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 あの学園長室での一件の翌日。ラグナは王城のミネルヴァの玉座へと足を運んでいた。


「アルセイが緊急搬送ってどういうことよ。さてはあんた暴走でもしたんじゃないでしょうね? やめなさいよ。あんた悪酒だしね」


 ミネルヴァはラグナを睨んで言った。


「ちげぇよ。俺がんなことするわけねえぜ。ジジイは入院させた。学園の運営も滞りないように手配しておいた。それより、アルセイを入院させた奴が予想以上にやばくてだな」


 ラグナがストルという少年についてまとめた報告書を仏頂面のミネルヴァに差し出す。


「何これ? こんなゴミの代表みたいな奴のステータスを見せて私の時間を奪わせないで」

「そう言うな。見てみろよ」


 ミネルヴァがラグナに言われて仕方なく報告書を読み進める。するとミネルヴァの顔が段々と変わっていく。退屈そうな顔から好奇心を覗かせるような表情に変わったのだ。


「魔法学園二年、ストル・ポロイス。平凡より下のステータスを持つ少年だが称号を所有する。称号の名前は緊急時により判別不能。称号の効果は少なくともステータスの変動」


 ミネルヴァはページをめくって言った。


「王都魔法学園Eクラス。これ私の学園じゃない。ラグナ、この報告書に書いてあることって全て偽りなく本当なのかしら?」

「ああ。実際にストルはジジイを一撃でやった。俺もあいつと戦って勝てる保証はないな。あいつのステータスはロックがかけられていて全ては分からなかったが、戦闘力は俺と並んでいた。しかもあいつは失われた村レリューシアの出身。点と線が繋がったな」


 ミネルヴァが呻くように言う。


「頭脳、容姿のランクは不明。しかしそれ以外のステータスがSランク。ありえないわ」


 そしてラグナも頷く。


「ああ。総合ステータスならこの世界のどんな存在よりもぶっちぎりだろうぜ。おそらくケルベロスを殺ったのも奴だろうな。ストルの統率力も半端なかった。ケルベロスの剛毛が全て逆立ってた理由に得心がいったぜ」


 ミネルヴァは思考を巡らせて言った。


「本当に私の近くにいたのね。まだ証言があんただけだから少し半信半疑だけど、これは失態だわ。将来有望株の存在が学園に潜んでいたなんてね。早く私の味方になってくれるように『お願い』しないといけないわ」


 ミネルヴァが腹黒そうに笑って言った。


「おい、ストルとコンタクトを取る時は絶対に俺も連れて行け。でないと痛い目みるぜ」

「ダメよ。私とあんたのツートップが一つの物事に集中するのはよくないわ。これは個人のヘッドハンティングだもの」


 ラグナがミネルヴァに踏み込んで言った。


「しかしだな」

「それ以上無駄口をたたかないで。あんたは少なくともアルセイを守れずに一度逃げられているわ。だからこそ今度は私の番よ」


 ラグナが頭を抱える。


「俺を雑用に使うくせに本当に俺が必要な時にお前は俺を使わないんだな」

「私は必要だとは思わないわ。個人の力は絶対的なものになり得ない。例外以外は」

「あいつは、ストルは例外だぞ」


 ラグナが珍しく、ミネルヴァに諫言する。


「それは私が判断する。近いうちに会えると思うわ。その時に私にとってストルという少年が必要なのか見極める。いつだって自分の目で見たものを私は信じる。あんたを選んだ時と同じようにね。今度も私が選ぶのよ」


 ミネルヴァのカリスマは呪いの域に達している。ミネルヴァが統率力を行使しただけで他者が跪くほどにミネルヴァの意思は強い。

 ラグナはそれを分かっていた。だがそれ以上にストルと向き合った時の底知れない感じを思い出す。ミネルヴァの戦闘力は低い。だが人を使う点においてはミネルヴァに勝てる者はいないとラグナは思考している。


「永劫隊のトップランカーを十人単位でお前の護衛に付けろ。周辺の警戒も怠るなよ。奴は機嫌が悪かったからな」


 ミネルヴァはラグナの言葉に笑う。


「ふん、あんたも心配性ね。いつもは巫山戯てるくせに私の心配するなんて意外だわ」

「俺はお前の部下だ。当然だろ」


 ミネルヴァは愉快そうにまた笑って言った。


「ふふっ。そうね、当然よ。けどご忠告ありがとう。警戒心は持っておくわ」


 ミネルヴァは目を細めて思考する。ミネルヴァは挫折を知らない。才覚があった。恵まれていた。だからこそ敗北を知らなかった。

 ラグナへの命令は王都の防衛。ラグナは迷いつつも主君の運命を他者の手に委ねた。


 *****


 僕はカイ埠頭の第二倉庫に向かう。そこにボロボロになったイリスがいる。イリスはベルの友達だ。彼女に罪はない。責任もない。

 王都の大通りに出た。あと数分で目的地にはたどりつける。だが不愉快な気を感じるな。


「自分が王者のつもりか、女? くくっ。お前自身が来るのならそれもいいだろう。お前は傲慢な女だ。僕と対するのならそれもいい」


 僕は歪んだ笑みで今は姿も見えぬ彼女に問いかける。

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