古今怪奇譚集
おかしい。おかしいおかしいおかしい―
今俺は捨ててきた。捨ててきたはずなのに―
「オギャア、オギャア・・・・」
聞こえる。今でも。
許してくれ。俺が悪かった。許してくれ。許して―
もう五年前になろうか。男はさる財閥の愛娘と恋に落ち、彼女の親に隠れて、夜な夜な会っていた。長い、付き合いだった。それなりに、特に自分は彼女を愛していた。子供ができてしまうまでは―
彼女に子ができたことと同時に俺との関係が露見し、驚いたことに俺とは"無理矢理"付き合わされていた、とあの女証言しやがった。俺は見事に切り捨てられた。所詮俺との関係などお嬢様のとんだ火遊びに過ぎなかった、ということか。
しかし、俺は真剣に愛していた。火遊びなどではなく、本気で。
子供まで押し付けられた時は、もうなにも言えなくなってしまった。
産まれた子は今でも愛し合っていれば、それは可愛い子どもだったのだろうが、所詮不義の、それも押し付けられた子、愛するどころか、憎悪の対象でしかなかった。
そう。だから―
俺のせいじゃない。俺は―
あの子を、あの子の遺体を
川に投げ落とした。
その夜からだ。
毎日、毎日、毎日毎日毎日俺の近くで、ち、近くで―
「オギャー、オギャ、オギャアー・・・」
まただ、また赤ん坊の啼く声がする。
許してくれ。俺が悪かった。許してくれ。許して―