招かれざる来訪者①
なんでこうなった…
「して、これはどの様な料理かね」
お店の奥の、ちょっとしたテーブルと椅子。その椅子にどーんと腰掛けるら目の前の偉そうに踏ん反り返った、丸い髭ちょびんは、フォークで綺麗に焼けたと喜んだ卵焼きを指し、目の高さまであげて物珍しそうに角度を変えて眺めている。
「あー、えーと、卵を焼いた料理です…はい」
「うぬ、だから黄色いいろをしてるのだな。食しても?」
「…どうぞ」
料理の説明…と言っても材料を説明したところで、料理なんてしないであろう髭ちょびんには通じないものが多く、あとこの世界に無い食材も多数あったみたいで、メインの食材と大まかな調理法のみを伝え、食べていいか問われてどうぞと返す。そんな事を繰り返えし
隣に立つ、これまた偉そうな人も、隣に立ち、ずっと目を光らせている。目の前の髭ちょびんが総菜料理を食べる度に如何ですか?と声を掛け
「其方も食せ」
と言われては口に運んで目を見開いている。
という茶番が、十数回も繰り広げられている今の現状は何なのだろうか…
遡る事数時間前ーーー
ルヴァンがアン様の元に行ってから、1週間が経とうとしていた。
一人になると途端に手抜き料理が増え、始めに頑張って作っていたストック料理を食べる事が増えていた。
それでも朝食後に、明日に控えた国の重鎮との面会、と言う名の価格決定の話し合いの場で、実際の料理を食べてもらい調理法や実際にかかるコストから、正当な値段を決めてもらおう、と下準備を進めていたところで来客を報せるベルが鳴った。
ルヴァンな訳はないし、リンランはきっと今日も仕事だろう。
ケインさん一家かな?
そんな気持ちで
「はーーい」
と扉を開けば、いつもの通りは、何やら仰々しい御一行様で埋め尽くされて居る。
その先頭に立つ、髪の生え際がちょっと…な背の高い、ちょっと威張った感じのおじ様が
「サラ・クオンであるな」
と話しかけてきた。
何で名前を知ってるの?と違和感を覚えながら、見るからに高貴な方とその連れに
「そうですが?」
と答えると
「王の時間が取れたため、今からここで面会を行う。」
と、唐突な申し出をされた。
「はい?」
と、目をパチパチと瞬かせて尋ねれば、怪訝そうな顔をされたが、その顔をするのは本来私だと思う。
知らせも無く急に来といて、有難いだろう?的な顔をされても、それにルヴァンも帰ってきてないし。
「まだ準備が出来てないので予定通りでお願いします」
とお断りすれば、威張った人の後ろから声がする。
「主は面白い事をいう。」
ほっほっほ
とまるで音楽室に飾ってある、某音楽家の如く綺麗に巻かれた銀色の髪、その上には王冠、サンタクロースのような髭、赤いマントをなびかせながら丸いお腹を突き出した小さなおじさんが、楽しそうにこちらを見ている。
あー、多分王様ですよねこの人。
王冠とマントがなかったら、絶対にただのおじさんだけど明らかに連れてる一行がおかしいもの。
理解はしたものの威厳を感じさせない目の前の髭ちょびんに
「明日来て頂けませんか?」
と伺いを立ててみたけど
「余は今日がよい」
「支度ができてません」
「今からすれば良いではないか」
ちょっとこの国大丈夫かな?ってレベルで王様自分の意見全てが通ると思ってますけど…
小さく溜息をついて、全員は家に入れないことを伝え、一階部分に王様ともう一人偉そうな髪の毛きちゃってるおじさんと、護衛二人が入ってきた。
内装をまじまじと見ながら、ほう、とか、へえ、とか言っているが説明してあげる気にもなれなかった。
………
……
…
アン様は神の加護があると言っていたけど今はそれすらも嘘な気がする、神の加護の結果がコレならば、私は一平民にしてもらった方が幸せに違いない。
目の前で未だに続けられる光景を見て、ガックリと肩を落としたところで本題に入る。
「価格の相談をする為の面会でしたので、これ以上は料理のご用意はありません。早速ですが料金の相談を始めさせていただいてもよろしいですか?」
「話を聞いた料理の半分も食してないぞ!」
「ええ、ですから本日は料金の相談のみの予定でしたので」
「全てを作れ!」
「それは出来かねます。」
「何故だ!」
「王が突然来訪日を変えたからです。」
臆することなく、此方は一切引く気もないと強く出る。罰するなら罰すればいい。
そんな気持ちで対峙する。
ふん、と腕を組んで髭ちょびんを見下ろせば、ギロッと偉そうな生際キチャッテル人に上から睨まれる。
もーどうにでもなれ!ってヤケを起こしているところで二階からドタバタと駆け回る音が聞こえてきたと思ったら、駆け落ちる様にその人が現れた
「ルヴァン…」
「…サラ大丈夫?」
ルヴァンは周りにいる人物と私を見て、状況を確認すると微笑み髭ちょびんに話し始めた。
「陛下、此れはどういう事でしょうか。ご説明頂けますか?」
ニッコリと微笑むルヴァンと違い、引きつった様な笑みを浮かべるこの国の王は
「余は時間が出来たので早めに来てやっただけだ」
「ほう…刻人と国の重鎮が会う時は必ず使者の立会いのもと、という神との誓いをお忘れで?」
「…そ、そちが勝手に居なかっただけであろう。」
「そうですか、それは失礼致しました。ただこの事はアンジェリカ様のご意思に反しますのでしっかりと報告させて頂きますね。」
「なっ…」
「勿論、私が居なかったせいであるとの事もお伝えさせていただきますが、元々のお約束の日であれば私が居た事も報告させて頂きます。勿論、其方の宰相殿の事もご報告させて頂きます。」
「それは!」
「アンジェリカ様はお優しいですからきっと素晴らしい天罰を陛下に送られる事でしょう、それから宰相様にも」
黒さを纏った笑顔を崩さないルヴァンに比べて、顔面蒼白な2人はカタカタと震えている。
「よっ、余は、そろそろ、か、か、帰ろうかの。」
「そうですね、そう、そうしましょう。」
帰ろうとする2人を見て扉の前に立ち塞がったルヴァン
「いえいえ、ゆっくりしていってください。それにまだ価格の相談も終わってない様ですし、しっかり決めて頂かないと。」
ひぃと小さく声を上げる2人を見て護衛がルヴァンに剣を向ける
「ルヴァン!」
危ない、と続けようとしたところで
髭ちょびんが必死の形相で
「辞めろ!剣を下ろすのだ!」
と慌てて護衛の剣を下ろさせる。
上がる心拍を手で抑えるようにしながらルヴァンを見ても、彼は顔色一つ変わっていない。
自分には何も害がないと分かっている様に…
「さあ、お席にお戻りください。」
「……」
「さあ」
自分の意思が全てと、我儘をとうしていた髭ちょ…王様が、先程座っていた椅子まで戻り大人しく腰を下ろした。




