チーズくっきぃsideリンラン
今回の話は今後出てくるキャラ目線ですので
気になる方は飛ばしてください。
カラン、カラ〜ン
来店を報せるベルが鳴る。
「いらっしゃいませ〜っ」
いつもの様ににっこりと微笑んで迎え入れれば目に入った人物は人懐っこい笑顔を向けて此方にやってくる。
数日前に顔見知りになった少女である。
「リンラン今日はお願いしてたものを買いに来たの」
「ふふ〜、そんなに慌てなくてもぉ〜取置きしてるから無くならないよぉ〜」
「あーん、もうリンラン可愛い!」
「ふふふ〜ありがと〜」
ニッコリと微笑めばその場で顔を抑えジタバタと暴れている。
なんでこんな反応を…
「こ〜らッ!他のお客さんの迷惑になっちゃうでしょ〜、めっ!」
と注意してもちょっと照れたように笑っている。
はぁ全く響いてない。
ほかのお客さん(男性)なら私にデレデレして来るのは当たり前だけど同性に嫌われるタイプの私からしたらどうしてこんな反応をされるのかわからない。
本当に不可解だ。
今、目の前にいる漆黒の髪の少女は聞いた年より少々大人びた考えをしているが容姿と行動は少し幼く見える。と言うか幼い。
樺茶のクリッとした瞳は感情を素直に伝え嘘をつくことが苦手だと物語り…否、顔全体が感情を表していると言う方がしっくり来るくらいだ。
彼女は高い位置で結ったストレートの長い髪に白いシャツ、濃紺のフレアスカートにスクエアトゥとシンプルな格好をしているのにどこかお洒落に見える。
ただ、よく見ればシャツの襟と袖には綺麗な刺繍が施されていて良いところの娘だと主張しているように見えるが彼女にそんな気はない。
以前それとなく尋ねた時高級品とすら気付いてない彼女に軽く目眩がした。危機的能力が少ないと言うか物の価値を知らないがと言うのは恐ろしい。それ故の行動だとは分かるが何故か私の方が危機感を覚えガラにもなくついついお節介を焼いてしまう。
まぁそこまで見てるのは余程服やお洒落が好きな女性かタチの悪い輩だけだろう
主に身代金目当ての賊とかかな?その辺の小物は気づきもしない
そもそも彼女は特別なのだ。
そんな彼女に下手に手を出すものは居ないと分かっている。分かってはいるがそう分かっていても懐に入り良からぬことを考えるものがいないとは言えない。
いつになったら彼女は自分の此方に来た意味を知るのだろう?
「ふぅ〜」
「リンラン悩み事?」
ついつい吐いてしまった溜息を誤魔化すよう最近のどうでもいい話をふる
「そうねぇ〜…正面のパン屋のダダンと斜向かいの肉屋のトルーからデートに誘われちゃって…」
嘘ではない。けど溜息の原因でもない。
ただ私からは本当の事は教えてあげられない。
「モテるのも大変なんだね」
「モテてるわけじゃないのよ、きっと私を揶揄ってるのよ〜」
「リンランは可愛いし、優しいし絶対本気だよ!」
「そぅかしら〜」
そんな事は知ってるんだけどね。
リンランはモテモテだなーなんて平和そうに笑ってる彼女を騙していることになるのだろうか?
けれどもぶりっ子も腹黒もについてはどちらも私だしアレについては私には口出しできる事ではない。
秘密をもたずに生きていけるものなんてきっと少ない、もしそんなものがいるとしたらそんなのは理性のない獣だろう。
困ったように笑えば彼女は自分の言った事を本気にしてないと捉えたようで必死に私の魅力について語って来る。まるで口説き落とそうとされてる気分になって笑えてきた。
「同性に此処まで口説かれたのは初めて〜、ふふふっ」
と笑えば大きな身振りで恥ずかしそうに
「そ、そんな…ちがっ…」
少し悲しそうに
「やっぱり…」
と言えば更に慌てて
「イヤ、違くなくて…ッッッ!リンランは可愛いよっ!!」
なんて声高らかに褒めてくれる
我慢しきれずに口元を押さえて声を殺すように肩で笑えばからかわれたと気付いた彼女は頬を大きく膨らませながら怒り終いには笑い出した。
嗚呼、彼女にはこのままで居て欲しい。
変わらず素直なままで…
時折見せる寂しそうな顔は気になるけどいつかそんな顔も見ることが無くなればと願う。
楽しいお喋りがひと段落したところで彼女はそうだ!と思い出したように箱を取り出して渡して来た。
リボンを解いて蓋を開ければ中には大凡均等な大きさで厚みはあまりない小麦色の何かが入っている。
すん。
顔を近づけて匂いを嗅げばこれは…チーズ?
「これは…?」
小首を傾げて問いかけるように見つめれば何やらハワハワ言いながら食べ物なのだと教えてくれる。
コレが食べ物…。
初めて見る不思議な食べ物にまた小首を傾げる。
パン…にしては小さいし、膨らんでいない。
チーズにしては弾力もなさそうだし芳ばしい香りもする。
不思議そうに眺める私をニコニコ見つめながらチーズくっきぃと言うおかしだと教えてくれた。
「甘いのが苦手かもしれないから甘すぎないのにしたんだ!」
食べて食べてと言わんばかりにキラキラした瞳で此方を見つめてくる
うっ…
コレで食べなかったら悪者じゃない。
このリンランがそんな事出来るはずない。
「頂くわねぇ〜」
と一枚のソレを齧ればしっとりとしていて口に入れるとホロっと溶けるように口一杯にチーズの風味が広がっていく。
それと小麦粉の甘さ?
あまりの美味しさにうっとりしながら食べればついもう一枚、もう一枚と手が伸びてしまう。
「美味しい」
つい素の部分が出てしまった。
「ありがと〜」
と取り繕えば気に入ってもらえたことが余程嬉しかったのか素の部分が出た事など気づいた様子もなく褒めて褒めてといった様子で此方を見ている。
本当にこの子は…
もしも悩んだりする事があれば少しくらいは相談に乗ってあげよう。
そう、ほんの少しだけ…
そんな事を考えながらなんでもない話を続ければ日は暮れまた来店を報せるベルが鳴る。
此方に向かって挨拶をする彼は彼女のお迎えだ。
「仕事中なのに話し込んじゃってごめんね」
「大丈夫よ〜今日はヒマだったもの〜」
「リンラン良かったら今度遊びに来て!」
「ありがと〜」
またねーと大きく手を振りながら何度も振り返りどんどん遠くなっていく二人を見守っていると時々彼女がつまづきそうになり彼が支えて笑いあっている様子が見られた。
「私も良い男捕まえよー」
つい漏れた本音に驚きつつも笑ってしまった。
彼女の正直な反応が移ったみたいだ。
店内にもどり残りのチーズくっきぃを食べれば温かい味がした。
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今回は別のキャラ目線でお送りしました。