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プロローグ

 僕は弱かった。未熟だった。幼い頃から逃げ続けてきた臆病者だ。ずっと誰かを守れるように強くなりたかった。自分の大切なものを守れるように。

 守りたい人はいる。幼い頃から二人で一緒に生きようと決めた幼馴染みだ。


「僕は......」


 ため息をつきながら自室のベッドから身体を起こす。自身の部屋は相変わらず無趣味で空疎だった。今は学園も夏休みだからかどうにも怠けがちになってしまう。全然駄目だな。こんな僕が努力まで止めてしまったら何もかもお終いだ。


 ストル・ポロイス

 統率力 E

 頭脳力 E【LOCK】

 容姿力 D【LOCK】

 知識力 D

 戦闘力 E

【称号】審判を下す者【LOCK】


 統率力とはその者の軍団を率いる才能。

 頭脳力とはその者の頭の回転。

 容姿力とはその者の外見の美醜。

 知識力とはその者の培ってきた知識。

 戦闘力とはその者の戦う力。

 ステータスとは人間の基準であり、この世界の人間に課せられたルールだ。この世界の住人はステータスという枷を与えられる。

 これが僕のステータスだ。この世界のステータスは魔力で描くことが出来る。対象の相手を視認することで自身以外の名前とステータスも開示可能だ。無論、プライバシーのために秘匿制度のロック機能がある。ロックされたステータスは相手に開示されない。自身のステータスにかけられるロックは二つまでというルールを魔法省が立てているが、有難い機能という点では間違いない。称号のロックは無制限でこれも有難いと言えた。称号はロックをかければその存在すら他者には認識不可能になる。だからこそ僕の秘密は今まで守られてきた。また、ステータスランクはE、D、C、B、A、Sの六段階で評価される。Sが最高評価を受けるランクでEが最低評価を受けるランクだ。

 僕のステータスが平凡だとは思わない。僕の全てのステータスは平均であるCランクを下回っている。紛れもなく落ちこぼれのステータスだ。唯一僕の特別と言えば称号である。

 称号は特別な人間にしか与えられない。手に入れる条件もほぼ不明である。一般的に一生を賭けても称号を手に入れることは難しい。有名な称号で言えば龍を殺した証であるドラゴンスレイヤーなどの称号がある。僕達の国の英雄であるラグナという騎士はその称号を自身の誇りとして開示していた。

 そんな点で見ると僕は産まれた時から称号を持っていた。称号は特別な力を内包していると聞く。僕はまだ自分の称号と向き合ったことがなかった。僕は誰にもこの称号の事を話したことがない。大切な幼馴染みであるベルにも話したことがなかった。

 怖いんだ。この称号を解放した時に今の平凡がなくなってしまう気がする。

 そんな不思議な予感を僕は感じていた。


「ストル! ご飯だよ!」


 同棲している幼馴染み、ベルの声を聞いた。学園では寮が別れているが、今は帰省中。二人の故郷にいるから咎められることもない。この故郷は十年前に滅んだからだ。今でもたまに悪夢を思い出す。その度に自分の無力さを思い出すんだ。ただ一つ、僕が後悔していない点はベルの手を引いて魔物から逃げたことだ。あの判断だけは今でも間違ってなかったと確信出来る。あの頃僕は六歳だった。


「今行くよ!」


 僕は部屋から出て幼馴染みの顔を見た。自然と彼女のステータスを想起してしまう。引け目を感じているんだ。僕の悪い癖だと思う。


 ベル・スクイック

 統率力 C

 頭脳力 B【LOCK】

 容姿力 A【LOCK】

 知識力 B

 戦闘力 B


 ベルの優秀なステータス。普通の人からはベルの頭脳力と容姿力は開示されない。僕とベルはお互いのステータスを共有している。だからこそ、ベルの優秀なステータスは僕にとって羨望の対象になる。学園でもステータスのランクによってクラスが分けられる。ベルのクラスはSクラスまであるうちのAクラスだった。文句無しのエリート。比べて僕はEクラスときている。一緒に生きてきた相棒と言えるベルに申し訳ない。


「どうしたの? ぼうっとして」


 ベルは亜麻色の長い髪を揺らして大きな栗のような瞳で、微笑んで僕に言ってきた。


「いいや何でもないよ。それにしても美味しそうな朝食だ。もう少し僕が早く起きていたら僕も食事を作るのを手伝えたんだけど」

「いいの、ストルは働きすぎなんだから。昨日だって遅くまで街の市場で野菜を売ってくれてたじゃない。私はそういうわからないから」


 ベルこそ申し訳なさそうに言った。ベルのステータス的には商売は向いている筈だ。だがベル曰く、あまり人付き合いは得意ではないらしい。生まれつき優秀な容姿力を持って産まれたベルには思うところがあるのだろう。

 AランクはSランクに届かないまでもほぼ最高のランクといって間違いない。実際にベルの容姿は学園の誰よりも綺麗だ。ベルの学園での人気は絶えない。Sランクとはもはや神域に立つ、その者にのみ許された才能だ。才能を固有の能力として昇華した域。それを考えればベルの容姿Aは破格のランクである。魔法学園の灰色の制服とは違い、普段着にエプロンを着用するベルの姿も趣がある。


「折角二人だけの故郷なんだ。広い敷地で取れる作物は使わないといけないしね。僕のステータスじゃ、努力しなくちゃだけど」


 取引相手にも僕のステータスは見えるのだ。ステータスの低い者は信用も落ちる。僕は人一倍努力しなきゃ生きていけない。ベルの支えがなければ僕は今まで生きてこられたかどうかも分からない。僕がベルと一緒に生きようと持ちかけた癖に、僕はずっとベルにおんぶに抱っこである。変わりたい。こんな無力な自分のままじゃダメなんだ。けれどどれだけ努力しても僕とベルの差は縮まらない。それが何よりも悔しくてたまらない。


「ストルは努力してるよ」


 ベルと僕がお互いにいただきます、と言ってベロジカという魔物の肉を口に運ぶ。動物に比べて魔物の肉は安い。重宝する。


「有難う、ベル」


 本当にベルには感謝している。ベルの為なら僕の命すら捧げても後悔はない程に。


「私も努力しなくちゃ。私は魔物達を許せない。私の夢は国を守る騎士だから」


 騎士、か。ベルには夢がある。比べて僕は夢と言える夢がない。十年前に僕とベルは魔物達に両親を奪われた。僕たちを庇って倒れていく両親の姿が誇らしく、そして胸が張り裂けそうなくらい悲しかったことを忘れない。

 ベルの根底には魔物への拒絶がある。ベルと僕があったような悲劇を無くそうとする決意だ。ベルは優しい娘だ。だから強くなった。

 そんなベルが僕には眩しい。どれだけ努力を重ねようと僕は恐れるように前に進めない。

 前を見れないんだ。ベルは戦うことを決意している。僕は戦うことよりも優しさが大事だと結論付けてしまっている。だから僕は成長しない。僕の身体は戦いを拒絶する。

 僕は争うことを避けていた。何よりも平穏を愛して、ベルと僕の平和な日々を願う。多少の諍いはあっても最後には笑いあう未来。無力なままでも幸せを掴めるとこの時の僕は本気で信じていたんだ。

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