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第3話 ヒラヒラと、フリフリと。(後編)

【一行で分かる前編】

 

 まおうがあらわれた!


 たとえば中学校入ってすぐ。誰に言われるでもなく教室の枯れかけていた花に水をあげていたあいつを見て、オレはなんとなく『友達になりたい』って思った。

 たとえば中学2年生の秋、クラス委員を決めるとき。定員2名の飼育委員に興味があっても俺一人だけじゃ、ちゃんと世話できる自信はなかった。でも頼りになるあいつと一緒ならって思ったから、オレは手を挙げることができたんだ。

 たとえば高校1年の春、俺が反転病にかかる少し前。二人でコンビニに立ち寄ったときに見つけた、好奇心はそそられるものの明らかに怪しげなドリンクだって。もしマズくてもあいつと楽しめるならいいかなって思ったから、勇気をだして飲むことができた。まぁ予想に反して旨かったんだけど。

 

 他にもいっぱい。大事なことも、くだらないことも、楽しいことも。


 ――いつだって、あいつがいたからオレは最初の一歩を踏み出せたんだ。


   ◇■◇


「……その、なんだ。わざとじゃないんだ」


 何気なく後ろを向いたオレの視界に入ってきたのは、若干気まずそうな感じで立ちつくす終斗だった。


 …………。


 もう一回前を向く。まひるがにやにやしてた。


 もう一回後ろを向く。終斗がさらに気まずそうに顔を歪めていた。


 …………。


「ひぇ」


 状況を完全に理解した瞬間、口からこぼれたのは悲鳴にすらならない、空気の漏れる音と変わらないような細い声で。


「あの、はじ」


 終斗の口が開くのもお構いなしに、オレは反射的にまひるの腹めがけて飛び込んだ。


「おふぁっ」


 まひるの短い悲鳴が頭上から聞こえるけど、今のオレにそれを気にする余裕なんて微塵もない。

 せめて顔だけでも隠したい。終斗にこの姿見せたくないし、終斗の顔も見られない。


「ちょ、そこみぞおちだから早く離れっぬぁああ馬鹿分かった!分かったからぐりぐりすんなっ、マジで……!」


 オレを引き剥がそうとしてきたまひるに対して、彼女の腹に頭を埋めていやいやと首を振ったら、オレの気持ちを分かってくれたらしく抵抗が止んだ。

 さすが第二の親友、以心伝心も完璧だ。

 しかし直後に終斗の声が後ろから届き、オレはびくりとしてしまった。


「……もしかしなくても、俺は離れた方がいいのか?」


 さすが第一の親友、こっちも以心伝心が完璧だ。

 さあ今すぐ離れてくれ。じゃないと羞恥心で命が危ういぞ、オレの。

 そう思っていたら突然まひるがオレの肩を両手でがっちりとホールドしだした。そしてなぜか若干苦しそうな声で言葉を紡ぐ。


「そうだ、もうせっかくだからここで聞いてやろう……! 夜鳥くん、べつに離れる必要ないわよ……!」


 へい親友!?オレたちは分かり合えたはずじゃなかったのか!!

 さっきと同じくまひるの懐でいやいやするも以心伝心とはなんだったのか、ホールドの解ける気配は微塵もない。代わりになぜかかすかなうめき声だけが聞こえてきた。

 はっ、そうだ。終斗、まだお前がいるじゃないか!信じているぞ、第一の親友――!


「そ、そうか……それなら、まぁ」


 第一の親友ー!?

 以心伝心なんてこの世には存在しないとでも示すように、終斗はまひるの言葉に従って素直にその場に残ってしまった。

 待って無理死ぬお願い無理死ぬ。

 オレはもう羞恥心が突き抜けすぎて半ば錯乱状態になりながらも、ただひたすらまひるの腹にいやいやと頭をこすりつけるしかできなかった。


「うおぅ……!」


 またまひるのうめき声が聞こえたけど、もしかして体調でも悪いんだろうか。だったらもうここじゃないどこかで休もう、ついでにオレも逃げるから!

 しかしオレの願いは届かず、まひるはそこまでして一体なにを伝えたいのか、終斗に向かって息も絶え絶えに話し続ける……オレをホールドし続けたまま。いや、だからなんでさ!?


「ねぇ終斗くん、ちょっと聞きたいんだけどさ……率直に言って今の始、どう思う……?」

「!?」


 えええ!?そこまで苦しみながら聞くことがそれ!?

 もしかしてへたれなオレのために無理してでも終斗から感想を聞いてやろうという、まひるの熱い心遣いか!

 でも今のオレにそれは熱すぎるよ!熱すぎて頭が爆発しちゃうよ!


「いや、どちらかというと始よりもお前の方が心配なんだが……」


 ほら終斗もああ言ってるし無理しちゃ駄目だよ!オレだって無理したくない、ていうかこれ以上したら死んじゃうよ!オレが!

 オレは自分の意思をまひるに伝えるため、届け届けと念じながら必死に頭を押し付け始めた。

 無理してるせいか、まひるが一層苦しそうに呻く。


「ほぉうあ、さらに圧力が……! いいから、さっさと答えなさい……私のストマックを犠牲にしたくなければね……!」


 ストマックってどこだ、腹か……あれ、胸だっけ?

 とにかく自分の体調を天秤にかけてまで終斗の意見を求めようとするその姿勢に、オレははっとさせられた。

 まひる、お前そこまで……!

 ……だったらオレも、いつまでも逃げてる場合じゃないな。その熱い友情に、今こそ応える時――!


「わ、分かった! 言う、言うから!」


 え、ほんとに言うの。

 いや駄目だってまだ心の準備というか覚悟が全然できてないって無理無理無理無理無理!

 だってこんな服初めて着てまだ人にどう見られてるかも分かんないのに、似合ってなかったらどうしようとか。あいつは男の頃のオレを知っていて、家族と同じぐらいによく知っていて、きっと今も男友達として接してきてて……変だとか思われないかな。なんでそんなの着てるんだとか思われないかなとか。

 膨れ上がる不安に悶々として、思わずまひるの腰にぎゅっとしがみついてしまう。


「だ、だったら早く言って……これ以上はっ、乙女のデットライン超えるから……!」


 限界が近いらしく頭上から降るまひるの声がさらに苦しそうになるけど、それすらも遠くに聞こえるほどの羞恥と不安と緊張に包まれて、本音を言うなら今すぐ逃げたい。

でも、もし褒めてくれたら……なんて一握りの淡い希望が、オレの足を地面に縫いとめる。

バクバクと耳障りなほどに大きく鳴る心臓と、相変わらず苦しそうなまひるの呻き声に混じって、やがて終斗の声がオレの耳に届いた。


「まぁ……そういうのもいいんじゃないか。似合ってるし可愛いと思うぞ」


…………。


「ふぇ」


なんか変な声でちゃった。

どうしよう、ほんとに褒められちゃったよ。似合ってるって、可愛いって。

 嬉しい、嬉しいけどこれは駄目だ。なにが駄目って嬉しすぎてふにゃりと緩んだ頬が全然戻らないんだ。


「えへへ……」


 そんな顔を終斗に見せられるわけもないので、オレはまたまひるの腹に顔を押し付けつつ幸せを噛みしめた。

 同時に頭上で、まひるが短く息を吐く。


「ふおっ……ありがとう夜鳥くん、あとごめんちょっとだけでいいから向こうに行っててくれない……? なんていうか、女子同士の内緒話がだね……やば、今一瞬変な世界見えたかも」

「そ、そうか。ならとりあえずそこの本屋で立ち読みしてるから……」


 若干引き気味な終斗の声が聞こえ、そのあとしばらくしてからなにやら頭にぐわしって感じの感触が。


「ほら、夜鳥くん離れたから……あんたもいい加減離れろ、マジで……!」

「ふあっ」


 終斗が離れたという言葉を聞いて力が抜けた途端、オレの頭がまひるの両手によりあっさり引っぺがされた。

 その勢いでオレの首は上を向き、頭上のまひると目が合う。

 するとまひるの表情がげんなりとした感じに変わった。


「うわ、分かっちゃいたけどすごい嬉しそうね……」

「えへへ、だって可愛いって……はっ」


 浮かれていたオレは、しかし疲れた様子のまひるを見て大事なことを思い出した。

 オレはまひるから慌てて体を離すと、せめてもの礼儀としてちゃんとまひるに向き直ってから謝った。


「ごめんなまひる……スト、ストなんとか……とにかく体調が悪いってのに意気地のないオレのために、わざわざ無理してまで終斗に聞いてくれたんだよな……」

「いや腹痛いのはあんたの頭突きのせいだし夜鳥くんに聞いたのは腹痛でヤケクソ気味になってたからだし……」


 オレの言葉を聞いたまひるは、何故かぶつぶつと小声で呟きだした……だけど、すぐにいつもの調子に戻って頼もしげな姿を見せる。

 少しおかしい彼女の様子に、しかしどうしたんだろうと疑問を抱く間もない内に、まひるの顔が神妙なものに変わる。


「……ま、いいか! とりあえずもう私のことは気にしなくていいから、それよりも……始。水を指すようで悪いけどあんた、浮かれてる場合じゃないわよ」

「え? でも終斗、可愛いって言ってくれたよ?」


 まひるの言葉が理解できないオレは、きょとんと首を傾げるしかなかった。

 まひるが可愛い服をコーディネートしてくれて、それに対して終斗は可愛いって言ってくれた。

 はて、そこになんの問題があるのか。

 強いて言えばオレが元々かっこいい路線を目指してたことだけど……でも他ならぬ終斗が言ってくれたし。可愛いって、可愛いって……。


「えへへ……」

「こいつ、褒められたことしか頭にねぇ……。だからにやけてる場合じゃないっての、この浮かれポンチめ」

「はっ……で、でも実際終斗は可愛いって……」

「そう、それよ!」


 まひるがオレに向かってピシリ!と指を差した。


「ど、どれ!?」

「"可愛い"って言葉!普通こう、女っ気のなかった親友が可愛く変わり映えしたんなら、もうちょっとどぎまぎしたり、そうじゃなくてもなんか反応があっていいのに……夜鳥くんはなんてことのないように始を褒めてみせたのよ? ともすれば無関心とも取れるこのリアクション……つまりあんたは、ぶっちゃけ夜鳥くんの守備範囲外かもしれないのよ!」

「なっ……なんだってー!?」


 まひるのもたらした新事実に、オレは頭上に落雷が落ちたかのような衝撃を感じた。

 たしかに終斗はオレのことを異性として意識する素振りなんて全然見せなかったけど、それは親友とか元男とかそういうアレコレだと思っていた。

 だけど、ただ単純にオレみたいな女子が好みじゃないだけだったとしたら……あれ?もしかしてこれ、ある意味じゃ親友とか元男とかってのよりもまずい?

 そう思うとさっきまでの幸せはどこへやら、途端におろおろとしてしまう。


「い、一体どうしたら……」

「ま、ただの照れ隠しって可能性もあるし……よし、ここは私に任せなさい! 夜鳥くんの好みを考慮せずにコーディネートしちゃった私の責任でもあるからね。今からさりげなく彼の好みを聞きだしてあげるわ!」

「本当!? あ、でもちょっと待って。心の準備が……」

「はいはいそんなの好み聞いたあとでもいいでしょ。とりあえず行って来るから、そうね……電話繋げっぱなしにして私らの会話聞こえるようにしておくから、夜鳥くんに怪しまれないようにあんたは電話しているフリでもしてなさい」


 まひるはそう言い残したあとすぐに、ジーンズのポケットから自身のスマホを取り出しつつ、ずかずかと躊躇ない足取りで終斗の下に歩き出した。直後、オレのスマホから着信がかかってくる。慌てて取り出したそれに表示されてた名前は勿論『梯間 まひる』。

 あわわわわ……。

 どうしよう、終斗ってどんな女の子が好みなんだろう……あいつそういうことあんま話さない奴だったから、全然分からないよ。

 本当に守備範囲外だったらどうしようと不安に駆られつつ、好みを聞くのが怖いと腰も引けつつ、それでもやっぱり終斗の好みは知りたくて。

 結局オレは、緊張に身を固くしながらもスマホを耳に当てた。するとすぐにまひるの声がスマホ越しに聞こえてきた。


『ごめんごめん、わざわざ待たせちゃって』

『いや、どうせ大した用事があるわけでもないしな。ところで、始は?』

『今ちょっと電話中みたい。しかしまぁ、用事がないなら良かったわ。こっちも引き止めたのはぶっちゃけわりとしょうもない理由っていうか、ここであったのも縁だからってだけだし。ほら、私ら友達の友達ぐらいじゃん? もっと具体的に言えば、始繋がりってぐらいしか接点が無いわけだ』


 オレたちの作戦のことなんておくびにもださず、まひるは持ち前の社交性で終斗と軽快に話を進める。その様子に終斗もすんなりと打ち解けていくのが会話だけでも分かった。


『たしかに、クラスも違うからな。……とは言え、実は梯間のことはその始から最近結構聞いてたりするんだ。曰く『いつも頼もしいしかっこいいから憧れる』とか』


 うわ、たしかにそういうこと言ったけどそんなあっさり本人に言うなよ、結構恥ずかしいから!

 オレは内心で終斗に文句を言うけど、当然そんな思いが二人に届くはずもなく、話は続いていく。


『あー、私も始から夜鳥くんの話はよく聞くのよねー。『いつもクールでかっこいい』とか『実はすごい優しくて気配りも上手』とか、他には『あいつの作る料理がめちゃくちゃ美味しい』って自慢げに。相当好かれてるわねー』


 まひるはあからさまにニヤニヤしてるような声音をしていた。まひるの馬鹿!これオレのこともからかってるだろ!

 たしかに言ったけど!終斗のことはいくら話しても飽きないからしょっちゅう喋っていたけど!


『あいつなぁ……』


 終斗が呆れてるであろうことが、その口調からだけでも分かる。

 正直今すぐにでもスマホを放り投げて家に逃げ帰りたい気分だけど、ここでこれを離すわけにはいかない。

 オレはきっと真っ赤になってるであろう耳に神経を集中させて、再び二人の会話へと意識を向けた。


『まぁまぁ、そんな顔しなくてもいいじゃない。そういうのが始の良いところ……って夜鳥くんも思ってるんじゃない?』

『違いない、今どき珍しいくらいに裏表のない真っ直ぐだからなあいつは。だからこそ俺もあいつと親友をやっていけるんだが……』


 おわっ。オレもしかして今褒められてる、褒められてる?

 なんだよもー、二人してそんなこと言うと照れるじゃないかー。

 オレがさっきとは別のベクトルで気恥ずかしさを感じる中、終斗が言葉を続けた。


『まぁ、あれだ。真っ直ぐすぎてたまに危なっかしいというのも、たまにあるな』

『あー、分かるわそれ。こう、目を離せないっていうか……なんか、お菓子一つで誰にでもついていきそうな類よね』

『ああ……すごく分かる。しかし実際、世話の焼きがいはあるよな。感謝されるためにやってるわけではないといえ、素直に嬉しそうな反応してくれるのはありがたいというか』

『ほぉ……一つ聞きたいんだけど、始のこと動物に例えるとなんだと思う?』

『……とりあえず小型犬。もっと細かく言うなら柴犬みたいに無邪気そうな感じのやつ』

『ああどうしよう、今これ以上ないくらいに夜鳥くんと分かり合えてるかもしれない……』

『奇遇だな、俺も梯間に妙な親近感を感じていたところだったんだ……まぁ、あれだ。良ければこれからもよろしく頼む……あと、始のことも頼んだ』

『ま、仲良くやってきましょ。あと、始のことはお互い頑張るということで』


 …………え、なに。この通話口からでも伝わる、生ぬるい感じの空気は。

 オレの友達、というか親友同士が親睦を深めあったのは嬉しいことだけど……なぜだろう、これまた別ベクトルでの恥ずかしさが湧き上がってくるような……。

 てか二人して小型犬だのお菓子一つでついていくだの、人をなんだと思ってるんだよ!オレそんなチョロくないよ!……多分!

 でも二人とも、良い感じに打ち解けあっている。ちょっと忘れかけていたけど、そういえばこうやって二人の会話を聞いてるのは終斗の好みを知るためじゃないか。

 今ならちょうど、友人同士の何気ない会話って感じでちょっとした好みなら聞き出せそうじゃないのか?

 そう思いオレが気を引き締めた直後、まひるが話題を切り替えるような口ぶりを見せた。そろそろくるか……?


『それにしても夜鳥くん、さっきまで読んでたのって漫画雑誌よね。なんかあなたがそういうの読むって少し意外かも』

『そうか? 始が漫画好きだから、それでたまに貸してもらったりするんだ。あと他にも身内の影響とか……ま、そんなわけでこういうのもわりと読むな』

『ふーん。でもなんだ、その表紙に載ってるグラビア目当てじゃないかって無駄に勘ぐったんだけど、やっぱり外れたか』


 グ、グラビア……。

 その言葉が聞こえた直後、スマホを握る右手に力がこもり、空いた左手に握りこぶしが形作られた。

 ここで女性の話題を出す。それはつまり『夜鳥くんってこういう子が好みなの?』とか『こんな顔が好きなんだ』的な会話へとスムーズに繋げるための布石に違いない!

 つまりここがオレにとっての正念場なわけだけど……ど、どうしよう。まだ心の準備が!

 綺麗な人か、可愛い子か。活発系か、清楚系か。

 顔付きとか、雰囲気は?オレに近い感じだといいけど、遠かったらどうしよう。

 で、でも女は化粧で文字通り化けるっていうし顔とか雰囲気ぐらいなら、きっとまだ頑張れる。うん、そんなことぐらいじゃ諦められないから!

 心の準備を済ませたら、オレにできることはあと一つ。

 終斗の好みを聞き逃さないよう、聴覚に全神経を集中させるのみだ。


『さすがにな。グラビア一つで雑誌に釣られはしないだろ』

『そう?うちの弟なんかは釣られそうだけど。ああ、うちには私の下に弟二人と妹二人がいるんだけどさ』

『結構な大家族だな』

『まあね、おまけに4匹も犬飼ってるし……ってその話は置いといて。その上の弟が中2なんだけどさ、その歳になると男って妙に色気づくっていうかマセるみたいで、目に見えてその手の物に興味持ち出すのね。んでその雑誌のグラビアの子にも興味あるみたいで、写真集みたいなのも買ってたんだわ。本人は秘密にしてるみたいだけど』

『……まぁ、男ならしょうがないだろ。思うところはあるかもしれないが、許してやれ。実際、俺だってそういうのに興味がないわけじゃない』

『いや私もそんな潔癖じゃないって、むしろ健全に男子してる証拠と思えば……ま、話のネタにはするけど。でも、夜鳥くんも興味はあるのか。へぇ……』


 まひるが、意味深な声色を出した。これは、来るか……!?


『それじゃあさ、夜鳥くんも』


 台詞の主は、またもまひる。

 彼女の声が脳に響き、オレの背筋に緊張が走った。


『このグラビアの子みたいな――』


 予想してた通りの、自然な話題の切り出し方。

 いいぞまひる、いつでもこい――


『――巨乳が好きなの?』


 ……うぇぇぇぇぇ!?

 穏やかな川のように自然な流れをぶっとい丸太で塞き止めるがごときぶっとんだ発言に、オレはスマホ片手にあんぐりと口を開かざるをえなかった。

 まひるさんあんた女子ですよね!花も恥らう女子高生ですよね!何でそんなダイレクトにち、ち、乳とか聞いちゃってるの!?

 

『……………………』


 通話口の向こうが沈黙に包まれている。

 当たり前だ、誰だってそうなる。オレだってそうなる。

 いやさ、これが男子学生同士の会話ならたしかに自然だ……と思う。うん、たしかオレもまだ中学生の頃はそういう話だってしてたし。

 でもほら、そういうのって女子の前でする話じゃなかったじゃん!女子がする話でもないじゃん!

 そんな質問、終斗が答えるわけ――


『……そうだな』


 え、ちょっと待ってあんな質問に答えちゃうの、本当に?

 いやいや終斗そんなキャラだっけていうかこれ心の準備がどうこうとかいう問題じゃないってだってオレの胸――


『人並みの意見でなんだが、小さいよりも大きい方がいいだろ。普通』


 ……。


 …………。


 …………………。


 気がつけば、誰かがオレの肩にそっと手を乗せていて。

 ぎぎぎと錆びたロボットのように肩に乗った手を辿ってみれば、その主はいつの間にか戻ってきていたまひるで。

 オレと目が合った途端、まひるはふっと息を吐いて口を開く。


「始、あんたに一つだけ言っておくわ」


 そして、次に彼女らしい晴れやかな笑みを浮かべて一言。


「――女は胸だけじゃないわよ!」

作者は貧乳派ではありませんが、貧乳気にしている貧乳は大好きです。


ちなみに次回はほぼ終斗視点の話。あいつもあいつでわりと面倒なんです。

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