4話 幼稚園に入りました。
3話、視点は勝です。
3歳になった春。母に連れられて幼稚園という場所に来た。まあ幼稚園といっても家から徒歩で5分もかからない。帝国王宮の聖門から我が王の間までが15分かかるのでおよそ3分の1の距離。家族と外へ出る度に思うのだが、この世界はヒトが密集しすぎている。自宅の隣にある摩天楼のような高さの箱からは、毎日朝多くの同じ格好をした男や女が同じような服を着て外出していく。することがない朝の時間に見ていて飽きないものの一つだ。彰浩も同じような服装で出ていく。きっとアベルにおけるメイドや帝国調理師団のような仕事についているのだろう。あの摩天楼のような建物は察するに宿舎のようなモノと見た。しかしあれだけ巨大な宿舎を作るほどに働き手が必要な場所があるとは、国の規模はアベルの帝国よりも大きいらしい。
しかし、なんだろうかこの異質な建物は、外では謎の棒や傾斜のある台で子供たちが騒いでいる。その奥には人肌のような色をした細長い平屋が連なっている。全体的に狭い。子供を遊ばせるのになんだ、この窮屈な場所は?しかも地面は砂利だ。ふつうは芝生であろう。謎の棒は鮮やかな色をしているが地面は灰色一色。草の色がない。つまらぬ場所だとおもった。自然を感じない。
さて母に連れられ部屋の1つに入ると中にはよく肥えた中年が一人座っていた。こちらを確認すると立ち上がり寄ってきたので挨拶をしておく。
「こんにちは、勝といいます。よろしくお願いします。」
とりあえず母から教わった挨拶なのだが、頭を30度下げる。頭をどれ程下げるかによって意味合いに違いがあるらしいが、母に教えてと言ってもまだ早いといわれた。つまりは大人がする作法なのだろう。前世でも子供に礼儀・作法を教えたのは5歳を過ぎてからだった。教育には手順が必要だからな。そのときはおとなしく引き下がった。
「おや、これは礼儀正しい。いいお子さんですね。優秀さがうかがえます。お母さまの教育の賜物でしょうか。」
言っていることの意味がよくわからんが、表情と口調から察するに世辞だろう。ただし、本音であるか嘘であるか判別のできない高度な世辞…。こいつは中々に警戒する必要がある。
「いえ、うちの子は好奇心が強く成長も早いらしくて何でもいつの間にか覚えていたりするのです。」
母が初めて聞く口調と意味の分からない単語をしゃべった。やはり私に教えていたのは子供向けのしゃべり方なのか。まあ悔しくはあるが、あまり年に不相応なものを身に着けても周囲から不審がられるかもしれないし、よしとしよう。
「そうなのですね。勝さんはお勉強、好きかな?」
中年が話しかけてきた。息が臭い。鼻がもげそうだ。しかし質問には答えなれば。
「はい。好きです。文字を書く練習は毎晩しています。」
中年はその答えを聞くと母と私を椅子に座らせ、母に向かい話し始めた。
「さてお母さま、これから当園での簡単なルールを説明します。勝君も少しの時間だから聞いていてねー。」
私に話しをするときだけ話し方が極端に変わる。気持ち悪い。腹が立つのでやめてほしい。
「当園は教育に重きを置いています。朝開園の9時から10時までは外での遊戯を楽しみながら体を動かしていき、10時から12時までは算数基礎と日本語の授業をしています。お昼は全員保護者が作製したお弁当です。キャラ弁は子供同士で喧嘩が起こる可能性がありますのでやめてください。冷凍食品は毎回2品目まで入れて結構です。ただし、おかずは少なくとも4品目以上、栄養バランスも考えてください。いいですか?昼食後は13時から最後の一時間、ダンスの練習を行います。14時前に迎えに来ていただければ結構です。ご質問はありますか?」
ほぼほぼ理解できなかったが、とりあえず。
「あの、日本語授業というのは何を学ぶのでしょうか。あと、算数とは何ですか?」
中年が驚いた顔でこちらを見ている。何かいけないことをしたのだろうか。恐らく3歳児らしからぬ態度をとってしまったのであろう。しかし本当は56歳のヒト族なのだから頭でわかっていても3歳児のように過ごすのは難しい。今後の課題だろうな。
「えーっとね、小学生になるための基本的な会話の仕方とか勉強内容になるかな。算数というのは物の数を簡単に数えるためなどに使うものだよ。君は本当に頭がいい子のようだから、すぐに理解できるでしょう。」
ほう。算数というのは要するに算術のことか、まあ3歳児に教えることなど高等ではないだろうが、とにかく勉強をこの年齢から教えている制度については感心するな。
「お母さまの方は、ご質問等は?」
「あ、いいえ。大丈夫です。」
気づくと母親はポカンとした表情をしていた。私のせいだろう。申し訳ない。
「それでは、勝さんには今日一日体験していただいきます。」
こうして精神年齢59歳の幼稚園生活が始まった。
主人公 勝は頭の中では母国語であるアベル語で思考をしています。
現在の言語・礼儀能力
・日本語(小学校4年生程度)
・アベル語(王族最上位程度)
・魔族後(日常会話程度)
・日本式礼儀(小学校2年生程度)
・アベル式礼儀(王族最上位程度)
因みに、アベルでの勉学はどの分野でも学者まで習得しています。
言語以外の理解していること
・ここは異世界であり、日本という領土であること
・自然があまりにも少ないこと
・車の存在
・苗字は遠藤であるということ(アベルでも名前は姓名から成っていました)
・両親が共働き、(彰浩は使用人かなにか、明美は家で何かを作っている)
・日本の料理はうまい(材料などには興味なし)
・日常用品のクオリティの高さ
・実はテレビも見たことあります。その話はまたどこかで
質問や感想等いただけたら幸いです。いつか希望があればジークフリント時代の物語も書いてみたいと思っています。