うかな〜と言いながらファンデーションのボトルと俺の顔を見比べている。
色が決まったのかファンデーションの液を取り出し俺の顔につけていった。
それからアイラインひかれたり眉かかれたりチークをつけられたりマスカラつけられたりした。
もう色々付けられすぎて同じことを俺にやれって言われても絶対出来ないな。
「よし、メイク完成。」
最後に口紅にグロスを塗られそう言われた。
やっと終わったのか・・・
疲れたなぁ。
「次髪型ね〜」
そう言いながらウィッグを選んでいる。
「翔也くんどれがいい?」
そう優ちゃんに聞かれたが俺はどれでもいいと答えた。
優ちゃんが選んだのは少し茶色めのロングストレートの髪だ。
俺の胸の辺りくらいまで長さがある。
「この髪って、人毛使ってるからドライヤー使っても大丈夫なのよ。」
そう俺に説明してくれる。
別にどうだっていいよ・・・
最後に服を選んだ。
せっかくだしとミニ丈のワンピースを着ることになった。
「よし完成。じゃ〜ん!!」
変な効果音を優ちゃんが出してくれ、俺は博也と母さんの前に出た。
母さんたちはポカンと口を開け俺を見ている。
「そ、そんな変かよ。そりゃ変に決まってるよ!!」
俺が少しショックを受けそう言うと
「綺麗だ・・・」
博也が顔を真っ赤にしてそう言った。
「すごく綺麗じゃない。流石優ちゃんね。流石私の息子だわ。」
母さんが笑顔でそう言った。
「翔也くん鏡見てないわよね。はい。」
そう言い、優ちゃんが大きな鏡を持ってきてくれた。
それは全身が映る鏡だ。
俺はそれで初めて自分を見て言葉を失った。
お、俺じゃない・・・
その鏡の中には肌が白くそれでいて大人っぽい。
しかし幼さも含んでいるどこのモデルにも負けないような綺麗な女性が映っていた。
土台は確かに俺なんだろう。
だって俺が動くと鏡の中の女性は動くんだから。
「ま、まじかよ・・・」
俺は信じられなかった。
化粧くらいでこんなに変わるとは思ってもいなかったのだから。
呆然と立ち尽くす俺を見て母さんが肩を叩いた。
「あんた身長はあるんだし。私に似て女っぽい顔立ちだしいけると思ったけどまさかここまで美人になるとはね。
流石優ちゃんねとしか言えないわ。
でもこれでモデルする自信ついたんじゃない?」
自信ついたどころじゃない余計に緊張してきた。
こんな俺とは違う別人のようなどっから見ても女性に見える俺がするのだから。
それから撮影までの数日。
毎日化粧をして、そのうち鏡の向こうの俺にも少しずつ慣れることができるようになってきた。