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こんとん  作者: 芳田文之介
1/12

その1




カミは死んだ……。


そんなふうに、いわれて久しい。


それにより、寄って立つべき規範や基準がどこにもない世界は今、混沌の淵に立たされている。


そんな世界の中心からやや東方に下った周縁に、ある小さな村があった。ほこりが降り積もった遺跡のようなさびれた村がーー。


そこでは、血で血を洗うような殺戮さつりくが、それこそ毎日のように、ひねもす繰り広げられている。


その挙句の果てに、崩れた瓦礫の下敷きになって、なんら罪のない小さな命が奪われるという、やりきれない現実すらあった。


その小さな亡骸なきがらにすがりながら、慟哭どうこくする女。


傍らで、その女のか細い肩に手を添えて、この理不尽な現実に、ただ力なく首を振るしか術のない男。


この村では、もはやこうした日常が常態化し、あろうことか、それが自明のものとなっていた……。





ああ、カミよ。


憔悴しきった女の傍らにいる男が、どす黒い、墨汁を流したような天を仰いで、さっきから、長い間、カミに祈りを捧げている。


ーーカミよ、あなたが、この世界の創造主、絶対唯一の存在であられるなら、わたしの、この哀しみの声を、どうかお聞き届けください。


大きく両手を広げて、天に向かって訴えていた男は、その姿勢のまま、乾いた砂の大地にぬかずいた。


静寂が、一瞬の間、砂ぼこりの舞う大地を支配する。


すると、どうしたことか、不気味な暗天に、スッとメスを入れたような、そんな一筋の切れ目が入った。


最初は、わずかな切れ目だった。それが、あれよあれよという間に、大きく広がったかと思うと、なんと、截然せつぜんと区切るように二つに割れたではないか!


さながら、神話の中に出てくる、あの海のように……。


やがて、その割れ目から幾筋もの閃光が、闇を切り裂き、しのずく雨のように大地に突き刺さった。追いかけて、耳をつんざくような雷鳴が、辺りに轟いた。


それが、しばらくの間、幾度も、繰り返された。


するとその切れ間から、鋭いとげのような閃光がふいに、雷鳴とともに走った。と思う間もなく、それが、電光石火の如く、男のからだを突き刺した!


「ううっ」


思わず、男はその痛みにうめき、乾いた砂の大地に、ばたりと突っ伏してしまった。


そうやって、卒倒した男は、やがて、奇妙な世界へと否でも応でも連れて行かれるのであった。




つづく



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