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技術的特異点、そんな言葉が囁かれたのは今からそれほど昔のことではなかった。人工知能、モノのネット化、深層学習。これらが人の目に触れる様になり自分達の作り上げた存在が、果たして道具なのか、それとも自分達に変わる新たな存在なのか。そんな議論も活発になされていた。それは政治家や最先端の学者だけではなく、芸術、文化、そして専門的な知識を持たない自分達の間でも交わされた。それほどに、それこそ鼻先数センチのところまでに迫っていた問題と捉えられていた。
しかしそれは大きな間違い。解釈違い。既に顔面から飛び込んでいた問題だった。
自然界には正比例的な増加は無く、指数関数的な増加しかないとある学者は言った。それは進化に対しても言えるのだろうか。少なくとも自分達には言えるのだろう。遥かなる時間を掛け陸に上がり、長きに渡る時間を掛け二足歩行を手に入れた。その後多くの時間を掛け道具や文明のパラダイムシフトを迎えて来た。そして着実にその速度を上げ、ある一点を境に自分達の理解を超えた。十年を掛けて作り上げた世界は、五年を以って新たな世界へと変わる。五年の歳月を掛け作り上げた技術は一年で模倣され二年で新たな技術に替わられる。また、それに怯えブレーキを掛けることなど出来る筈もない。
つまり、シンギュラリティなんてものは議論を始めた段階でとっくに止められる一点を超えていたのだ。だから結局のところ関心や議論、期待や不安、怯えと崇拝、そんな感情や意見なんてものを無視し、峠を越えたジェットコースターの様な速度で自由に進んでいく。
加えて言えば、自分達の歴史は適応の歴史だ。世界の変化に適応出来なかった者たちは世界から消えて行く。自分達の理解を超える変化を見せる世界で自分達はこれからどれだけ適応して行けるのだろう。
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