土砂降りの帰り道
「……あ」
仕事を終え外に出た裕二は、強い雨に声を洩らす。
自分も傘を持っていなければ、花にも持たせていなかった。
目の前にあるコンビニへ足早に移動すると、傘を2本買って花の元へと急ぐ。下手をすれば、彼女は雨に濡れることもいとわず外へ出てしまうだろう。
時間を確認し、まだ学校にいることを願った。
◆ ◇ ◆
「……」
さようなら、と、大きな声で挨拶しながら親に手を引かれ帰っていく上級生と下級生。
それを横目で見て、また退屈そうに絵本に目をむける。
何時になれば帰れるだろう。そんなことを考えながら。
「花」
不意に呼ばれて、不思議そうに顔を上げる。この学校に自分を『花』と呼ぶ者はいないはずだ、と。
「え……」
目に映った姿に、少し動揺する。足元は随分と濡れていて、息を切らしている、眼鏡で、仏頂面の男__裕二がいたことに。
なぜこんなに疲れているのだろうか。普段は遅くまで仕事をして、バイクで帰ってくるくせに。
「はぁ……傘。渡してなかっただろ?」
「……」
花はまた少し目を丸くして、じっと裕二を見る。
「んあ? え、持ってきてたか?」
誤解した様子の彼に慌てて首を振ると、彼は不思議そうに顔を傾けた。
「ゆーくん」
「ん?」
そんな相手を呼んで、少し言いづらそうに口ごもると、ぽつりと言葉を溢す。
「……ありがとう」
普段口数の少ない彼女が礼を言ったことに驚いた素振りは見せず、裕二は満面の笑みを見せた。
「おう」
◆ ◇ ◆
「あれ、高嶋さん?」
不意にどこか聞き覚えのある声を掛けられ、裕二は嫌そうな顔で振り返る。
「田中……」
「なんですかその嫌そうな顔はっ!?」
「うるさい」
案の定喧しいバイトの美佳にため息を吐くと、珍しく裕二の服の裾を花が握りしめる。
「? どうした?」
「……」
答えない彼女に何か声をかけようとすると、その裕二を遮り美佳が大きな声を出した。
「あーっ! 噂の花ちゃんですか!? かわい〜」
それと同時にしゃがみ、花と目線を合わせる。しかし花は驚いて、1歩裕二の陰へ身を潜めた。
「お前もうちょっと落ち着けや。花ビビってんだろ」
「え!? 花ちゃんごめんね!?」
「人の話聞いてたかお前」