第18話 これがオレの白魔法(後編)
弁当が、黄金色に輝いて見えた。
「あ、ああ、もう駄目だ……力の差が圧倒的過ぎる……」
まだ蓋が開かれてすらいないというのに、オーラ的ななにかが終斗の弁当からは滲みだしている。
それに気圧されて、オレはつい恐れを口から漏らしてしまった。
「始……?」と困惑の声を発する終斗だけれど、今のオレはただ自分の迂闊さに後悔を抱くことしかできない。
毎度毎度うっかりに定評のあるオレだけど、今回ばかりはもう、ほんとにもう!
しかしどうしてこんな大事なことを忘れていたのかと思い返してみれば、きっと料理が存外楽しかったからというのが大きかったのだと思う。
ファーストコンタクトの苦手意識から敬遠していたけれど、一度コツを掴めばめきめき成長していくのを自分でも感じられて、それと一緒に料理を作ることの難しさだけでなく奥深さや達成感も分かってきて。
そして、普段オレが美味しく食べている料理はこうやって作られているのかと思いを馳せれば、食べるのも作るのも一層楽しくなって。なって……。
だからつい浮かれて……もう、ほんとにもう!(二度目)
「始、大丈夫か?」
「ひぁっ……」
わざわざ終斗が気遣ってくれたというのに、オレはつい肩を跳ね上がらせてしまった。
終斗から見れば唐突にやってこられて唐突に恐れられたんだから、そりゃ困惑も心配もするだろう。
だけどオレは終斗の問いに答えることすらできず、代わりに一歩後ずさってしまった。
自信作だったはずの弁当が、急にみすぼらしいものに思えてきてしまう。だって絶対に終斗の弁当の方が美味しいから。
驚かせたかった、褒めてもらいたかっただけなのに、こんな弁当を見せても逆に呆れられちゃうだけかもしれない。
それは、いやだ。
……戻ろう。
「ごめん、なんでもないんだ。だから教室――」
文字どおり意気消沈したオレはそう言い残し、大人しく教室に引き返そうとして……。
「ん、それは……?」
その声に振り返ってみれば、終斗の目線はオレが手に持っていた弁当に向けられていて。だからつい反射的に答えてしまった。
「あっ、これは終斗に作って……あっ、いや、あのっ……」
ぽろっと漏らしてしまった事情に、冷や汗をかきながら慌ててしまう。
自分のうっかりさを心の中で謗りながらも、もういっそ勢いでごまかしつつとんずらしようかと、やけっぱちになって考えていたオレだったけれど――
「――わっ!」
途端にいつもの終斗からは考えづらいほどの強引さで、手に持っていた弁当を奪われて、思わず驚きの声を上げてしまうのだった。
●
文字どおりの浪漫にして叶わぬ夢だったはずの、始の手作り弁当。
それが目の前にあると知ったとき、『なぜそんなものがあるのか』『よりにもよってどうして始が俺にそれを作ったのか』、そんな理由すら思考せぬまま俺の脳は勝手に命令を下し、体は勝手に動いていて。
「わっ!」
始の驚く声で我に返ったときには、すでに始の弁当をひとつ奪い取っていた。
しかし我に返ろうがその我もどうやら正常な思考ができなくなっていたらしい。さてどうしようとわずかな逡巡を経てだした結論は『とりあえず食ってみるか』。
後から思えば我ながら正直というか欲望に忠実すぎたと苦笑する話ではあったが、今このときはそう冷静に見つめなおすなんて微塵もできなかった。
だって目の前に夢が転がっているのだ。むしろ冷静になれる方がおかしいとは思わないか?駄目か。だがそれでも食う!
水玉模様の風呂敷の結び目を手早くほどいて開くと、現れでたのは始がよく使っているであろう四角い弁当箱と同じものだった。おそろいか、いいじゃないか。
上に乗っていた箸箱をどかしてから、早速弁当箱を開ける……前に、一度ちらりと始を見やると、不安げな表情でおろおろと戸惑っている様子だった。
自分の名誉のために重ねて言うが、このときの俺はちょっとおかしかったのだ。
――うん、可愛いな。
始への脳内コメントをこれひとつで済ませると、俺は弁当をためらいなく開けた。いつもの俺ならここでためらう程度の良心は持っていたはずなのに……いや、ほんとだぞ?
そしてついに弁当箱の中身を拝見した、俺の脳裏に浮かんだ最初の言葉がこれである。
――ほんと可愛いな、くそ!
どうして始はこんなにも俺のツボを突いてくるのか。一体、俺をどうしたいのか。
口からいらぬ本音がでてきそうになるのを手で押さえ、それでも抑えられそうにない気持ちは小刻みに体を震わせて発散しつつ、俺は弁当の中身を今一度じっくり確認してみた。
べつにキャラ弁とか、デコレーションが凝っているとかそういう路線の可愛さはない。むしろ具としては普通の弁当といってもいいだろう。
まず左半分にはぎっしりみっちりと白米が詰まっている。梅干やふりかけの類が乗っていないのはわざとなのかはたまた失念していたのか。なんにせよ結構なインパクトだった。
そして残り半分には当然、具が詰められているわけだが……まずエントリー№1、きんぴらごぼう。ぱっと見無難な作りでそこそこ良さげだが、水気を取りきれていないのか水分が若干下の方に溜まっている。
エントリー№2はハンバーグ×2。一口サイズの小さな丸型だが、その輪郭は若干歪んでいてお世辞にも綺麗とは言いがたい。
エントリー№3の卵焼きは……おお、こっちは中々綺麗な形してるじゃないか。少しだけコゲているけれどこれは好みだろう。俺は好きです。
最後はエントリー№4&5を同時に紹介、ブロッコリーとオレンジ一切れである。足りない彩りをプラスするために入れたんだろうが、ブロッコリーはともかくオレンジは弁当箱に入れると水気がだな……。
よく見れば案の定オレンジと、さらにさっきのきんぴらの水分までもがあちこちに付着している。おまけにおかず同士の隙間が埋めきれていなかったようで、きんぴらなんかは具自体が若干はみだして他のところに進入してしまっていた。
さて……ここまでの観察を踏まえて今一度コメントを用意しようか。
――可愛い……。
さっきとなにも変わっちゃいない。当たり前だ、だって可愛いものは可愛いのだから。
料理初心者の下手な弁当、良いじゃないか。なにが良いって努力の跡がちゃんと窺えるのが良い。
ハンバーグは形が歪だけど、それはすなわちこれが手作りという証左で。晩飯にはあまり見ないような一口サイズな辺り夕飯の残りなどではなく、わざわざこの弁当のために早起きして作ってきたのだろう。
水気の多いオレンジやきんぴらというチョイスに対して水気に対する配慮ができていなかったのと、具全体の隙間を埋めきれていなかったのはたしかに失敗だ。だが彩りのバランス自体は結構上手いし、きっと作った直後ならば見た目も整っていたであろうことが容易に想像できる。
料理は愛情とはよく言ったものだが、努力の跡こそ正にそれということだろう。気持ちを込めて作られているのが分かると、それだけで美味しそうに見えるものだ。たかが気持ちされど気持ち、料理はテンションで食べるものだと俺は思う。
脳内で賞賛の言葉を並べながらじっくりゆっくりと弁当を眺めていた俺だったが、再び始をちらりと見てみればなにを勘違いしたのか、今にも泣きそうな、不安げな顔でこちらと弁当を交互に見つめていた。
もしかして、弁当の観察に時間をかけていたせいで『バカにされている』とか思ったんだろうか。それとも中身を見たときのリアクションがまずかったのか。
……さて、何度だって重ねて言おう。普段の俺ならばここで『それはとても大きな勘違いだ』と即座に訂正していたはずだ。はずなんだが……このときの俺は、やっぱりおかしかったのだ。
――よし、可愛い。
なにが「よし」なのか自分でも分からないが、とにかくよし。さっきから可愛い可愛い思いすぎな気もするが、可愛いのでよし。
ちょっとアレな精神状態のまま俺は一人納得して、始から弁当へと視線を戻す。
付属の箸箱から箸を取り出しながら、さてなにから手をつけようと、誕生日プレゼントを選ぶ子供のようなうきうき気分で思案する。
……うん、決めた。
まずは卵焼きだ。その上手な巻き方、整った形からして、これが始の自信作と見た。
そうと決まれば早速摘んでみる。それと同時に始から声が上がる。
「あ、それオレが一番自身あった……」
やはりな。
意味もなく内心でしてやった気になって、それから迷わず卵焼きを口に放り込んだ。
ほぼ同時に三度ちらりと始を見れば、不安と期待が入り混じったような複雑な表情で口をつぐんで俺を見守っていた。さっきから表情がコロコロと変わるやつである、それもまたよし。
卵焼きは口に入るとまず、甘くこうばしい香りをほのかに伝えてくる。それにつられるようすかさず歯を突き立てたら、柔らかく上品な甘味が口いっぱいに広がった。砂糖ベースの味付けなのか、俺が作るものよりも結構甘味が強めだが……これはこれで。
むしろこの甘味になんとなく"始らしさ"を感じられるのが嬉しい、なんて無駄なことを考えながら咀嚼を続ける。
これが、あいつの好きな味付けなのかな……覚えておこう。またそのうち、この味付けで今度は俺が卵焼きを――ガリッ。
「ん?」
卵焼きではありえない異物感。なにやら硬いものを噛んだ感覚が歯に伝わって、違和感に首を傾げる。
軽く歯を開けてもう一度噛めば、今度はジョリッと砂を噛んだような音とざらつきが……なんか、大体予想ついたぞ。
小指の爪ほどもないであろうその欠片を飲み込んでしまわないよう気をつけつつ、卵焼きだけを喉に通して……あ、また歯にガリって。
卵焼きを飲み込んだあと、口内に残った欠片を舌に集める。そして舌をだし、ひとさし指でそっと欠片を拭い取った。
すると指の先に付いていたのは白色の欠片。
「やっぱり、卵の殻だ」
呟きつつ次に始へと顔を向ければ、始の顔も血の気が抜けた驚きの白さとなっていた。卵みたいな丸顔に白い肌がよく映えている。
それもそれで可愛いのだが、正気度の低い俺の脳でもさすがにまずいことは理解できた。
制服のポケットから取り出したハンカチで手を拭いつつ……とりあえずフォローしよう。そう思って、なんてことのないようなニュアンスで始に言った。
「ま、殻が混ざっていたとしても……美味しいよ、卵焼き。お前が料理できるなんて聞いてなかったから正直驚いた」
血の気の抜けていた始の頬に、わずかな赤みが戻った。
口角がほんのり上がっている辺り、フォローは成功したらしい。
しかし始はすぐに顔をうつむかせてから、つたなく話し始めた。
「あ、あの……実は一週間前から練習してて……だから、えっと……なんていうか、折角だし最初はお前に食べてもらおうって。でも失敗して……殻とか、見た目とか……」
自分の失敗を口にだして、余計に後悔でもしたのだろう。始の声のトーンが見る見る下がっていく。
ここでその失敗を『そんなことないさ』とスルーするのも選択肢のひとつ、だが……頑張りやな始に応えるというのならばお世辞よりも素直な言葉で、かな。
「……そうだな、たしかに失敗は失敗だ。それは否定しない」
「あぅ……」
「――だけど、ちゃんと始の気持ちがこもっているのはこの弁当を見れば分かるよ。頑張ったんだな、一週間でここまでできたんなら、むしろ上出来というものだ」
「あ……そ、そうかな……」
始の顔は相変わらずうつむき気味だが、俺からでも見える頬にはさっきよりも分かりやすく、薄らと朱が差している。下に目線を移せばその小さな両手の指は絡め合わさり、こちょこちょもじもじと始の心境を表すように忙しなく動いていた。
よかった、もう落ち込んではいないらしい。批判も褒め言葉も素直に受け止められるのもまた、こいつのいいところだ。
しかし始が頑張っているのなら、俺も力になってあげたい……お、そうだ。
ふと脳内に差し込まれた迷案もとい名案。
ほんの少しの理性が冷静気取って「いやそれほんとにいいのか? 後で後悔しても知らんぞ」と問いかけてくるが、昂ぶる本能が「ええい知ったことか!」と拳ひとつで理性をKO。最早説明不要ではあるが、このときの俺は以下略。
思いの丈を思いのまま、俺の口が写し取って外に放つ。
「始……どうせなら俺が教えようか、料理」
「え……え!?」
つい先ほどまでうつむいていた始が、がばりと顔を上げて目を見開いた。元々丸い瞳がさらにまん丸になってなんだか面白い。
そんな始につい笑みがこぼれたけれど、気にせず言葉を続けていく。
「どうせ帰宅部だから放課後はわりと暇人だ、教える時間はいくらでもある。それに……」
「それ以上は、それ以上はさすがに……」と虫の息でなにかを訴えかける理性を、本能が容赦なく土に埋める。
本能が完全犯罪を成し遂げると同時、俺の口が動いた。
「――俺も上手くなったお前の手料理、食べたいしな。ま、これからも料理を続けるなら……の話だが、どうだ?」
●
昼休みが終わるギリギリに1-Aの教室へと帰って来たオレを出迎えたのは、少し申し訳なさそうな表情をしたまひるだった。
「あ、始。あー……あのさ、景気良く送り出してなんだけど、よくよく考えたら夜鳥くんって自炊派だったし……黒魔導士がたった1週間練習しただけの代物持っていっても微妙な顔されるのが積の山――ってうわなにその笑顔! 大丈夫? おかしな方向に吹っ切れてない!?」
「えっ、そんな分かるくらい笑ってた? ちょっと恥ずかしいかな……えへへ……」
オレの顔を見たまひるのリアクションで、オレは自分が相当にやけてしまっていることにようやく気づいた。でも全然顔は戻らないし、戻そうとも思わない。というかそれどころじゃなかった。だって……えへへ……。
表情筋がゆるゆるになってしまっているオレに、まひるはなぜかおかしなものを見る目を向けてきた。
「ほんとにどしたのあんた……正気? 悲しみが1週回ってたりしない?」
「え? ああ、うん。全然」
「そう……私はてっきりあんたが弁当見せに行ったせいで、もしかしたら恥でもかいたんじゃないかと心配してたんだけど……」
「あ、それはあったよ。卵焼きに殻混ざっちゃってたりしてた」
「ほらぁやっぱ1週回ってるー! 分かった。もういい、もういいから、今日の放課後はファミレスのドリンクバーで飲み明かしましょう。特別にセットメニュー奢ってあげるから!」
「むぎゅっ」
どうやらオレが深刻な精神的ダメージを受けたと思ったらしく、まひるが突然その豊満な胸にオレの顔を引き寄せ慰めてきた。顔面を包む柔らかい感触に慄き半分ほっこり半分しながらも、誤解を解くためにすぐまひるを引き剥がしてから言った。
「ち、違うって! たしかに失敗はしちゃったけど、今はほんとに嬉しいんだって!」
「え、それって……もしかして作戦が失敗続きなせいで良からぬものに目覚めて」
「ないから! 料理の失敗とは別のことがあったの!」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「…………そっか。ま、ならいいけど」
誤解が解けたようでなによりである。これで心置きなく、
「あ、それはそうと奢ってくれるならハンバーグセット」
「ねえよ」
ですよねー。
……あ、こんな馬鹿いつまでもやっていたら昼休みが終わっちゃう。オレはさっさと話を戻して、まひるに一部始終の報告を始めた。
「えっと……とりあえず、結果から報告すると……終斗に料理を教えてもらえることになりました。えへへ」
「わぁなにそのミラクル。でもなるほど、だからそんな嬉しそうなのか」
「うん! あのね、最初はまひるの言ったとおりオレの弁当は終斗に比べたら全然下手で、それに気づいたらすごい惨めな気持ちになって泣いちゃいそうにもなって……」
「それで?」
「えっと、でも終斗はオレの弁当をなにも言わず食べてくれて。それでお世辞なんかじゃなくて、失敗したところや良かったところを素直に評価してくれて……嬉しかった。それだけオレの弁当をちゃんと見てくれてるって知れたから」
「へぇ……ちゃんと見てくれてる、ね」
まひるが感心したような声を漏らす中、オレは無意識のうちに声の熱量を少しずつ上げながら、話を進めていく。
「それでね、それでね、そのあと終斗が言ってくれたんだ。『どうせなら俺が教えようか、料理』って!」
「お、おう」
「しかもさ、次のセリフがね! それにもうオレすごいテンション上がっちゃって! ねぇ、なんだと思う!?」
「さ、さぁ……」
引き気味になるまひるを気に留めることなく、オレのボルテージがどんどん上がっていく。
だって、だって……あんなこと言われちゃ、しょうがないじゃないか!
オレは調子に乗って終斗の声音を真似しながら、そのセリフを言い放った。
「――俺も上手くなったお前の手料理、食べたいしな」
なにを言っているんだこいつは。
そう言わんばかりにぽかんと口を開けるまひるを置いて、体をくねらせて一人盛り上がりまくるオレ。
「ふへへ、手料理食べたいって……食べたいって! オレ期待されてるってことでいいんだよね! しかも放課後終斗と二人きりでお料理教室とか……キャー!」
「ていうか、それってさ」
「そのうち弁当交換とかしたりしちゃって、すごい美味しい終斗の弁当をオレが食べられて、すごい上手くなったオレの弁当を終斗が食べてくれて……ふへ、ふへへへ……」
「そんだけ妄想しといて結局飯かこの食欲魔人!」
「ほあぁ!? はっ、オレはなにを……」
ぺシーン!と快活な音を響かせたのは、オレ自身の頭とまひるが手に握っている棒状に丸めたノートだった。
正気に戻ったオレに向かって、まひるがため息をひとつつく。
「はぁ……あんたはまったく、うっかりっていうか、お馬鹿っていうか……」
「うっ……た、たしかに料理ひとつで浮かれすぎだったなって自分でも思うけどさ……でも少しくらいいいじゃん。ホントに嬉しかったんだから……」
浮かれすぎたのを咎められたのだと思い唇を尖らせて弁解するおれだったけど、しかしまひるの言いたいことはどうやら違ったようで。
「あー、そうじゃなくてさ」という出だしをもって、まひるはオレに尋ねてきた。
「夜鳥くんはたしかに、あんたの手料理が食べたいって言ったのよね」
「うん! そんな大事なこと、絶対に聞き間違えるはずがないよ!」
力強く言うオレに対して、まひるはわずかに考え込む。そしてまた質問を投げかけてきた。
「……そもそも、あんたよく夜鳥くんに自分の弁当食わせる気になったわね。気づいた時点で帰ろうとか思わなかったの?」
「うーん、たしかにそれも思ってた。だけど帰る前に『終斗のために作ってきた』ってオレが口を滑らせちゃって。そしたら終斗が弁当をひったくってきて……でもやっぱり終斗って優しいよね。最初は正直、終斗にしては珍しく強引で少し驚いたけど、きっとあれもオレが料理を上達できるようにやってくれたことなんだよ」
「強引に、か……」
「まひる……?」
オレの言葉を聞いて、またしても考え込むまひる。今度は長い沈黙が場を支配した。
どうしたんだろう。その妙な様子にオレが疑問に思いながら首をかしげている合間に、まひるはなにやら考え終えたようで。
一人納得するように頷くと、オレに向き合ってから何気無い調子で言った。
「――あんた、夜鳥くんといっぺんデートしてみなさい。そんであわよくば、告白までしちゃったら?」
正に青天の霹靂。
は?という疑問の声すら上がらず、ただ目をぱちくりさせるしかできなかったオレの頭上では、昼休みの終わりを告げる甲高いチャイムが響き渡っていた……。
そんなこんなで急展開来たる。