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第13話 文化祭延長戦その1―お節介な彼女の巻―

 私――梯間はしままひるが"あいつ"とであったのは、9月中旬のあくる日のことだった。今からだと大体1ヶ月半ほど前だろうか。

 その日も私はいつも通り学校に行って、帰り、そのあとはバイト……がその日はたまたまなかったから、我が家のアイドルである4匹の小型犬の散歩にでかけていた。

 ちなみにその子らの犬種は柴犬、ヨークシャテリア、コーギー、豆柴だ(これも正確に言えば柴犬だが)。……まぁ全員血統書の一枚もない捨て犬なので、後ろに"っぽい"がつくが。

 そう、うちの犬は全員拾ってきた子だった。しかも全部私がである。どうにもこうにも、ああいうのは放っておけない性質たちなのだ。それに犬好きだし。

 だからなのかは分からないが、私はどうやら捨て犬に縁があるらしい。


 散歩中に川原で見つけたのは、体育座りでたそがれている大きい大きい小型犬。具体的に言えば捨て犬みたいな雰囲気に覆われた、小柄な女子高生だった。

 そんなこんなで放っておけず、そんなこんなで悩みを聞いて、気がつけば私たちの関係は"ただのクラスメイト"から"友達"に変わっていた。ざっくり言えば、それが私とあいつ――朝雛始との始まりである。

 それから始の告白の練習に付き合ったり、悩みを聞いてあげたり、ときどき普通に遊んだり。すると1ヶ月もしないうちに"友達"が"親友"に変わっていた。


 それに気づいたとき、私は少し驚いた。

 自分で言うのもなんだけど、交友関係はわりと広い方だと思う。ただそれは共働きの親に代わって弟妹や犬たちの世話を昔からしてきたせいで染み付いた自他共に認める世話焼き気質と、自分が拾った犬の世話代のために掛け持ちしているバイトのおかげで培われたものだ。こう言ってはなんだけど、私自身はそこまで人付き合いにこだわるタイプではない。むしろ無駄に知り合いが多い分、人間関係というものには淡白なのかもしれない節すらあった。座右の銘は『来る者は拒まず、去る者は追わず』辺りでいいかな。

 そんなスタンスのせいか家族以外で特定の誰かに固執したことはなく、今まで親友と呼べるほど深い関係を持った相手もいなかったのだ。ついでに言えば花の女子高生だというのに悲しがな、彼氏もいない。言うほど欲しいわけでもないけど。


だから自分が始に対して、それもたった一ヶ月でそこまで強い友情を感じていたことを自覚したときに驚き、戸惑ったのだ。……だけどすぐに、そういうものかと納得もした。

 だってあいつ、犬みたいだし。それも私が一番好きな、小型犬っぽい。小さい体でめいっぱい素直に感情を表現するところなんかいかにもだし、犬はちゃんと愛情込めて世話した分好意で返してくれるけれど、始も世話焼いたらこっちが照れくさくなるくらい素直に好意を返してくれるし。いやべつに好意が欲しくて世話しているわけじゃないけれど、それはそれとして嬉しいじゃん?

 あとは……なんていうか、すぐ食欲に負けそうなところとか?

 つまるところ世話焼きで犬好きな私と素直でどこか犬っぽい始とは、なんていうか波長みたいなものがあったのだと思う。

 そういう経緯があって、今ではあの子の力になりたいと前よりも強く思っている。だからこその『朝雛始美少女化計画』だ……が、実はこの計画、始には伝えていないが夜鳥くんを惚れさせること以外にも、もうひとつの目論見があるのだ。


『冷静に考えたらさ、終斗がオレに惚れるなんて……有り得るのかな……』


 それは始に自信をつけさせることである。

 結論から言えば、始は可愛い。

 顔は幼めだが普通に愛らしく、小柄で、真っ直ぐで、誰にだって分け隔てなく接する彼女は男女関係なくクラスの人気者だ。ぶっちゃけ主にマスコット的な扱いばかりだけど……ただどうやら、男子には別の意味でも隠れ人気みたいなのが存在するようで。別の意味というのは、無論恋愛対象的なあれこれである。

 まぁ実際、少々ちっこくても可愛い女子が遠慮なく接してきたら、男子は意識してもおかしくないだろう……現にうちの上の弟も大和撫子系がどうこう言っておいて、真逆のタイプであるはずの始が遊びにくる度に少し挙動がおかしくなっていた。……よし、今度釘のひとつでも刺しておくか。

 とにかく、始は男目線から見ても普通に可愛いのだ。少なくとも恋愛対象として意識される程度には。

 だというのに、肝心の本人がそれをどうにも理解していない節がある。


『オレ胸も背も小さくて女らしい魅力なんてないしファッションセンスも自慢出来ないし家事だって全然だし未だに男言葉使っちゃってるしつうか元々男だったし……』


 普段は底抜けに明るいのに自分のこととなるとこれでもかとへこみだす、ちぐはぐな価値観。それはどうやら"元男"ゆえのものらしい。

 反転病が世間にその存在を認知されてから半世紀も経っているこのご時勢、そんなことをいちいち気にする人はむしろナンセンスと言っても過言ではないし、実際さっきの話にでた隠れ人気も始が元男であることが周知された上でのことだ。

 だから元男であることを引き合いにだして凹む必要はない……と外野から見れば思えるのだけど、きっと当の本人じゃないと知りえない世界というのもあるのだろう。

 でも私には、始と同じ目線で世界を見てあげることはできない。だからせめて始の魅力を引きだすことで新たな一面を見出したりして、あいつの劣等感を少しでも払拭させてあげたい……それが『朝雛始美少女化計画』もうひとつの目論見だ。


 あ、じゃあなんで自信をつけさせてあげたいのかという話だけど……ぶっちゃけね、思うのよ。『とりあえず告ってみればいいんじゃない?』って。

 いやだって身も蓋もない話だけど、素敵な異性に告白されたら好みなんて関係なく意識しちゃうじゃない?……って自分で言っておいてなんだけど、私はそこら辺微妙かもしれない。少なくとも知らない人間から唐突に告られても、それがどういう奴であれ多分断る側の人間だ私。

 それはそうと、告白から始まる恋なんて話はそこら中にゴロゴロ転がっているもので、夜鳥くんも例外じゃないかもしれない。

 そうでなくても少なくとも"親友"なら無下にはしないだろうし、ましてやそんなに想われているのに嫌ったり気持ち悪がったりなんてするわけないだろう。というか夜鳥くんがそんな人間なら本気でひっぱたく、いや殴る。グーで殴る。

 だから告白ひとつで"親友"としての縁が切れることもないわけで、それならいっそのこと向こうが折れるまでしつこくアタックし続けるのが案外最善手な気がするのだ。

 多分、そこまでやって駄目なら夜鳥くんから惚れさせるのもどのみち無理なんじゃないかと、私としては思う。

 もうひとつ付け加えるなら、夜鳥くんは夜鳥くんで女子人気高いから早く行動に移さないと横から掻っ攫われる可能性もさもありなんという懸念もある。『恋はいつだって早い者勝ちだ』というのは、こないだ通算4人目の彼氏とお付き合いを始めた友人A氏の言葉だ。しかし二股とか不健全なことはしていないからいいが、早い者勝ちっていったってもう少し選り好みしろよA。


 なんにせよ、始と"親友"との恋は成就して欲しいと、私はあいつのもうひとりの親友として願っている。

 


   ◇■◇


「…………この駄犬!」

「キャン!?」


 私の言葉に朝雛始という名の駄犬が、ダメージを受けたかのように仰け反り声を上げた。

 そういやこいつまだ犬……狼女の仮装してるのね。いや本人が気に入ったのならなにも言うまい。


「犬じゃない、犬じゃないもん……」


 気にするのそこかよ。

 つい心の中でツッコミを入れてしまう私の視線の先で、始はしゅんとうなだれて落ち込む様子を見せた。始にひっついてる狼の耳や尻尾が本物だったら、今頃へにゃりと垂れ下がっていただろう。正直、ちょっと見てみたい。

 しかしまぁ……。

 鉄板で焼かれる焼きそばからジュウジュウと食欲をそそる音が鳴り、焼きそばに絡まったソースの香ばしい香りが漂う中で、私は始から少し距離を置いて立っている夜鳥くんをちらりと見てから、また始に目を向ける。

 そしてまだしょんぼりしている始に呼びかけた。


「始」

「はっ……せ、せめて忠犬ぐらいにしてくれると嬉しいです!」


 なにを勘違いしてるんだ、というかそれでいいのかあんたは。


「お黙り駄犬。にしてもあんた、案外普通に楽しんでるのね」


 私の言葉に、始は首を傾げる。


「? まぁ終斗と一緒だし。お祭りも好きだし」


 当たり前のことのようにそう言い切った始に、内心で少し面食らってしまった。

 予想とは違った返答の理由が知りたくて、私は始に尋ねた。


「そういうもんかねぇ。てっきり私はもうちょっとガチガチに緊張するもんかと思ってたんだけど。なんせデートみたいなもんでしょ?」

「デート……?」


 ポンッ!

 オノマトペで表すならそれ以外ありえないだろう、という勢いで始の顔が耳まで真っ赤に染まった。

 おお……ほんとに意識してなかったんかい。知っててあえてなにもないかのように振舞っていた可能性も、考えてはいたんだけど……まぁ始だし、意識してなかったって方が妥当かなとも思わんでもない。

 あ、そういやそろそろ焼きそばできあがるわ。


「で、で、で……違うって! そんなんじゃないよ!」

「ふーん、それじゃあどんなのさ」


 私はできあがった焼きそばの山をトングで掴んでプラスチックの蓋付き容器によそいながら、始に聞いてみた。とくに追求する理由もないのだけど、強いて言うならちょっとしたイタズラ心だ。

 始は「え……」と一声だけ上げたあと、私が容器の蓋を閉めて輪ゴムで括って留めるまで黙っていたが、私がその作業を終えた直後には口を開いた。


「……よくわかんない。言われてみればデートっぽいかもだけど、べつにそういうつもりもなかったし……うーん、やっぱり違うような、違わないような」

「なんだそれ。あ、はい焼きそば。お代は200円ね」


 首を傾けて悩ましそうに言う始に、私は苦笑しながらできあがった焼きそばを始に渡した。

 しかし意中の男子と二人きりなんだから、もう少し緊張した方が可愛げがあるような気もするけど……。


「はい、200円」

「まいど。……ま、それくらいの方があんたらしいか」


 なんとなくだけど、そう思った。


「えっと……それって、褒めてる?」

「さてどうだかね」

「むぅ」


 少なくともけなしてるわけじゃないが、始の膨れ面が中々に面白いのであえて言葉を濁しておく。こう、なんていうか頬をぷすってしたくなる感じ。

 だがすぐに始の表情は、なにかを思い出したようなものに変わった。それにしてもつくづく表情がころころ変わる子である。


「あ、そうだ。まひるに言っておきたいことがあったんだ」

「ん? どしたの改まって」

「う、うん。あの……オレ、もっと魅力的な女の子になれるよう頑張るよ! いや前からも頑張ってたつもりだけど、より一層というか……ちょっと今日の文化祭で色々思うところがあったから、うんそれだけ!」


 言い切って「えへへ」と照れくさそうに笑う始。

 文化祭で、ね……。夜会のことは忘れていたけれど始は始なりにとりあえず前に進めた、ということらしい。ま、そういうことなら駄犬の称号は取り消してあげよう。そうね……愛玩犬くらいでいいかしら。忠犬?こいつにはまだ早い。

 ……それはそれとして、ひとつ思ったことがある。それは前々から気にかけていた話でもあった。


「始」

「なに?」


 こういうことを本人に直接言うのはおかしな気もするが、とはいえ始の場合言わないと気づかないだろうし。

 私は若干気恥ずかしく思いながらも、自分の素直な思いを始に伝えた。


「……ま、なんていうかさ。あんたは多分自分が思ってるよりも可愛いだろうし、もうちょっと自信持ってもいいんじゃない?」


 私が言い終えたら、始は目をぱちくりさせて驚いた様子を見せる。

 しかしすぐ、照れくさそうにはにかんでみせた。


「えへへ……か、可愛いかな。オレ」

「かわいいかわいい」


 大なり小なり照れもあって口では適当に流したけど、現に今のあんたの笑顔は、そんじょそこらの女子にだって負けない代物だと思う。


「そっか……ありがと」

「わざわざ礼言われるほどのことは言ってないけどね」

「でも実際にちょっとだけど自信付いたし。なんたって他ならぬまひるの言葉だからな!」


 またこいつはそんなことを直球で言う……。そういうところが、なんというかかんというか。

 一方私は『そこまで信頼してくれているのが嬉しい』なんてしれっと言える柄でもないので、手慰み代わりに残った焼きそばを容器に移し替えながら、あえて軽い調子で言った。


「そりゃどうも。ま、なんにせよ言うからにはとことんやればいいんじゃない? 乗りかかった船なりに、私も手伝ったげるし」

「それなら百人力だね、明日からまた頑張るからよろしくな! それじゃオレはもう行くよ」

「おう。デート……かどうかは置いといて、せっかくだし精々楽しんでらっしゃい……あ、ちょい待った」

「ふえ?」

「ちょっと夜鳥くん呼んで来てよ。ちょっとだけ話あるから」

「終斗? それくらいならべつにいいけど」


 始は私の言うとおり、少し離れたところにいる夜鳥くんを呼びに行った。

 しかし夜鳥くんは空気を読んで、あえて離れてくれていたのだろうか。実際、話の内容的にはその方がありがたかったけど……そういう気遣いはできるのに、どうしてあんな分かりやすい始の気持ちには気づかないんだか。

 あれがいわゆる"朴念仁"ってやつなんだろうか……もしかしたらなにか理由があって気づけていない可能性や、気づいていてあえて放置している可能性もあるが。とりあえず、後者なら一発殴る。

 それはそうと私が夜鳥くんを呼んだ理由だけど……いわゆる、ちょっとした気まぐれというやつだ。

 そうこうしている間に、始と入れ替わる形で夜鳥くんが私の前に歩いてきた。すらりと伸びた長身に端整な顔立ち、相変わらずの伊達男である。私の好みからはちょい外れるがそれはそれとして。


「どうした梯間」

「はいこれ。せっかくの祭りなんだしサービスしてあげようと思ってね。あと始のお守りの駄賃的な」


 私が適当な理由をつけて夜鳥くんに渡したのは、始と話している間に詰めたばかりの焼きそばだった。

 とはいえこれは単なるおまけのようなもので、本当の目的は別にある。


「正直、始に付き合ってたから結構腹膨れてるんだが……」

「だろうと思ってた。べつに今食べろなんて言ってないわよ。べつに明日のご飯にしてもいいし、なんなら始にあげるのもありよね。あいつなら食うかもしれないわ」

「それは……ありえるな。元々よく食べるやつだったが、最近では女子には別腹がどうとか言いだして、食べる量がさらに増えたからな……」

「おお、さすが長年の親友らしくよく見てるじゃない。でも……一部分に関して言えば、私の方が上かしらね」

「む……」


 私の言葉に面食らったのかそれとも対抗意識を感じたのかは分からないが、少しだけ額に皺を寄せた夜鳥くん。しかしすぐに軽く息を吐いてなにか納得したような素振りを見せた。


「……たしかに昔ならともかく、今の始は女子だから、そういう意味では梯間の方が分かることもあるんだろうな」

「……へぇ、ちゃんと"女子"って思ってるんだ」

「なんか言ったか?」

「いや、なんでも」


 おっと、つい考えが口から漏れてたか。始じゃないんだから、気をつけなければ。

 それはそうと、始の口ぶりからして夜鳥くんは始のことを男友達くらいの感覚で見ている可能性も考えていたけど、今の言葉からして少なくともそうではないらしい。

 夜鳥くんが始のことを異性だと認識してるのなら、異性として好きになることもありえるということだ。

 んー、やっぱり後は当人たちの意識次第ってところなのかも。それならやっぱり、一言言っておくべき……かな。


「ま、なんていうかさ……べつに、女子だから分かるってわけじゃないと思うのよね。あれ・・は」

「ん? ……ああ、さっきの話か。でもそれはどういう――」

「はい焼そば」


 夜鳥くんに追求される前に、私はまた焼きそばを押し付けるよう夜鳥くんに手渡した。


「おい待てなんでこのタイミングで」

「先行投資みたいなものよ」

「は?」

「そんで駄賃代わりって言っちゃなんだけどさ……」


 恋の決着は当人たちで白黒つけるべきだ。

 だからこそ、始の手助けはしてきても夜鳥くんに対して働きかけることはしなかった。始の好意にはきっと、彼自身の手で気づかなければいけない。

 だけど、これくらいはおせっかいを焼いてもいいはずだ。少しだけ、彼の背中を押すくらいは。

 だから私は、背中を押した。


「――もっとしっかり始のこと見てあげても、いいんじゃない?」

「……梯間……」


 私の言葉に、夜鳥くんはなにやら考え込む素振りを見せる。

 夜鳥くんがなにを思うかはもう彼次第だが、これが始の好意に気づくきっかけになれば幸いってやつかな。

 そんなことを思っているうちに、夜鳥くんは思案を終えて口を開いた。


「……梯間。お前の言っている意味は、なんでお前がそれを言ったのかは正直まだ分からない。だが……」


 お、これは良い方向に向かって……?

 そう期待する私にしかし夜鳥くんは若干呆れたように目を細めて、言った。


「……お前が、雰囲気にかこつけて焼きそばの処分を人に押し付けてるのだけは分かった」

「はてなんのことやら」


 後夜祭ももうすぐ終わりだからさっさと在庫捌かしたいだなんて、そんな世知辛い事情知らない。


   ◇


 夜鳥くんが始と合流して去っていくのを、私は焼きそばを焼きつつ屋台から見送った。

 あ、夜鳥くんが始に焼きそばを1パック渡してる。始も素直に受け取ってる……むしろ喜んでるようにも見える辺り、あの胃袋は底なしか。そんなに食べて縦にも横にも伸びないのは、もはや一種の才能なのかもしれない。


「それにしても……」


 楽しそうに笑う始と、優しく微笑む夜鳥くん。

 並ぶ二人の背に、そこに漂う雰囲気に、私はどうしても思ってしまう。


「普通にお似合いよねぇあの二人。ああしているとやっぱりカップルにしか見えないというか……」


 べつに男女二人組を見てとりあえず『あいつらカップルだな』と連想してしまうような恋愛脳ではないつもりだが、それでもあの二人がそう見えてしまうのはなぜだろう。

 カップル、恋人……たとえば、二人が恋愛的な意味で好きあってるからそう見えるとか?


「いやいや。始はともかく夜鳥くんにその気はないんだし」


 ふと浮かんだ直感を、私はかぶりを振って否定した。大体好きあってるなら、すでにカップルになっているはずだろうに。

 乙女の勘といえど、勘は勘。たまには鈍るときもあるらしい。私は思考を切り替えて、明日以降のことへと思いを馳せる。

 具体的に言えば『朝雛始美少女化計画』の話だ。さて、次はなにをしよう。


「うーん。見た目、性格と来たら次は……腕?」


 腕と書いてテクニック、心技体で言えば技の部分である。残りの心と体を性格と見た目に当てはめればその二つはすでに特訓を終えているので、そういう意味でも丁度良い。特訓の正否とか、そもそも武道の概念が恋にも適応されるのかなんて些細なことは置いといて。友人Aも『恋は戦い』だと言っていたし。まぁAの場合はいくらなんでも常在戦場の心意気に溢れすぎている気がしなくもないが。

 あとはいっそ、デートに焚きつけてみるのもいいかもしれない。今日みたいに二人きりで過ごさせれば、またなにか進展があるかもしれないし。

 そうして私が思案に耽ると共に、祭りの夜も更けていくのだった。

その1と書いてあるからには、もうしばらく続くわけで。

次は皆大好きあの子のターンです、ではではまた次回。

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