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こんとん  作者: 芳田文之介
11/12

その十一




さすがにカミも、これには面食らった。藪から棒に、なにをいいだすのかと、大きく目をみはって。


が、男は怯まない。なおも、いう。


「あなたと対峙したときから、妙な違和感、いえ、疑心暗鬼が生じていたのです。慈愛に満ちたカミを名乗る割には、不誠実この上ない態度だという、そんな疑心を。だから、こうして……」


「ほう」


間髪を入れず、今まで押し黙っていたカミが、やっと、口を開く。


「ならば、おまえは誠実だというんじゃな」


は⁈


話をはぐらかされ、一瞬、狼狽する、男。


すぐに、けれど、思い直す。


「だ、だから、話をはぐらかさないでくださいよ。今は、あなたのことをいってるんです」


もはや口の利き方が、ぞんざい。


「ふん、しょせん、人間なぞ、わしの複製にすぎん」


ふん、しょせん、人間なぞ、わしの複製にすぎん。


カミの、このことばを、男は反芻する。


実は人間がカミの複製であることぐらい、この男は、とうに認識している。


だから、それが、なんなんだーーという心情のにじむ目で、男はカミをねめつける。


カミはけれど、意に介さない。むしろ、ふてぶてしい態度で、ことばをつづける。


「つまり人間は、わしの心のありようをそっくりそのまま受け継いでおるということじゃ。いいもわるいものう」


だ、だから、あなたはーー。


男は怒りにかまけて 、思わず表白する。


「ーーいったい、なにがいいたいんです。わたしが、あなたのことを疑ったから、へそを曲げてしまったんですか。そうか、それで頓珍漢なことをいってるんですね……」


いや、それはちがう。カミは、なにもヘソなど曲げてはいない。


それよりカミは、今さらながらに、思い出していた。


そういえば、わしは、めっぽう忙しい身であったなあ、と。


だから、そろそろ、潮時かもしれんなあ、とも。


そうなのだ。カミは、そんなことを考えていたから、暫時ざんじ、口を利かずにいた。


そういうわけで、カミのものいいも、いささかぞんざいになる。


「ふん、つべこべうるさいんじゃ」


もっとも、カミがこういう態度をとるから、「あなたは、ほんとうに、カミですか」と、男に、疑いの目で見られるのだ。


が、相変わらず、カミは意に介さない。


むしろ、カミは「つまり人間は、わしの心のありようをそっくりそのまま受け継いでおるということじゃ。いいもわるいものう」と、こう思っている。


そう思っているからか、カミは男を、あえて、うっちゃる。


そうしておいて、ひとりごとのように、カミはつぶやく。


「そうじゃわしは、ここで、人間の相手などしているいとまはなかったんじゃ。そもそもわしは、いそがしい身じゃった。なのに、ちょいと長居をしすぎたようじゃ。こりゃ、いかん、そろそろ行かねば――」


つぶやいたカミの瞳が、怪しく、鈍く、光る。それが合図のように、背中にある翼がサッと音を立てて広がった。


これを目にした男は、慌てて、叫んだ。


「ちょ、ちょっと待ってください! まだ、まだいかないでください。この砂の大地に露と消えた息子のその、魂は、いったいどうなるんですか!」


それを、教えてくださいよーー涙目で、男は唇を噛みしめる。


がしかしカミの翼の、その烈しい羽ばたきは、いやがうえにも動きを増す。それが、辺り一帯に、砂塵を舞いあがらさせる。


ひどい砂埃ーー。


「お、お願いです……ゴホ」


もちろん、男は砂にむせる。それでも、男は訴える。


「な、なにか、ゴホ、なにかおっしゃってください。む、息子の、ゴホ、ゴホ、魂は、ゴホ、い、いいったい、ど、どうなるん、ですかああ――」


そう男が叫ぶか叫ばないうちに、カミの姿はこの場から、忽然として、消え去った。


人間の男と一陣の風ばかりを、この芒洋ぼうようとした砂の曠野に残して――。





最終的に、つづく


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