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仄暗い部屋の中で

 月明かりが差し込む夜。黄色の短髪の少年に見えるような男と白髪の好々爺めいた老人が二人でアライズ王都魔法学園の廊下を歩いていた。


「それにしてもお主が龍殺しとはのぅ。長生きしてれば分からんもんじゃな。ところでミネルヴァ様の機嫌はどうじゃったかのう?」


 老人が黄髪の男にそう言った。


「永劫隊がポカやったからな。あいつの機嫌も悪かったぜ。アルセイ、責任の一端はあんたにもある。まあ責める気はねぇんだがよ」


 アルセイと呼ばれた男は愉快そうに笑う。


「ふぉふぉふぉ。お主に説教される日が来るとはのぅ。ラグナよ。久しぶりに飲みにでも行かんか? お前と話したいことがあってな」


 ラグナと呼ばれた黄髪の男は気怠げに頭を掻いて返答する。


「ジジイの杯に付き合う趣味はねぇ。だが気が向いたらあんたとは飲んでもいいかもな」

「ふぉふぉふぉ。ならその機会とやらを待つとしようかのう」


 二人が部屋の前まで辿り着く。その部屋は学園の長アルセイの部屋、学園長室だった。


「ここが学園長室じゃ」

「んじゃ、とっとと用を終わらすか。ったく学園に用事があるならあいつが行けばいいのによ。いつもあいつは俺を雑用扱いするぜ」


 アルセイはラグナの言葉に微笑み言う。


「それだけミネルヴァ様がお主を信用しとるんじゃろう。ええことじゃろうて。ミネルヴァ様直属の騎士であるお主にも思うところはあるじゃろうがな」

「給料もっと増やせとは思うよな。ったく厄介なポジションに」


 ラグナは言いながら学園長室の扉のドアノブに触わる。そして、体を凍りつかせた。


「どうしたのじゃ、ラグナ? 別に遠慮せずに入って構わんぞい。儂の部屋にセキュリティはない。儂自身がセキュリティじゃからの」


 口ひげを触りながら言うアルセイ。ラグナはその朗らかなアルセイとは対照的に目を細めて注意するようにアルセイに声をかけた。


「なぁ、ジジイ。この学園にあんたと同じくらいのステータスの教師はいるのか?」


 永劫隊リーダーを兼任しているアルセイ。その実力こそラグナには一歩及ばないが、彼も老人にして圧倒的なステータスを持つ。全盛期であればラグナとも互角に戦えた筈だ。


「真面目な質問かの? いや、おらんのう。戦闘力Aはおるが、ピンキリじゃ。今の儂の戦闘力のランクはAじゃが、同じAランクの戦闘力でも個人差が出るじゃろう。学園の教師陣の中では恐らく儂が未だに最強の筈じゃ」


 アルセイが悪びれずにそう語る。ラグナもそれを茶化すことはない。アルセイの実力はこの世界の上位格に位置している。それは純然たる事実であり、確かなことだった。

 ラグナは顔を顰める。


「おい、ジジイ。この部屋の中に何か得体の知れない存在がいるぜ。気配を感じる。あの日、初めて龍と相対した時と同じ感覚だ。ジジイ。ミネルヴァに内緒で龍族や獣王族の魔物でも飼ってるんじゃねえのかよ、これ」


 ラグナは異質なものを見るように簡素な学園長室に繋がる扉を一歩引いて見る。


「何を馬鹿な事を言っとるんじゃ」

「だよな、くそ。あんたの言うセキュリティってやらは何をしてたんだよ」


 アルセイは唸って言う。


「儂はそんな気配を感じんのう。だがお主がそれだけ言うなら魔機で巡回の教師に連絡してみるかの。杞憂であればいいのじゃが」


 魔機とは魔力を込めて発動する道具の事だ。アルセイの魔機は同じタイプの魔機を持った者との連絡を行える一般的な魔機だった。魔機自体、とても高価なものではあったが。


「うむ? おかしいのう? 魔機に反応がないのじゃ。故障したんじゃろうか?」


 首を傾げて黒い魔機を見るアルセイ。ラグナはより一層注意を深めて扉を見る。


「その教師、多分やられてるぜ。ちっ。仕方ねえ。ジジイは俺の後ろにいろよ」


 ラグナはそう決めると部屋にすぐ踏み入る。アルセイは一応頷き何が何だか分からないと言った感じでラグナの後ろに付く。ラグナの部屋を見た感想は実に無感動なものだった。アルセイの性格と同じように特に面白いものもない。だが、この日は明らかな一つのイレギュラーが学園長室に存在していた。

 ラグナが卒業したこの魔法学園。その頂点が座るべき椅子にふんぞり返って座る少年。黒髪の無個性などこにでもいるような少年だ。ラグナとその少年の黒い瞳がかち合う。本来ならば学園長室にいる筈のない存在。その少年のステータスをラグナは咄嗟に開示する。


 ストル・ポロイス

 統率力 E

 頭脳力 L

 容姿力 L

 知識力 D

 戦闘力 E


 ストルという名の少年。ラグナからして見ればクズの類に属してしまうこのステータス。頭脳力と容姿力のランクはロックによって分からない。だが戦闘力と統率力が最下位のランクの時点で問題外。その少年は弱者と一蹴されてしまうような存在だった。だがラグナの全神経が訴える。目の前の少年から目を離すことが出来ない。何か得体が知れない。


「こいつ、は」


 ラグナは呟いて思わず嗤う。いや、得体が知れないわけではなかった。ラグナは目の前の少年に共感意識のようなものを感じていた。ラグナには一目見て分かった。目の前のストルという少年には何かがある。それはきっと得体の知れない何かだ。だが危機感よりもラグナは先にストルに対して親近感が湧いた。目と鼻の先に自分と同類がいる。これが嗤わずにいられようか。いや、嗤いを堪えられる筈もない。見ればストルという少年は制服を着ていた。ということはまだ学園生なのだろう。伊達や酔狂で制服を着ているとは流石に考えにくい。ああ、面白すぎて反吐が出る。

 ラグナの顔を見てストルも嗤っていた。

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