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今日もオレ/俺は恋をする  作者: 秋野ハル
番外編【後日談後編】
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後日談12話【番外編(下):駄弁る大人たちと駄弁る子どもたちと】

上、中と後書きで書いてきた番外編ですが、下だけ予定より長くなったので12話本編と分けさせていただきました。

 畳の匂い漂う広々とした和室の中央には、漆によって綺麗な艶を見せつけるこげ茶色の大机が一つ。

 点けっぱなしのテレビがバラエティ番組を垂れ流す中、浴衣姿の大人4人は大机を囲んで地元特産の日本酒や焼酎をゆっくりと楽しんでいた。

 ホテルに注文して部屋まで届けてもらったのは、様々な地酒に加えて普段の宅飲みでは手を出す気にならない程度に高級なおつまみたち。

 一体誰が言い出したのやら、「せっかく大人たちだけなんだし、たまには親という立場から離れて軽くハメでも外してみよう」。そんな提案の下、酔いも気にせず酒を飲み比べておつまみに舌鼓を打ち、彼らは自由に穏やかに楽しんでいた……最初の方は。

 未だ張りの衰えない肌をほんのりと赤らめながら、一葉が唐突に3人に向けて言った。


「そういえばぁ、初穂たちは『夕飯は友達と食べる』って言ったきりまだ戻ってこないし、私たちは見ての通りだし……つまり始と終斗くんは今、二人きりなのよね!」


 いつもと変わらぬ微笑みのはずなのに、目だけが妙に据わっている上にテンションもなんだか高い。余談だが、いつぞや十香に酔い潰された始と同じく、一葉はわりと酒に弱かった。

 一方、酒にはわりと強い結だが彼女は素でこういう話に乗るタイプ。当然、喜々として便乗する。


「言われてみればそうねぇ。旅行の夜に二人きり……そうだ。せっかくだし一葉さん、賭けてみない?」

「賭け?」

「そう。十香の話だと二人は付き合って、仲こそ良いけど"具体的な進展"はまだみたいだし……だからこれを機になにかが進むことだって有り得そうじゃない。どう、面白そうでしょう?」

「結さん、そんな…………面白そうですね!」


 親がするには少々下衆くないかと咎められては反論もできない会話。

 だが一応彼女らの名誉のために補足しておくと、普段の結は下世話な話題を自分から振ることなんてないし、一葉だって二人の仲を応援こそすれ軽々しく扱う人間ではない。

 そう、全ては酒の魔力が悪いのだ。

 ゆえに有定が「結!」と、平常時の彼からは考えられないほどにはっきりとした声音で会話に割り込んできたのもまた、酒のせいである。

 一葉がその変わりようにぎょっと目を開き、結が『またか』と言わんばかりに呆れる中、有定はお猪口になみなみと注がれている日本酒を一気に煽り、ガンッと叩きつけるように空のお猪口を置いてみせた。


「おお、良い飲みっぷりですなぁ」


 呑気に感心する一義を気にも留めず、有定はくわっ!と大きく目を見開いて述べた。


「まったく、お前はそんなくだらない話を……俺の息子が! そう簡単に進展してたまるか、俺だって何年もかかったんだ……!」

「ねぇあなた、自分を認めるのは良いことだけど言ってて悲しくならない?」


 これまた余談だが、いつぞやにワンカップの焼酎を一気飲みしただけで酔い潰れた終斗の血は、他ならぬ有定から受け継がれたものである。

 長身痩躯、白髪混じりの51歳。全盛期の艶艶こそ失われて久しいが、翻っていぶし銀の魅力が年月と共に研ぎ澄まされている真っ最中のクール系おじ様。

 平時の彼の姿を見た10人中9人が下すであろう第一印象にして職場の同僚や多くの知り合いが現在抱いているそのイメージが、ヘタレなくせに見栄っ張りな彼が頑なに守っているイメージが今この瞬間、ぼろぼろと崩れ去っていることに本人は気づいていない。

 酒の魔力に飲まれた夫のみっともない姿に、妻はジト目を向ける。

 明日目が覚めたら後悔するわねぇ絶対、だっていつもしてるし。


「……ま、そんなところが可愛いんだけど」


 一人呟く結をよそに、一義が「ふむ」と顎に手を当てて考える。

 しかしすぐに日本酒を豪快にもとっくりから直接飲み干し、軽いゲップひとつを吐いてから口を開いた。


「しっかしだなぁ。有定さんのケースは幼なじみゆえということもあるだろう。貴方がたと違い、あの二人はここしばらくで急激に仲を深めているように思える! それになにせ若いんだ、むしろなにかある方が普通じゃあないか!? 最近の若者は性に奔放というしな! はっはっはっはっ!」


 遠慮なしに大口を開け、普段よりも3割増しの大笑いを見せる一義。だがその言動と笑い声は、平時ならともかく酒の入った今の有定にとって実に癪に触るものだった。

 露骨なしかめ面を見せて有定が冷たい声音を放つ。


「……もう少し発言を選べないのか、きみは。それにきみたちがどういった経緯で恋愛をしてこようがそれに関してとやかく言うつもりはない……が、それと子どもたちを無闇に重ねていいものではないだろう」


 レンズ越しに突き刺す視線に、しかし一義も眼力の強い大きな瞳をもって真正面から対抗する。


「お言葉ですが、自分と重ね合わせてるのはむしろ貴方の方では? 自分たちが時間を掛けたからといって、子どもたちに弁えろというのは押し付けが過ぎるというものだ」

「……ほう」

「……ふむ」


 男たちの視線が、交わり合いから鍔競り合いへと。

 そもそも互いに齢を重ねているから平時は互いを弁え、穏やかでいられるものの、彼ら二人の性格は見て分かるとおり正反対。

 正しく水と油。ゆえに酒の魔力に唆され、一触即発と言わんばかりに火花を散らし始めた二人の男……だったが。


「こらっ、駄目でしょうあなた。いくら飲みの場だからって全部が全部無礼講じゃないし、そうだとしても有定さんの言うとおり言葉は選びなさい。若々しいのは良いことだけど、それでも私たちは大人なんだから」

「有定さん、あなたもよ。向こうは10歳も年下なのに本気で怒っちゃってまぁ。それに一義さんの言うとおり、現に終斗たちは昔の私たちよりよっぽど恋愛してるんだから。確かに終斗はあなた似だけど、あなたとは違うの……いい?」

「むっ、むぅ……面目ない」

「……少々、熱くなりすぎた」


 二人の女に制されて、あっさりとヒートダウン。意気消沈して項垂れる男たちにこんこんと説教をかます女たちの姿は、夫と妻というよりかは親と子どもに近いかもしれない。


「謝る相手が違うでしょう、二人とも」

「いくつになっても世話が焼けるんだから、ほんと」

「返す言葉もない……そして申し訳なかった、有定さん。酒が入ったとはいえご無礼を重ねてしまったことをお詫びしたい」

「……いや、本来は年上の俺がしっかりしているべきだった。こちらこそすまなかった」


 頭を下げあい、無礼も失言も水に流す。酒が入っても彼らは大人、こういうところの切り替えは上手だった。

 そうして一旦落ち着いた彼らは再び、今度は"適度に"ハメを外せるよう気をつけつつゆっくりと飲み直し始めた。

 今度こそ穏やかに時が流れる中、グラスに注がれた水割りの焼酎をちびちびと口につけ、おつまみの貝柱に爪楊枝を刺しながら有定が結に声をかけた。


「しかしよく考えてみれば……俺たちが話を膨らませてしまったとはいえ、そもそもの発端は結、お前だろう」

「言われてみればそうだな。先程の醜態をあまり蒸し返したくはないが、それはそれとして女性陣がどう思っているのかは気になるところだ」


 一義の言葉に有定も頷く。

 男性陣から揃って問われた女性陣は、なぜか顔を見合わせて意味深な笑みを浮かべた。

 通じ合うアイコンタクト。男性陣は正反対な性格だったが、女性陣は結構似た者同士らしい。


「うーん。聞かれれば言ってもいいけど……なんていうか、わざわざ言う必要もないかなって思っちゃって。ねぇ結さん」

「そうねぇ……賭けとか言い出したのは私なんだけど、一葉さんとは意見が一致してそうで賭けにならないかなって」

「ほお。と、言うと?」

「だって始ちゃんは積極的に見えて意外と押しが弱そうっていうか、まだそこら辺の感性が幼そうだし」

「終斗くんは確かに大人しいけど、ちゃんと男の子してるっていうか……私の見立て的には意外と欲張りそうだし」


 互いに互いの子を語る女二人の姿に、男二人は揃って首を傾げる。

 察しの悪い夫たちの様子に、『それはそれで可愛い』とでも言うように笑みを浮かべながら、結と一葉は言葉を続けた。


「二人とも、両極端過ぎるのよ。始ちゃんも終斗も私たちとは違うんだから」

「うふふ、そういうこと。だから多分……」

「ええ、おそらく……」


 そこで一度言葉を切り、二人でまた顔を見合わせて頷き合い。

 目の前の夫たちに向かって異口同音に結論を出した。


「「進んでも精々キスぐらい、じゃないかしら?」」



   ●



 大人たちが酒に舌鼓を打つ一方、姉弟が恋に勤しむ一方。

 まひると共に日中を過ごした初穂と十香は、そのまま彼女の案内で彼女馴染みの居酒屋に出向いていた。

 木製のカウンターに畳の座敷。ずらりと壁に掛けられた札には生ビールやら鶏の唐揚げやら、居酒屋定番にして目玉の商品の名が庶民的な値段と共に記されている。

 古き良き温泉街の一角で何十年も前から続く、古き良き居酒屋。

 スーツ姿の会社員から家族連れから果てには部活帰りの学生たちまで、多種多様な層で賑わっている店内の隅の方の座敷席で、女3人は卓を囲んで夕飯を味わっていた。

 グラスに注がれている液体は白。白桃のチューハイを勢い良く飲み干した十香が「ぷはぁー!」と、周りの目を一切気にしていないことが丸わかりな声を上げる。


「そぉーれにしても、あの二人は今頃ホテルでなーにやってんだか。ねぇねぇ、どうせだし賭けしてみない? あの二人がどこまで進むか!」


 真っ赤な顔して空のグラスを片手に身を乗り出す十香に対して、対面のまひるは若干身を引きつつ口を開いた。


「ちょっと悪趣味じゃないですか、それ? あまりそういうのは好きじゃない……というか、今は横の方が気になるんですけど」


 まひるが自分の隣に目を向ければ、当然隣で座っている初穂の姿が目に映る……が、彼女の様子はなにかおかしかった。

 チャーハンに鳥の唐揚げに麻婆豆腐にエビチリに。

 大皿に乗せられ卓へと並べられた数々の料理に一切目もくれず、一山いくらの安い枝豆だけを延々と口にし続ける初穂の姿はさすがにそろそろ目に余る。


「えーっと……どしたの、初穂ちゃん」


 まひるに尋ねられ、初穂はようやく枝豆をさやから取り出す手を止めた。

 初穂は生気の消えた瞳をまひるに向けて、いつもの快活さからは考えられないほどに静かな声音を発した。


「……虚しく、ないですか」

「は?」

「私は、虚しいですよ……年上の癖に全然年上らしくなかったはずの始は終にいといつの間にやら大人の階段登りだしてるし、大人たちは大人たちで旅行にはしゃいで無駄に若々しくいちゃついてるし……そんな中、私たちはなにやってるんですか? 女三人で居酒屋?」


 徐々にボリュームを増していく怨嗟の声に、まひるは思わず顔を引きつらせてしまう。

 烏龍茶がなみなみと注がれたグラスを握る初穂の右手に力がこもる。


「私だって……私だって……!」


 声を絞りだすやいなや、やけ酒を呷るようにごくごくと喉を鳴らしてグラスの中身を飲み干して。

 ガンッ!

 卓上の大皿が揺れるほどの勢いでグラスを叩きつけてから初穂は叫んだ。


「本音ぶっちゃけるとですねぇ、私だって盲目になるほどの恋とかしてみたいんですよ! 人目も気にせず惚気けてドヤ顔とかめっちゃやりたいんですよ! こちとらほんとはキャッキャウフフの青春を謳歌してるはずの中学生ですよ!? せっかくの春休み、こんな夜にはぁ、デートが長引いちゃってぇ、『夜遅くなっちゃったね』とか言ってさぁ、友達の家に泊まるフリして彼氏の家に泊まってみたりとかぁ、なんかそういうアレであるべきじゃん!? なのになにが悲しくて居酒屋!? ついさっきもクラスメイトから『春休みだから彼ピッピと遊園地デートー☆ 初穂はまだ彼ピッピいないのー?』とか彼氏との2ショット付きで送られてきたんだけどお前絶対にその彼氏と別れたときこの文面見せつけて後悔させてやるからな!」

「ねぇなにこの子。酔ってる?」

「悪酔いじゃないですかね。こう、周りのラブコメ濃度的なやつに耐えられなかったんでしょう」

「ああ……朝雛さんちって始ちゃんもだけど親御さんの方もラブコメ濃度高そうだものねぇ」

「まひるさぁぁん! 私寂しいんですよぉ、独り身だから家に居場所がないんですよぉ!」

「ひぃっ、完全にめんどくさい酔っぱらいだこの子! なにこれガチで酒入ってないか心配なんだけど!」


 恥も外聞もなく涙と鼻水を流してしがみついてくる初穂には、さすがのまひるも恐れを隠せない。

 一方、蚊帳の外にいる十香は一応の確認として、初穂の飲んでいた烏龍茶に口をつけて。


「ん……よし、大丈夫ね! ちゃんと普通の烏龍茶。つまり完全な場酔いってやつよ!」

「それはそれでどうかと思いません!?」

「まひるさんはぁ、なんで独り身なのに平然と生きられるんですかぁ!? 始の惚気けとか延々と聞かされてたらぼっち否定されてるように感じませんかぁ!? なんか世間の風潮も恋愛ぐらい経験してて当たり前って感じだしぃ、世界が恋愛弱者に厳しすぎる!」


 なるほど恋に恋するような年頃からすれば、確かに悲痛な訴えではある。年若い女子ならば……いや、青春真っ盛りな男子でも共感出来るかもしれない。が、あいにく質問先が悪過ぎた。


「うーん、そう言われても……」


 初穂にゆっさゆっさと体を揺らされながら、しかしまひるは共感するわけでも同情するわけでもなく、ただただ理解できない疑問に対して純粋に悩むような素振りを見せて……あっさりと、結論を出した。


「……うん、やっぱないかなそういうの。憧れが全くの0とは言わんけど、ただ今の自分の現状にはわりと満足してるし。今は恋だのなんだのに構ってられないっていうか」

「他人の恋路には散々構っておいて!?」

「なんていうか、それとこれとは話が別だし」

「まひるちゃんはあれよね。一人でも悠々と生きられるタイプ」

「まぁ、今もわりと自由にやらせてもらってますから。わりと恵まれてるんですよ、周りには……」


 女子高生らしからぬ圧倒的な頼り甲斐に定評のある彼女は、その経験値からゆえか妙に達観した様子でしみじみと遠くを見ている。

 ああ駄目だこの人じゃ。一般的な女子高生とはなんていうか、スケールが違う。

 いい加減まひるに見切りをつけた初穂は、彼女から体を離してぐりんと上半身を回し、対面の十香に狙いを定め……


「……女子トークできる人間がここにはいない……」


 なかった。ここに終斗がいればきっと『無難な判断だな』と頷いていたことだろう。

 まひるも『まぁそうなるわな』と静観しながら手持ちの緑茶をすする。

 しかし当人的には不服だったようで、十香は日頃の行いを棚に上げると両手を広げて全身でWelcomeの姿勢を示す。


「せめて最初の一歩くらいは試してみてもいいのよ!」

「いやだって十香さん、なんでも漫画基準で解釈しそうっていうか……ぶっちゃけ女子力を欠片も感じないっていうか……」

「義理の妹(予定)だからって遠慮なくボロクソな批評してくるそのスタンスは嫌いじゃないけど、一応これでも彼氏の居た時期ぐらいあるわよ?」



 ――そのとき一瞬、飲み屋の片隅で確かに時が止まった。



 やがて時は動き出す。

 緑茶が気管に入ったまひるは思いきり咳き込み、初穂も衝撃から場酔いを完全に覚まして目を見開き。

 そして二人同時に、バンと卓に手をついて前のめりに十香へと詰め寄った。


「「嘘ぉ!?」」

「うーんこの信頼度。ここで嘘って言うのもそれはそれで美味しいんだけど……」


 卓が揺れたせいでこぼれた麻婆豆腐を拭き取りながら、その片手間に十香は語りだした。


「ほんとよほんと、これでも高校時代は漫画描いてるの外に隠してた時期もあってさ。外面と成績は自分で言うのもなんだけど良かったから。そういうところ見て寄ってくる男っていうのも中にはいてね」

「うわぁ、絶妙に信憑性ありそうなのがなんかやだ……」

「十香さんにも、彼氏いたのにぃ、なんで私はぁ……」

「今の私ってすごい寛大だし、二人ともそろそろこの器の広さに感謝してもいいのよ? まぁそれはそれとして、私にも恋に焦がれていた若い頃というか、ぶっちゃけ漫画の資料として実体験を求めてたとも言うんだけど。とにかく寄ってきた男の中で、ぱっと見それなりに誠実そうでまともそーなやつとさ、ちょっとしたお試し気分で付き合ってみたわけよ」

「はー……意外といえば意外ですけど、十香さん美人ではありますもんね。外面ちゃんとしてれば男も来るか」

「それでそれで?」


 まひるがようやく納得して、初穂もなんだかんだでがっつり食いついてきた。その様子に満足しつつ、十香は話を続ける。


「最初はお試しのつもりだったんだけど、いつの間にかわりと情も寄ってきたっていうか……こういうのも悪くないかなって思ってたんだけど」

「うんうん」

「……そんなときに隠してた趣味の漫画がバレてさ。そりゃ隠してた私も悪いわ。だけどそれ抜きにしても"そういう趣味"をすっごい馬鹿にしてくるやつで。結局最後にはおもいっきり引っ叩いてこっちから別れてやったっての。こうよ、こう!」


 右手を開いてぶんと振るジェスチャーに、二人の観客は「「おおっ」」と揃って声を上げた。


「そっからもうなんか吹っ切れてさ。外でも色々大っぴらにするようになって、まぁそのおかげで捗ってるところもあるし、ある意味あれはあれで良い思い出かも。そんな経験やら趣味の一環で痴情のもつれやらを耳にしたりして、やがて私は悟ったわけよ……恋愛なんて、見る方が楽しいわあんなもん。自分でするもんじゃあないわね!」

「あ、それは分かるかも。年がら年中他人に合わせるのはめんどくさそうですよね」

「分かっちゃうんだ……」


 胸を張って堂々と、生涯野次馬宣言を言い放つ十香。つい得心を得てしまったまひる。やっぱりここでは女子トークとかできないわと項垂れる初穂。

 三者三様。各々がひととおりリアクションを終えたあと、十香は改めて初穂に向けて諭すように言った。


「ま、なんつうか恋するもしないも人の自由っていうわけで……とりあえず、初穂ちゃんは中1だっけ? 私より10歳近くも若いじゃない、まだまだこれからよ。周りの目なんて気にせず堂々としてりゃいいんだし、なんだかんだ言っても一生の相手を選ぶためにやってるんだから恋愛なんて。もうちょい自分を大事にしてもいいと思うわよ……お姉さんとしては、ね?」

「十香さん……」

「それに恋の適齢期なんて自分の中で適当に上げてきゃいいだけだから! 中学生のうちは『まだ中学生だから大丈夫』、高校生のうちは『まだ18未満だしチャンスはある』、卒業してもまだ二十歳はたち前だから以下省略! そんなこんなでそのうち吹っ切れるようにならぁね!」

「それ絶対駄目なパターンじゃないですかいやぁぁ早く恋したい―!」


 ある種の"悟り"に到達した人間による洗礼に耐え切れず、初穂の場酔いが復活。

 はたして再びしがみつかれたまひるは、初穂の頭を手慣れた手つきでぽんぽんと撫でながらあやしてみせる。二男三女の一番上、こういうことは大の得意だった。


「どうどう。ほら、今日はもう色々忘れて飲もうよ。お酒は駄目だけど……まぁいらないか。すみませーんコーラひとつ!」

「うう、まひるさんなんかめっちゃ包容力すごい……頼りになるし、サバサバしてて割り切り良さそうだし……ちょっと理想かもしれない……」

「え、なにそういうルート!? 野次馬側としては歓迎するわよ!」

「十香さん、その取り出したメモ帳をエビチリの中に沈められたくなければ今すぐしまい直すことを勧めますけど」

「まひるさん……うっかり反転病に罹ったりするご予定とかないですかぁ……?」

「そのジョーク非常に反応しづらいんだけど、とりあえず水でも飲んで酔い直そう! なんなら頭から直接ぶっかけるから!」

「お、今良いこと言ったわね初穂ちゃん。おかげで1個美味しいネタ思いついたわってひぃぃぃこの子ガチで私のメモ帳沈めるつもりだわ! 殺させない、殺させないわよ私の命は!」

「あっ! くっそ初穂ちゃんにしがみつかれてるせいで届かない! ほら離れなさいいい加減!」

「やだぁー寂しいー! 人類が恋しいー!」

「んーほんとに水ぶっかけてやろうか! あとそこでガチ黙りして一心不乱になんか書き込んでるの覚えてなさいよ! ああもう……最初は実家でゆっくりする予定だったのに、なんでこんなことになってるのよー!!」



 現在進行形で恋に燃えている者、かつて恋を経た者、未だ恋を知らない者……それぞれの夜は、こうしてゆっくりと更けていくのだった。

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