素敵で鈍感で
あなたと出会えて
続きを意外と早く書いたのでこれはいずれ長編にせねばという使命感・・・
どうやらこの人たちは、あたしと同じで大学生の集まりらしい。最初はカフェの開業なんて馬鹿みたいだって思ったけど、皆と一緒に作業をしていると段々真剣になってきた。
本当にできる。こんなにも大きなことに、前向きに行動する人たちと出会えることなんてなかった。
「どう? 面白いだろ」
彼がいつの間にか隣に来ていて、笑顔で問いかけた。彼の笑顔は本当にずるい。
「あの」
「ん? あっ、そういえば君の名前ってなんだっけ?」
彼は照れながら、今更な質問を投げかけてきた。
「紺野千佳です」
「千佳ちゃんか。俺は佐野諒太、これからもよろしく」
そう言って、彼は当たり前のように手を差し出してきた。握手なんてするんだ。誰かと握手したことあったっけ?あるわけないか。こんな大勢の人の中に、自分がいること自体初めてだ。
「ねー、ねー、千佳ちゃんが考案してくれたメニューを元にさ。次は試作品作りに取り掛かろうよ」
初めに話しかけてくれた牧野真子さんは、嬉しそうに声を上げた。見た目から明るさがにじみ出ているけれど、活発な性格が羨ましい。
「じゃあ、今日はとりあえずお開きにするか。今日のことを元にサイト作りに集中するもの、デザインインテリアを考える者、試作品のために材料やきちんとしたレシピを考える者、皆それぞれ次までにやっておいてください。それじゃあ解散!」
諒太さんの一声で、皆は片づけをし始めた。どうやら諒太さんがこの集まりのリーダーらしい。
「千佳ちゃん、まだ時間あるかな? よかったらこの後懇親会っていえばいいのかな? 集まれる皆でご飯食べに行こうと思うんだけど」
諒太さんは何故か照れながら言った。
「まだ大丈夫です」
もっとこの人たちと一緒にいたい。どうせ家に帰ってもあたしの居場所なんてどこにもないんだ。
「千佳ちゃんも来てくれるの? やったー」
真子さんは飛び跳ねて喜んでくれた。その他にも、男女が五人ほどついてきた。皆それぞれに会話を交わしながら、店までの道を歩く。
「いきなりでビックリしたよね? ごめんな」
「いえ、良かったです。こんな場所に、皆が集まるような楽しい場所につれてきていただいて」
「何型っ苦しい話してるの? あのね、千佳ちゃん、諒太ったらね、千佳ちゃんにいつ声かけようかってずっと機会を伺っていたんだよ」
そういえばいつもここにいるよね、って言っていた。諒太さんもあそこのカフェの常連なんだ。
「そうなんですか、あたしは周り見ないんで全然気づかなかった」
何故か慌てている諒太さんと、嬉しそうに笑っていた真子さんは、あたしの言葉を聞くと一瞬動きを止めた。
「これは頑張らないとダメそうね」
真子さんはそう言い捨てると、後ろを歩いていた人達の集まりに走って行った。
一体何を言っているんだろう?
「あの、あたしじゃ力不足ですか?」
黙って歩いていた諒太さんは、あたしの問いかけに変な声を出した。
「いや、あの、あたし何もわからないから、頑張らないとダメって」
真子さんの言葉はたぶんそういうことなんだと思う。遠回しに言ってくれたんだ。
「えっ、何ですか!」
不安に思っていたら、諒太さんが突然笑い始めた。突然のことに狼狽していると、後ろを歩いていた人たちと目が合った。あたしと諒太さんとを見て、皆は何事かと首を傾げながら近づいてきた。
「ごめん、いや、悪い」
諒太さんはようやく笑いが収まったようだけど、彼の行動がさっぱりわからない。
「そっか、いや、そっか。これからもよろしくな」
諒太さんは嬉しそうな、だけどなんとも言えない表情を浮かべている。さっきまでの笑顔とは違う。照れているわけでもなさそうだ。やっぱりあたしが何かまずいことを言ったのだろうか?
孤独だった。誰かと共に過ごすことなんてなかった。だからあたしにはわからない。でも、これからこの人たちと一緒に、あたしも誰かといるということを学べたらいいな。