すれ違い
力の強い方、黄色の髪をした男の存在は僕にとってもイレギュラーだった。彼のステータスを確認する。ステータスを開示した。
ラグナ・ストレングス
統率力 A
頭脳力 A
容姿力 A
知識力 A
戦闘力 S
【称号】ドラゴンスレイヤー
ラグナ、ストレングス。そうか。見覚えがあると思ったらこいつは女王の直属騎士だ。国の式典で女王の周りに立っているその圧倒的な姿はまさしく頂点に立つ者に相応しい。弱者がその姿を隠すようにロック機能すら使っていない。強者の権化であり、典型例だな。純粋な強者とは彼のような存在だろう。
「主は誰じゃ? こんな時間に儂の部屋には入るのは感心せんぞ。戻るがよかろうて」
白髪の学園長アルセイ。彼もまた強者だったが、僕の神経は彼に警鐘を鳴らしていない。
「誰かとは酷いな、アルセイ。僕は貴方の学園の生徒だ。たとえ、それがEクラスであろうとも。まあ貴方は忙しい方だろうからな」
僕は意味深に嗤う。
「儂が忙しい? ふぉふぉふぉ。儂は暇人じゃよ。今日も空いた時間に屋敷の農園の野菜を育ててのう。これまた美味しくて堪らんぞ」
————狸が。
「惚けるなよアルセイ。貴方が永劫隊を率いている事実は既に掌握済みだ。貴方が学園の情報を売ったのも理解している。売った先がどの勢力かは断定はできなかったがな」
あの四人も口が固かった。僕の武具で暗示にかけても情報を引き出しきれなかった。だが、誰が糸を引いているのかは推測できる。目の前の騎士を見て確信に変わったよ。永劫隊というものがどういう組織かも把握できた。
「何故、それを知っているのじゃ」
アルセイが目を細める。
「何故知っているかって? ははっ。よくそんな台詞を僕の前で言えたものだ。貴方が庇護するべき学園の生徒を追い詰めておいてな」
アルセイはそれを否定する。
「違う! 儂らはただ知りたかっただけなんじゃ! 未来の世界を支える逸材を求めての!」
何を言っているのか理解できないな。
「まぁいい。取引だ。ベルから手を引け。彼女は繊細な時期なんだ。貴方達にこそこそ嗅ぎ回られたら迷惑だ。取引材料もある」
僕は魔力で念写した画像が貼られた紙をラグナとアルセイに披露してやった。
「「なっ!?」」
アルセイとラグナが同時に驚く。そして同時に僕を驚いた顔で見てきた。
「イヴァン、セロス、リーガス、アヴァリ。全て行方不明になった者達......!!」
アルセイが僕を睨みつけて言った。その紙には縄で縛られ、衰弱した四人の姿が映る。永劫隊という隊のメンバーだったな。
「ベルの周りを這い回っていたからな。あまりにも目障りだったから捕らえた。だが貴方が悪いぞ、アルセイ。誰よりも学園の生徒を守るべき貴方が僕達を売ろうとするなどな」
アルセイが歯を食いしばって言う。
「ありえん。主のステータスでこの四人を捕らえられる筈がない......!! まさか他に協力者がいるとでも......!!」
そう断定するアルセイをラグナは手で制す。
「いいや、ジジイ。あんたは目の前のガキを舐めすぎだ。俺には解る。あいつはスペシャルだ。あいつには必ず何かある。絶対に」
やはりラグナは強敵だな。僕の全神経が彼から後退すべきと告げている。今の僕が称号を起動して全力で戦いラグナに勝てる可能性は約九割。だが、一割の負け筋がある。この場においてアルセイは蚊帳の外ではあるが、厄介なイレギュラーに代わる可能性もある。
「おい、ストル。俺はベルって娘か男かは知らないが悪かった。俺たちはお前達をどうこうしようとは思ってねえんだ。だから話合おうじゃねえか。俺たちにも事情があるんだ」
知ったことか。
「知るか。永劫隊は僕を消そうとしてきた。それこそ手慣れた手付きでな。アルセイ。貴方の教育の賜物か? 随分と物騒だな」
先に向こうが武力に訴えてきた。あの理不尽がベルに向けられてたと思うとぞっとする。
「なっ......!! 永劫隊の奴ら話がこじれるような事をしやがって......!!」
ラグナが驚き、そう言った。こじれるも何もお前と僕が話すことなど何もないんだよ。
僕はアルセイを挑発するように見て言った。
「まだ渋るというのならもう一つ取引材料がある。永劫隊としての貴方を揺さぶっても駄目なら学園の長としての貴方を揺さぶろう」
僕は歪んだ笑みで先ほどクローゼットに仕込んだ愚かな年長者達を目の前に晒す。
倒れこむ、三人の教師。アルセイが驚く。
「これはっ......!!」
「そう、こいつらはこの学園を守護していた貴方の手駒。どうだ? これは現物だぞ?」
この程度のレベルの存在なら顔を見られずとも気絶させることは容易。アルセイは取引が成立した後に口を黙らせておけばいい。これで完全なる取引が成立する筈だったが、ラグナという存在が邪魔だ。ままならないな。
「もう許せんぞ、ストルよ。主に協力者がいるかは知らんが主はやり過ぎた......!!」
「ん?」
アルセイが僕に肉薄して拳を構える。僕は驚きのあまり素っ頓狂な声を出してしまう。
「やめろ、ジジイ!!」
ラグナが必死の形相でそれを止める。僕はアルセイを愚者でも見つめるように言った。
「やはり貴方の本質は強者だ。弱者を力で侍らせて蹂躙する。妥協点を二つ用意した。殺されそうになっても僕は話し合いをしようとした。貴方は学園の長だ。貴方は僕達が敬うべき存在。だがその情念はたった今消えた」
この学園は強者が生き残れる世界。分かりやすくて単純なルールだ。だとしたら僕の目の前にいる老害がここに居ていい道理はない。
「それがどうしたのじゃ! 主は生かす! イヴァン達の居場所を聞かんといかんでな!」
アルセイの武器は拳。若かりし頃には獣王族と殴り合ったことがあるらしい。だが今はここで奴が一番弱い。世代は変わるんだ。
「聞きだせるものなら聞き出してみせろよ」
「ぬっ......!!」
振り抜いた拳を躱され崩れ落ちるアルセイ。アルセイは僕の元に跪き、気絶した。だからこそ、審判を下す者の名を借りる。
「ジジイ!!」
アルセイの元に駆け寄るラグナ。無論、僕はアルセイを殺してはいない。殺したところでそれは意味のないことだ。だがまだ喚くようなら最後の手段としては選ばざるを得まい。
「ストル......!! てめぇ......!!」
僕を見るラグナ。奴の黄金の瞳から溢れる統率力は僕の肌を僅かに緊張させる。
「なっ......!!」
だが、闘志が消えるようにラグナは僕を見て驚く。そして僕を睨みつけた。
「ステータスの変動。そうか、ストル。お前も称号持ちか。そんなとこだと思ったぜ」
僕はラグナを見て睨む。
「気安く僕の名を呼ぶな、女王の犬。僕の予想では永劫隊は女王の手駒だろうが、何故ベルを狙う。お前達は何故彼女を付け狙う」
ラグナはやや瞳を緩ませて言った。
「違う! おそらくベルって奴は永劫隊が選んだ候補者の一人だっただけだ! だが対象は代わる。ストル、お前は俺と一緒に来い!」
何を言っているのか理解できないな。話し合いの余地はない。僕は倒れているアルセイの足に形無武器を展開し、一つの槍で射抜く。
アルセイの足に風穴が開いた。
「なっ......!!」
「さっさと病院にでも連れていけ。連れていかないと手遅れになる。僕はお前と行くつもりはない。お前達と話し合いの余地はない」
足から血を流すアルセイをラグナに押し付ける。奴はアルセイを治療するしかない筈だ。
「待てっ、ストル......!!」
僕は部屋の窓ガラスを開けて、二階から飛び降り消える。次にベルに手を出したら本気で奴らと戦うことも視野に入れる。だが、ラグナの言葉を信じるならもうベルに手は出してこない筈だ。それにしても対象が代わる......? 何の話だ......? 今の僕の情報ではその答えにはたどり着けないな。




