閑話その2 JKの朝も随分近く
「――で、このあと告白に見事失敗したオレはまひるも知ってのとおり女子力の特訓をしたり今度こそ告白に成功したり、なんやかんやとあって今に至るというわけだ!」
終斗との出会いから今までを徹底的に厳選した上で語り尽くしたオレは、実に満ち足りた気持ちでそう締めくくる。
そして数秒後、受話器から返ってきた一言が。
「あ、終わった?」
「ひどくない!?」
「ひどいわね、長さが。総集編方式だっつってんのにどんだけ語ってんのよ。夏だったらもうじき夜が明けてもおかしくない時間よ今、むしろここまで付き合ってあげた私を褒めてほしいわ」
呆れ口調でそう言われて部屋の時計に目を向ければ、なるほど時間はすでに朝の4時を回って……
「4時!? ……なんか目がしょぼしょぼしてきた」
「今まで散々元気していてそれか!」
しかたないじゃないか。普段のオレは早寝早起き、毎日8時間睡眠を心がけている健康優良児なのだ。
慣れない夜更かしのせいで一気に睡魔が押し寄せてくる。
きっと過去を振り返っていたせいだろう。オレは明滅を繰り返す意識の中である種のノスタルジーを抱いていた。
半分くらい寝てる頭はろくに働かない。抱いたものは、自然と口から漏れていた。
「まひる……ありがとね、色々」
「……べつに。お礼言われる覚えなんてないけど?」
とぼけているのはあえてか、それとも違うのか。
どっちにせよ、オレがまひるに抱く感謝の念に変わりはない。
初めて会った日のこと、それからずっと終斗との恋を手伝ってくれたこと。それに……
「嬉しかった」
「え……?」
「まひるが初穂と十香さんとで終斗の家に乗り込んだとき。まひるが『親友代表』って言ってくれたこと、実は結構嬉しかったんだ。まひるもそう思ってくれてたんだなって」
「……そういえば、面と向かってそういうの言ったことってなかったっけ」
「うん。その、オレさ……いっつもまひるに助けてもらってばっかで、まだなにも恩を返せていないから……正直ちょっと不安だったんだ」
もちろん、恩を抜きにしてもまひるは大切な親友だと思っている。終斗とはまた違うベクトルで息の合うもう一人の親友。
だけどもちろん、まひるに助けてもらったことも恩を抱いていることも、オレがそれに報いることができていないのも確かで。
ずっと心に潜んでいた、オレが一方的に好意を寄せているだけなんじゃないかという不安。
まひるは少しだけ考えるような沈黙を挟んでから、返事を返した。
「……なんつうかさ、べつに恩とか義理とかそういうの押し付けるつもりもなくて、結局私も私でやりたいからやってるわけだ。それはあんたと最初会ったときから変わってないし……」
まひるににしては歯切れの悪い言葉。そのたどたどしさはきっと、本音ゆえのものだろう。
「まぁしいて言うなら、あんたのことをわりと気に入ってるからってだけで……まぁ、その、なんだ。あのときは勢いで親友代表だなんて言ったけど、私もさ……あんたに親友だって思われてんの。実際こうして聞いてちょっとホッとしたっていうか、まぁ嬉しかったっていうか……」
「くー……」
「ねんなや!」
「はっ……ね、寝てないヨー!」
「……はぁ。もういいわ、あんなん柄じゃないし。ほら眠いならさっさと寝るわよ。それじゃおやすみ」
「あ、ちょっと待って」
「あ? 今度はなにさ」
「……オレも、まひるが嬉しく思ってくれて嬉しいよ」
伝えると、通話口から小声でツッコミが返ってきた。
「……聞いてたんかい」
「だから寝てないよって言ったじゃん。えへへ、おやすみまひる」
「……ん、おやすみ」
通話を切ると、このときを待っていたと言わんばかりに再び眠気が襲ってきた。それに抗うことなく、オレはベッドに倒れこむ。
夢心地になりながら考えるのは、明日……じゃなくて今日のこと。
起きたら多分昼過ぎぐらいだ、今日はなにをしよう。懐かしいことばっかり話していたから終斗が超恋しいし、素直に会いに行こうか。だけどまひるとも遊びたいし、あの家の犬たちともじゃれあいたい。マメ元気にしてるかな……。そうだ、いっそのこと二人を呼べば一石二鳥…………。
ゆっくりと、意識がかすれて消えていく。
今日も楽しい1日でありますように。最後にそう夢見ながら、オレはやがて夢の中へと落ちていった――。
◇
「あああああもうこんな時間ー!?」
なお慣れない夜更かしのせいか目覚めたらもう日も落ちる頃で、楽しい1日が始まる前に終わってしまったことに対してオレが悲鳴を上げたのは言うまでもない。
これにて前日談は本当に終幕となります。いつもとはちょっと違ったノリのオレ俺でしたが、それでもここまでお付き合いしてくださった読者の皆様に感謝を。
んでもって次回より、後日談後編のスタートとなります。いつもどおり明るく可愛く情けなくお送りしていきますので、お楽しみいただければと。




