2話 新たなる生の始まり
―――――なんだ?
死んだはずなのに意識の覚醒を感じたジークフリントは疑問を感じ、思考を巡らしていた。しかし思考をする以外にできることはない。体がない感じがした。ジークフリントはしばらく考え、自分が精神体として天界に向かっている途中なのだと結論を出した。
しばらく日を重ねると、手足を感じた。とても小さい気がするが、気にしないでおこう。目は開けないのか開いた箇所が暗闇なのかわからないが暗いままであった。ジークフリントは面白いと感じた。このようにだんだんとヒトの姿に変わっていき、最後に翼が生え、天使として天界に向かうのかと…
ある日を境にどこかから音が聞こえた。なんだろうか、騒がしい。ジークフリントはハープによる音色を好んでいた。この音はそのような弦楽器から発せられる音であるが、嫌に異質な音だ。安らぎを感じない。ヒト族のような声も同時に聞こえてくるが、なんといっているのかわからない。天使の使う言語か?面白い。勉強したいと考えながらジークフリントはやることもないのでその音に耳を傾け続けた。
さらに時を重ねると手足を動かせるようになった。非常に弱弱しい…生前の身体が欲しくなったが、天使ともなれば力など入らないのだろう。今は少しでも自らの身体が動かせるのがたまらなく嬉しい。
そう思ってジークフリントは意気揚々と運動を続けていた。
なんだ!?突如激しい音や叫び声が聞こえた。ヒィヒーフゥ?久しぶりに聞き取れる言語を聞いた。これは魔人の言葉で「こづくり」だ。魔人が地獄から叫んでいるのか?死んでもこづくりとは流石クソみたいな種族だ。とりあえずうるさいし、最近は窮屈さがすごいのだ。早く天界についてほしい。
その瞬間、頭を掴まれていることに気付いた。おお、ついたのか、早く引っ張り出してくれ!!それから少し経過すると、体が解放されたことに気付いた。目に光を感じる。ああ、ここが天界なのか…。何故か激しく涙がでた。泣くことなど3人目の子供が生まれた以来だ。恥ずかしい。周りが騒がしいが何か言っているが知らん。天界語は勉強するから待ってくれ。
目を開けばそこには一人の女性が私を抱いていた。もしかして女神様であるのか?そう思った。見慣れない服装をしている。何故か疲労困憊しているが、その目は慈愛で満ちている。素晴らしい。まさに女神だ。ジークフリントは喜んでいた。
そこからは何故か透明な箱の中に入れられた。周りには機械的なものが並んでいた。ジークフリントは周りを見渡した。するとあることに気付いた。周りにも同じような箱があり、そこには赤子が入っていた。
・・・・なんだと?
ジークフリントはそこで自らの小さく弱弱しい手足を確認した。赤子になっていると気づいた。
そこから5日間くらい透明の箱の中で過ごしただろう。ジークフリントはなぜ自らが赤子になっているのかについて思考を重ねていた。分からなかったが、自分の母親なのであろう女性に抱かれて、白い建物の外に出た。
汚い、臭い、自然がない。外に出た瞬間ジークフリントは衝撃を受けた。灰色の道には多くの箱が移動をしている。速度も遅いし、センスのかけらも感じないが、あれがこの世界での移動方法なのだろう。この瞬間ジークフリントは理解した。ここがかつて過ごした場所ではないことを。そして、同時に心の中には不安、焦り、怒り、その他諸々の感情が渦巻いていた。
こうしてかつてアベルの魔王を討伐せし真の勇者ジークフリントは新たなる人生を歩み始めたのだった。