招かれざる来訪者③
「おぉ、フィル!お前も自分の婚約者に会いに来たのか!」
ん?
王様?お知り合いですか?
そして婚約者?
ん、ん、んー?
おさらいしてみよう。この場にいるのは、王様、宰相、護衛(マッスルな彫りの深い人と、浅黒いちょっと綺麗目な人、間違ってなければどちらも男性)、それから、ルヴァンと私。
と目の前のフィルと呼ばれた青年。
え?
もしかして目の前の方女性ですか?
そうしたら婚約者って護衛のどちらかってこと?
髭とハゲは違うでしょ?
キョロキョロとあちこちを忙しく見ていれば、"アッハッハ"と王様の笑い声が聞こえた。
「フィル、主の婚約者は中々肝の座った令嬢故、手を焼くやもしれんな。」
ん、令嬢?
ちょっと待て?アレ?護衛のどちらかが女性だったの?
それならマッチョの人ではなく、浅黒い人かな?どちらかといえば中性的な顔立ちだし。
はっ!まさかルヴァン?!
なんて、イヤイヤ。
一人百面相をしていたら、王様の口から新たなる情報が…
「フィル、先程から彼女の料理を食んでいるが、このような料理は初めてだ。フィルの妃になれば我国の食は素晴らしい進化を遂げるな!」
ん、料理?
ってコレ?
試食用に出した惣菜達をみて蒼然とする。
「あの、王様?婚約者って言うのは…?」
「主の事だ、サラ・クオン。」
「「!!!」」
ルヴァンも同じく驚いたようで、豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「陛下、そのような話は初めて耳にしましたが?」
「初めて言ったからな。」
「何故、サラが彼の婚約者なのですか!」
「刻人は王家縁のものと婚姻するのがセオリーだろう。だから私の一人息子のフィリップ・ハウフロートの妃にしてやると言っているのだ。」
何、自慢げに言っちゃってるの?コイツ?
やっぱり無能なのかしら?
「だとしても、刻人の恋愛は個人の自由だったはず!それを初めから決め付けるとは、何事ですか!」
ルヴァンが凄く怒ってくれている。
「フィルも以前彼女の料理を食し、気に入っていると言っていたし、彼女は王妃の座を得るわけだし何も問題ないではないか!」
「ですが、それは聖約に背いています!」
「彼女にとっても良い話なんだから、背いてなどいないだろう。寧ろ良い話だと思ってもらいたい。」
唖然とする私の横で
ブチィッーーーっという音が聞こえた気がした。
あ、今、ルヴァンの何かのスイッチか入った。
辺りの空気が2・3度下がった気がする。
「陛下、残念です。まさか、使者の立会いを忘れただけでなく、刻人の自由まで奪おうとしているなんて…。」
笑っているはずなのに、その目は全く笑っておらず、変な圧まで感じるほどだ。
「私は、価格設定が終わり次第、またアンジェリカ様の元に此度の事を報告に向かいますね。ハウフロートの王は素晴らしいと。」
あれー?可笑しいなー?
全く、そう。全く、素晴らしいと言う雰囲気ではないというこの空気、怖すぎる。
そしてその矛先は、飛び火して私の方にまで来た。
「ねえ、サラ、サラはフィリップ殿下と結婚したい?」
「え?」
「結婚したいの?」
「え?いや、よく知らないし?」
「で、結婚したいの?」
なんで私が責められる形になってるの!?
「今はそんな事、考えられません!!」
と大きな声で答えれば、少しだけ満足そうにして、更に王様に言葉を続けた。
「彼女が望んでいない結婚を、強制的に斡旋したとなれば、アンジェリカ様はどのような褒美を、陛下に授けてくださるでしょうかね?」
今日一番の黒い笑顔を浮かべ、少し、否、普通に席に着く王様に斜め上から視線を送るその姿は、とても威圧的な姿勢であった。
王様は血の気のなくなった顔でガクガクと震え、
「え」「あ」「その」
なんて言っているがあそこまで好き勝手言ったのだ。
庇ってあげる必要はないとみた。
そして宰相は自分に火の粉がかからん事を願い、口を出すことができない。
護衛達も、手を出すなと言われている手前、王にとって不敬にあたる行為をされていたとしても、口を出せる雰囲気ではない。
私だってそうだ。
先程まで私には甘かったルヴァンの矛先が、一瞬でも此方に向かってきたのだ。これ以上、この髭王に巻き込まれたくない。
誰もが息を飲むその空間で
「お前如きが、俺の妃になれるんだ。感謝こそされても文句を言われる筋合いはない。」
あ、うん。
この王にして、この王子ありってね。
そして、部屋の体感温度がまた下がったのを感じた。
「それ、食ってやる。準備しろ。」
総菜を顎で指しながら偉そうに指示してくる。
くっ…
よくよく考えたら、コイツはこういう奴だった。
何でさっき"ありえない"って即答しなかったんだろう。
と、数分前の自分を恨んだ。
明けましておめでとう御座います。
2019年ものんびり更新していきます。
どうぞよろしくお願いします。




