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証明の謁見

「————ここで一番強いのは僕だ。間違ってもお前達じゃない。それを教えてやるよ」


 僕はイリスを虐げた少年達にそう言った。隣のイリスは僕を驚いた様子で見つめる。


「ははっ! 何を言ってやがる! さっきのは驚いたが不意打ちのハッタリだろうがよ!」


 さっきというのは僕に手を握られたことだろうな。純粋に力で負けただけだというのに。彼らは僕のステータスを見るまでもないのか確認すらしていない。しかし既に称号は起動した。今更、ステータスを確認しても遅い。


「おい、いくぜ!」


 三人組の少年達が連携を取りながら、僕とイリスの方向に向かってくる。同時に少しだけ頑張って足を速めに動かしておく。イリスを拘束する天井に吊るされた縄は手刀で切る。


「なっ!?」


 僕の姿の見失う少年達。僕は大切な友達を両手で包み込むように抱えて一瞬で跳躍する。


「いつまで後ろを向いているんだ?」


 僕はきょろきょろと視線を動かす彼らを彼らの背後から尊大に見つめ、言った。両手でイリスも抱えている。僕は未だに驚いた様子を隠せていないイリスに小さく、耳元で囁く。


「すまない。もう迷わないって決めたのに。君を助けることを少し躊躇った。答えは決まっていたのに戦うことを選択できなかった」


 ああ、後悔ばかりが心を支配する。いつだって僕の行動は何もかもが遅いんだ。


「貴方......感じが違うわ。何か、違う。いつもより覇気があって研ぎ澄まされたよう」


 僕を見つめてイリスが言った。イリスの瞳と身体からイリスの衰弱が伝わってくる。身体が冷え切っていた。それが何よりも悔しい。僕はイリスの言葉を訂正する。


「イリスは僕を優しいと言ってくれたけど、それは違うんだ。僕が優しさを向けるのは僕に優しさを向けてくれた人だけなんだよ」


 イリスはベルの友達だ。しかし、その事実がなくても。この数日間、イリスは僕を庇い続けてくれた。その真心と親切は本物だ。ならば、僕もその礼節に応えなければならない。だからこそ、イリスは僕の優しさの対象だ。


「どんな手品を使ったかは知らねえが、俺たちの後ろを取ったか。小細工しやがって!」


 再び、僕を睨んで突撃する三人組。そろそろ目障りだな。奴らの声は雑音でしかない。

 僕は自身の統率力で以って彼らに視線を向ける。瞬間、彼らは氷のように身体を固める。


「か、身体が......動かねえ......!!」


 蛇族に睨まれた蛙族とでも言うのかな、こういうのを。少しだけ愉快になったぞ。

 イリスを審判を下す者で展開した戦盾の上に寝かせて僕は前に出る。イリスを冷たい倉庫の地面に寝かせるわけにはいかないからな。


「動けないというのは恐怖だろう? 僕にも経験がある。圧倒的な強者を目の前にした時。人はその動きを止めて強者に平伏する。動かなければ自分だけは助かると思ってな」


 僕は動きを止める彼らにそう言った。僕は銀の食用ナイフを懐から取り出す。その銀のナイフを見て件の三人組は戸惑いを見せた。


「お、おい......!! ストル!! お前、さっきから何か変だぞ......!! 一体......!!」


 僕に初めて怯えを見せる少年達。面白い。


「変? 心外だな。僕は極めて正常だ。それは誹謗中傷だぞ? 思わずお前の喉にナイフを優先して突きつけたくなってしまうじゃないか」


 僕は歪んだ笑みで一人の少年の首筋にナイフを添える。まるで他者を脅すように。


「や......やめろ......!! その物騒なもんを下ろせ......!! 俺は今動けないんだ......!!」


 懇願するように僕に命令する少年。


「それは僕に対するお願いか? 随分と上から目線な願いだな。何かを止めて欲しい時にどうするか、母親から習わなかったのか?」


 僕は一人の少年にナイフを突きつけ続ける。他の二人も得体の知れない恐怖感からか先ほどまでの威勢のいい勢いはなくなっていた。

 僕の言葉に少年は黙り込む。得体の知れない恐怖感とナイフを突きつけられる恐怖。その二つの恐怖が彼を沈黙させているようだ。


「話せないか? なら特別に僕が教えてやるよ。人にお願いする時はどうすればいいか」


 僕は少年の頭を上から掴んで、地面に優しく押し付ける。動かない対象が相手だ。簡単に僕の思い通りに少年の身体は動いていた。


「......ごふっ!?」


 そして少年の頭から手を離し、彼の頭の上から優しく足を添えてあげる。お似合いだな。


「お前は靴磨きだ。ああ、お前は手も頭も動かす必要はないぞ? 僕が足を動かすからな」


 僕はうつ伏せで倒れる少年の頭が壊れないように、優しく少年の頭の上で足を動かす。


「痛っ!? いだっ!? いだぁい!?」


 奇声と悲鳴をあげる少年。残り二人の動けない少年が僕の事を恐怖で震えて見ていた。

 恐怖感は僕の統率力を強くする。あとは彼らに命令するだけで言うことを聞いてくれる。これが正しいお願いの仕方だよ。


「お前は僕の椅子に、お前はそこでつまらない腕立て伏せを延々と続けていろ」


 他の二人の少年にも僕は命令を下す。彼らは僕のお願いに従順に従ってくれた。

 一人の少年が僕の前で身体を屈める。僕は遠慮もせずにそこに腰掛ける。僕の足は生意気なもう一人の少年の頭の上に乗せて。視線では愚かにも腕立て伏せを続ける馬鹿を見る。


「統率力による支配か。試したことはなかったが、やはり効率は悪いな。ありがとう。お前たちはいいテストケースになったよ」


 僕は鼻を鳴らし、僕が腰を預ける少年にナイフを突きつける。


「あと今日の出来事は秘密だ。お前達がイリスに手を出した事も伏せておいてやるよ。全てはイリスの意思次第ではあるがな。しかし秘密をバラした場合僕はもう容赦しない」


 その時は今よりも凄惨な光景を与える。少年達が恐怖に突き動かされたように頷いた。調整は無事完了したな。彼らへの暗示が続くかどうかもテストをしなければなるまい。しかし今はイリスの前だ。仕置きするにも限度がある。今日はこのくらいでいいだろう。

 僕は立ち上がり、イリスの方へ向かう。ずっと謙る少年達と腕立て伏せを続ける少年。どこまでその行動を維持出来るか観察していたかったが、我慢しよう。僕は外道ではない。


「Aクラスの人間をここまで手玉に取るなんて。それに貴方のステータス。私は夢でも見ているの? 貴方に聞きたいこともあるわ」


 驚いているイリスを優しく抱える。展開した盾はしまっておくか。捨ててもいいが。


「夢じゃないさ。イリスも今日の事は僕と君との秘密だ。聞きたいことには応えるよ」


 イリスがピクッと震える。ああ、そうか。審判を下す者を解除しなければな。この力はイリスにも刺激が強すぎるだろう。しかし。僕は姿を見せない臆病者に声をかける。


「それで、いつまで僕の事を俯瞰するつもりだ女? いい加減目障りなんだよ、大所帯が」


 カイ埠頭、第二倉庫に手を叩く音が響く。


「これは、拍手かしら......?」

「ああ、だろうな。ずっと僕のことを付けている女がいる。吐き気がしていたんだ」


 手を叩きながら僕に顔を出す緋色の女。その容姿と統率力は国の頂点に立つ少女王。

 ミネルヴァ・リ・アライズ。彼女が僕の後ろにいる愚かな少年達を無表情で見る。


「あれは一応、私が目をつけていたAクラスの人間だったんだけど。あんた、やるわね」


 黒衣の男達を何人も引き連れた女王が僕の前に君臨する。ああ、腹が立つな。けれど。


「褒められることではないさ。強い者が勝つのは当然のことだ。それは、お前も理解している筈だ。強い者の筆頭であるお前はな」


 ミネルヴァが笑って言った。


「あら。私は女王よ。敬語、いいの?」


 ミネルヴァが愉快そうに僕に言った。


「構わない。お前は僕の敵だ」


 だからこそ。僕は手を弾く。

 ————形無武器イミテーション・ウェポン展開オールランス起動コール遠隔操作コントロール

 手を弾くと同時に生成された数十の槍が黒衣の男達に飛来する。崩れ落ちる優秀なミネルヴァの配下である永劫隊の男達の総員。何れも致命傷にはなりえない攻撃だ。加減はしてやったんだ。本命も狙っていない。


「......え?」


 ミネルヴァが一人残されて呟く。


「今は僕とイリスが話している。お前はお呼びじゃないんだよ、ミネルヴァ女王様」


 僕はイリスを抱えて、ミネルヴァを放置し、第二倉庫の出口に向かいながらそう言った。


「馬鹿な、ありえない。永劫隊のトップランカー達よ。これがこんなあっさり......!!」


 ミネルヴァがそう言って、僕から僅かに距離を取る。まだその顔には余裕があった。


「でも勝ち誇らないことね。外のルートにはまだ私の部下を配置してあるわ......!!」


 自分の統率力があれば、僕を抑えられるとでも思っているのだろうか。未だにミネルヴァは僕への警戒心が薄いように見えるな。僕は愉快な道化を馬鹿にするように言ってやる。

 余裕げに、ミネルヴァに振り返って。


「————ああ。それなら予め、既に全滅させておいたよ」


 今度こそ呆然とするミネルヴァを無視して、僕は優しくイリスを抱えながら舞台から降りる。

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