クズはクズに
王都、女王が住む城にて美しく、格別の容姿力を持った少女が存在する。彼女はただの少女ではない。彼女こそがミネルヴァ・リ・アライズ。少女王の名を冠する王都アライズの頂点に立つ者だった。
「我が王よ。お許し下さい。ケルベロスの死骸を調査していた永劫隊ですが、行方が知れません。何者かに排除された可能性が高いかと」
黒衣の男がアライズ王城、玉座に座る赤髪の少女ミネルヴァにそう言った。ミネルヴァは切れ長の瞳をさして歪めずに報告を聞く。
「永劫隊の調査人数は?」
「四人です。最期の報告はレリューシア近辺だったかと思われますが」
ミネルヴァがフン、と鼻を鳴らす。黒衣の男が提出した報告書を見ながら僅かに嗤った。
「馬鹿ね。こんな人間のステータスでケルベロスを殺せるわけないじゃない。永劫隊も落ちたものね。再編成が必要かしら」
その報告書に書かれた幾人の人間。総じてステータスが高い者の羅列ではあったが、ミネルヴァにはお気に召さなかったようである。
「しかし本当にケルベロスを殺したのが人間かどうかも怪しく」
「言い訳はいい。私はケルベロスを殺した奴を探せと言ったの。近年、突如大型の魔物が廃れた農村や都市に流出してくる。これ以上私の国を魔物に蹂躙されてはたまらないわ。だからこそ強い駒が欲しい。理解できる?」
黒衣の男はミネルヴァに膝付く。
「はっ。調査は続けます」
「いえ、もういいわ。永劫隊は調査を打ち切って、レゴセルスの調査に回りなさい」
レゴセルス。最近魔物の増加が絶えない村であった。
「いいのですか?」
「二度は言わないわよ、私は」
その言葉を聞いて黒衣の男はそそくさと玉座の間を退出する。
「くっくっく。無茶振りが過ぎるんじゃねえのか、ミネルヴァ。永劫隊も万能じゃねえ。お前が有能な私設隊を作りたいっつうから作ったのによ。てんで駄目みたいじゃねえか」
ミネルヴァが座る玉座の裏からそう言って現れた黄髪の男。彼の名はラグナ。ミネルヴァが誇る最強の騎士だった。
「五月蝿いわよ、ラグナ。皆があんたみたいに化け者じゃないの。しかし、あんたを最終防衛ラインとして、もう一人欲しいわね」
ラグナが首をかしげる。
「何がだよ?」
「化け者の味方よ。魔法省の調査ではケルベロスの近辺に魔物の反応はなかった。つまりケルベロスを殺したのは人間ということになる。他国の刺客の形跡もない。ああ、楽しみよ。私の膝元に私の知らない強者がいるなんてね」
ミネルヴァが愉快そうに嗤った。ラグナはため息をつきつつ、彼も笑って言った。
「お前の人材コレクターっぷりには驚くぜ。俺だけじゃ満足できねえのか?」
「ええ、無論。この世は強さが全て。弱い人間は淘汰されるが定め。だとしたら、私の側には最強を置き続けたいと思うでしょう?」
ミネルヴァが赤の長い髪を揺らす。
「かもな。アライズのステータス改革の急進派として名を馳せてるお前だ。貴族の連中からはよく思われてないのは裏目に出てるが」
ミネルヴァは不愉快そうに目を細める。
「ラグナ。いつものように全滅させなさい。私の側に弱者は不要。私が女王よ。先代の王が死んで一年。膿は膿に帰るべきなのよ」
ミネルヴァは持論を語る。弱者は不要。強者のみがミネルヴァの前で存在を許容される。
「殺すかは俺が判断する。パトロンから睨まれても嫌だしな。学園の方はいいのか?」
王都魔法学園、Sクラスに在籍するミネルヴァ。彼女にとって学園とは名義でしかない。王でありながら学園に通うというものは何かとアンバランスなものだ。
「いいわよ。得たい情報もないしね。Sクラスと言っても私しかいないし。連携は取りたいけれど、足が付くこともないでしょう」
ミネルヴァは虚空を見つめていった。
「あんたは必ず私が見つけるわ。ケルベロスの攻撃には同一の攻撃反応があった。ケルベロスを単独で撃破するその力。ふふっ。いっそのことラグナと競い合わせるのも一興ね」
ラグナはため息をついて主君を見ていた。しかしその瞳に無邪気さを隠していない。ミネルヴァは次の一手を冷静に考えていた。