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長雨と女神様と内緒話②


アン様から紡がれる言葉の数々は私と出会う前の祖父と、出会ってからの祖父の顔だった。


◇◇◇


「カンジは幼い頃から、妾が地球での寝所として使っていた社に何かあるたびに訪れては、やれ


〈勝負に勝ちたい〉


〈合格したい〉


だ何だと願っては、お礼だ何だと菓子を備えていくと言う事を繰り返していた。


それなのに30過ぎても一向に色恋の願いをする事もなく、浮いた話も聞くこともない。

此奴は1人で生きて1人で死んでいくのだな。と妾は呆れかえっておった。


そんな時に〈14も年下の職場の小娘に恋をした〉と報告に来てからはウジウジ、ウジウジと


〈彼女に好かれたい〉


〈こんなおじさんに好かれても〉


だ何だと零しては、相談料だとまた菓子を置いて行った。


そんな女々しい相談など、妾には鬱陶しくて鬱陶しくて、頭がおかしくなるかと思ったくらいだった。

早く何とかなって静かにしてくれないかと


『早く思いを告げよ!』


『全く、お前と言う奴は!』


と喝を入れてやってたものだ。

勿論ヤツには妾の有難い言葉など届いてはいなかったけどな。」


フンと鼻を鳴らす彼女は、面白くない事を思い出したとばかりに顔をしかめる。


「女々しい相談が惚気に変わったのは其処から2年ほど経った頃だった。

小娘と


〈思いが通じた〉


〈デートをする〉


だ何だと報告に来ては嬉しそうにしていた。


付き合いが3年を迎えた頃に


〈結婚します〉


と報告に来たカンジは浮き足立っていて、年甲斐もなく情けない顔をしておったぞ。」


ケラケラと笑うアン様はその顔を思い出しているのだろう。


「ただな、中々子を授かる事はなかったが、それでも幸せそうだった。

娘の身体が元々弱い事もあり〈2人で余生を過ごそうと思う〉と一緒に報告に来ておったな。

それから少し経った頃、娘が〈身篭った〉と新しい報告をしに来ておったな。


ただその幸せは長くは続かなかった。


子を産んだ娘は元々の身体のこともあり、出産後は見る見る衰えていき、娘が3つの祝いを迎える前に生を全うした。


あの時のカンジは


〈子を望まなければ〉


〈彼女は幸せだったのか〉


〈彼女を守れなかった〉


と後悔の言葉ばかりを口にしよった。


それでも、娘が身体を張ってまで残した忘れ形見を大切に育てておった。」


それが私のお母さん…

少し複雑な気持ちになりながらも話を聞いていく。


「ただな、やはり年を取ってからの子という事と、忘れ形見という事で大切にし過ぎて、遠慮も多く、気づいた頃には2人の間には大きな溝ができておった。


お前の母が18の時、心の拠り所としていた男に恋をして、お前を身篭り、家を飛び出して、またカンジは嘆いておった。


そんな時、カンジは癌だと告知を受けたのじゃ。


その後、気が触れたかと思うくらい、嬉しそうに妾に


〈早く妻に会いたい。〉


〈早く迎えを。〉


と失礼極まりない願いを唱えては帰る。そんな日々を送っていた。


自分から命をたつのではと言う危うさもあった。

かと言って時々現れるカンジに


『妾は死神ではない。』


『不敬なヤツめ。』


と何度も言ってやったが、ヤツには聞こえないからな。」


おじいちゃん…。


「またウジウジとしているヤツに耐えきれなくなり、妾がお前達親子を探してやったのだ。


と言っても、お前達を見つけてカンジに居場所を伝えようとしても伝える術がない。

そもそも神が人間に早々力を貸してやる義理もない。


と暫く様子を見て過ごすことにした。」





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