長雨と女神様と内緒話④
「サラ、お前はカンジの生きる希望になっていたのじゃ。
癌の告知を受けた時には残りわずかと言われていたのに、
〈あと少しだけ〉
〈サラが笑えるようになるまでは〉
と命を乞うようになったわ。
あれ程に死を望んでいたのに、人間とは不思議なものよ。
だけど、退院してもお前は心から笑うことは愚か、心の問題なのか温かい食事に手をつけようとはしなかった。
〈もっと早くに見つけてあげれれば〉
とアレはまた嘆いていた。
ただな、ヤツの身体はこの時には既に限界が近かった。
そんな時に
〈もう弱音は吐きません〉
〈痛みにも耐えてみせます〉
〈私のものは何でも差し出します〉
〈だからサラが10歳を迎えるまでは…〉
と願い、
妾はカンジから若き日の記憶と、左耳の聴覚、痛覚と引き換えに、妾はその願いを聞き届けた。
カンジ自体は癌の進行によるものだと思ったったようだがな。」
確かにおじいちゃんは左耳が悪かった。
何処かにぶつかっていた時も、転んだ時も痛みを感じている様子は無かった。
"どんな子供だった?"と聞いた時"忘れた"と言われたのは私に気を使っていたのだと思った。
祖父を写していた瞳は視界が滲む。
「故に、カンジは癌に蝕まれても、痛みも感じず、最後の時でさえ眠るように逝ったのじゃ。
お前が何も出来なかったのではない。
カンジが何もさせなかったのじゃ。
あやつ自身も痛みすら感じず、どれだけ身体が蝕まれていたか知らなかっただろうしな。」
遠くを見つめるような、何を見ているのか、何かが映っているのかわからない、そんな目をしたアン様は小さな頃から知っているおじいちゃんを何処か特別に思っていたのかもしれない。
その感情がなんと言う名前を持っていたのかは誰にもわからない。
「それとな、これは本来人間に話していいことではないんだが、お前は地球を離れたからな。…カンジの魂は新しく転生し、新しい人生を歩み始めたぞ。愛するあの小娘の魂のすぐ近くで。
この先どうなるかは分からんがな。」
アン様は態々、おじいちゃんの事を教えに来てくれたんだ…
あの時、私が何も気付けなかったからあんな結果になったと思ってたけど、おじいちゃんは全て知ってたんだ…
安堵からなのか、愛されていたと感じたからなのか、ただ溢れる涙を止めることはできなかった。
………
……
…
「で、妾の供物はいつ用意するのじゃ。」
涙が止まって早々に、目の前にはドアップのアン様の顔が…
「それは、冗談ですよね?」
今さっきまでの感動は何処に?
「妾が冗談など言うと思うか?」
「…言いませんよね。」
とわ言え、そろそろ寝ていたルヴァンも目を覚ます頃だろうし、何か食べやすいものを…
何を作ろうか…
驚きで止まった涙を拭い、洗面台で顔を洗い流せば気持ちを切り替えるだけ。
大丈夫、おじいちゃん。
私はおじいちゃんの自慢の孫で入れるような人生を生きるから。




