1話 静かな生の終わり
ああ。これでこの人生も幕を閉じるのか。本当に激烈で幸せで、有意義な人生であった。――
現在56歳、かつての勇者ジークフリントは死の直前ゆっくりと自らの人生を振り返っていた。
魔王の恐怖により支配・蹂躙されていた星アベルでは長い間ヒトが種族を失うことがないように懸命に抗っていた。
ジークフリントが生まれて5歳になった時、神より勇者に選ばれ、帝国最強の武人ゼブルス、帝国最強の魔術師ハーロシャインより教えを受けた。
15歳の若さですでに最強の実力を身に着けていたジークフリントは帝国騎士団所属のハインと帝国魔術団所属のティナと共に魔王討伐へと赴く。
旅の途中、武術家ナロウ、神官ミスティ、双剣術家ボルト、機械術師マウスと出会い、志を共にした。
5年の歳月が過ぎ、勇者一行はそれぞれが真なる最強と言える実力を持ち、世界中から魔王からの解放を望まれていた。
6年目のある日、立ち寄った鍛冶の村コロナで魔王に対抗するための武器を30年打ち続けた職人ガルフと出会い、神聖かつ最強の武器を手にした。
7年目、魔王は勇者一行により討伐。その不滅の心臓は勇者が持つ武器ラグナロクにより貫かれ、とこしえの間に封印されたのであった。
そこから勇者は王女ミリアと結婚、3人の子供に囲まれ、次代の王、解放者として世界を良い方向へと導いた。勿論その間には10回以上暗殺の刺客が送り込まれた、突如帝国王城にカオスドラゴンが召喚されるなど安寧とは言いがたい生活ではあったが…
現在では子供がジークフリントの意志を継ぎ立派に帝国を導いている。3人の英雄として将来この国に名が刻まれるだろう。
なんという幸福な人生だろうか?男として勇者としてトップに立ち、王として人々の上に立ち、素晴らしい妻と子供に囲まれ…最後は病で逝くことになるが、何も不服などない。輪廻転生、次の生でもこのような人生を送りたいものだ。
ジークフリントはゆっくりと眠りに落ちるように逝った。
3人の英雄と老いてなお美しい妻ミリアに囲まれながら。
彼の葬儀は帝国全土を使用したその後の歴史上で最も規模の大きいものであった。
彼の死後、その行いは教科書に載り、人類の父親として長きに渡り愛されていく。