暗夜
辺りはもう暗くなっていた。街に人通りもない。僕と黒衣の男達だけが対峙していた。男達のステータスを確認する。総勢四人。ステータスは高いな。頭の中で男達のステータスの平均を求めた。そして直ぐに答えを出す。
【B、L、B、A、L】
これが算出ステータスだ。左から統率力、頭脳力、容姿力、知識力、戦闘力である。Lの表記はロック機能を表している。なかなかに高いステータスだ。普通の人間なら容姿力と頭脳力辺りにロックをかけるだろうが、型に当てはまってないな。総勢四人の全ての秘匿が頭脳力と戦闘力にかけられていた。
一週間ほど前からベルの元に湧き出した鼠達がこの男達だ。ベルへの面会を謝絶し続けているにも関わらず、この男達はベルの回復を伺っている。ベルとこの男達を引き合わせるわけにはいかないな。さてどうしたものか。
「あの......どうかされましたか?」
僕は作られた笑みで友好的に声をかける。男達も朗らかな笑顔で応答してきた。虫酸が走るな。ベルを探る目的がどこにある。
「貴方がストル・ポロイス殿ですか?」
男の一人が笑顔で詰め寄ってくる。逃がれられない雰囲気を感じる。外面こそ穏やかに見えるがその実中身は狼だ。嫌いじゃないな。
「ええ、そうですよ」
僕は笑顔で答えた。
「実は私達、魔法学園の関係者でしてね。ベル・スクイック殿の休学届けに関して二三伺いたいことがあるのですが、お取り次いではもらえないでしょうか? 聞いてみれば貴方がベル殿の唯一の家族と伺ったものですから」
その情報までは開示していい、と病院側にも言ってある。が、行動が早いな。僕が知る限り魔法学園の関係者にこのような男達はいない。だが休学届けの情報が気になった。学園とこの男達は繋がっているのかもしれない。だが信用はしない。学園にはあとで僕が連絡すればいい。ここは出方を見るとしようか。
「ええ。取り次ぎたいのはもちろんなんですが、ベルは話せないほどに衰弱してまして」
さて。網にかかるといい。お前達が有能な人間であるほどに網にかかりやすい筈だ。
瞬間、男が僕の頭を片手で掴む。男の顔には青筋が浮かんでいた。僕には冷静に男を観察する余裕があったが、人間の怒った状態を初めて真近で見た気がする。僕の身体は無様にも男に持ち上げられ宙に浮かばされていた。
「どうかされましたか?」
僕は男に掴まれたまま男に問いかける。総勢四人の男達から確かな怒りを感じる。さっきまで僕と話していた男の口調が変わった。
「おい、ガキ。舐めたマネしてるんじゃねえぞ。お前とベル・スクイックが談笑してたってのは調査済みなんだ。俺たちが下手に出てれば嘘つきやがって、この屑ステータスが」
男が僕の顔を見て唇をつりあげる。思ったより我慢が出来ない敵だったな。僕のような者に嘘をつかれたのが気に障ったのかもしれない。僕の低いステータスを活かせたな。
「おい、さっさとベル・スクイックに会わせろよ。俺たちも仕事なんだ。お前みたいな屑ステータスに邪魔されたくねえ。この世界は強い人間ほど優遇されるからな、くくっ」
僕を掴んでいた男の本性を見た。僕の開示されている部分でのステータスがあまりにもお粗末に見えるからか侮られているようだ。
瞬間、僕はニヤりと笑って懐を探る。そして仕込みナイフで男の手をおもむろに刺した。
「————はっ?」
男の手に刺さる銀のナイフ。無論、僕の称号で展開した武具ではなかった。ただの食用ナイフだ。男は痛みより、驚いていた。必然的に僕の身体は解放されて地に足が付く。ワンテンポ遅れて男はようやく痛みを感じる。
「いってええええ!! てめぇ、ガキが!!」
手から出血する男を庇うように支える男達。僕はそれを幼い子供達のお遊戯会でも見るように微笑ましく見守っていた。
「僕は今日一つ学んだ。低いステータスは必ずしも足枷にはならないということをな」
僕は男達に向かって饒舌に語る。
「お前達のように高いステータスを持つ者は自らの力を過信しがちだ。それはこの世界がそうさせているものではあるが、明らかな弱点だよ。僕のような低いステータスの者が逆らう筈がないと高をくくってしまっている」
僕は極めて愉快にそう言った。
「そうか、ガキ。気でも触れたか。穏便に済ましてやろうと思ったがもう止めだ。ガキ一人を消したところであの方も何も言うまい」
一人の男が言い切った途端にこちらに好戦的な視線を浴びせてくる男達。面倒だな。男達の相手も面倒だが、『あの方』ときた。男達にはどうやら頼もしい協力者がいるらしい。
「気でも触れた? それは違うな。これは助言だよ。お前達のような有能な人間には成長して欲しいと思うのが人の心だと僕は思うが」
男達が僕との距離を詰めてくる。明らかに男達の目つきは尋常じゃない。この男達とベルを引き合わせなくて正解だったな。
「抜かしてろ、ガキが」
僕の助言を流しつつ、男達が迫る。僕はもう一つ男達に、とっておきの助言をかける。
「もう一つ助言がある。当たり前の事だが」
僕は歪んだ笑みで男達に言った。
「————強い者には逆らわない方がいい」
————称号起動。
僕は脳内でそれを唱える。男達の動きが僕の統率力による闘気に当てられて鈍った。
「なんだ......急に動きが」
先頭を切っていた男が焦ったようにそう言った。僕は男の肩に手を置いて笑顔で言う。
「悲観することはない。全くもってお前の言う通りだよ。この世界は強い人間ほど優遇される。僕はお前の助言に賛同しよう。お前達は僕の助言に賛同してくれないようだが」
僕は歪んだ笑いを堪えきれずに言った。
「ガキ一人を消したところでこの世界にさして影響は出ないらしい。では男四人を消したらどうなるかな? 僕に教えてくれよ」
男達が戦慄しながら僕を見る。男達は利用させてもらおう。貴重な情報源になる筈だ。ベルと僕に何故干渉する......?