昔々あるところに_016
昔々あるところにモグさんという貧しい青年がおりました。
モグさんは黒猫堂という骨董品屋に通っていました。
店先に置いてある不思議な商品を買うごとに10万円、20万円と散在するので、モグさんの貯金はすっかり無くなってしまいました。
あるとき、モグさんは黒猫堂の裏を歩いていました。
ひときわ大きな建物がありました。それは二階建ての和風建築になっており、高い塀で囲まれていました。しかし建物自体は、かなり古く、屋根瓦はひび割れ、ぺんぺん草が生えていました。壁ははげ落ち、すでに100年以上経過しているようでした。
にゃああああああぁ
にゃああああああぁ
ふううううううぅぅぅぅぅ
ごろごろごろごろごろ
変な声が聞こえてきます。
それは人間の発する声とは思えません。
ふと塀の方を見ると、何かが飛んでいます。
目をこらすと、紙飛行機でした。
紙飛行機が5~6機飛んでいるのです。
そのうちの一機が、庭木に当たって挟まっています。
よく見るとそれは一万円札でした。
一万円札で折った紙飛行機でした。
そういった、庭木にとどまっている紙飛行機があと三機もありました。
モグさんはそれを見ると、矢も楯もたまらずなりました。
塀によじ登って、庭木に手を伸ばしました。
そして、塀の上から中庭を見下ろして、ある光景を見ました。
広い庭の中で、大きな黒猫が、転げ回りながら遊んでいるのを。そして、台の上に札束を積んで、気が向いたら底に走り寄り、紙幣を折って紙飛行機を作っているのを。さらに紙飛行機を飛ばしながら
にゃああああああぁ
ふううううううぅぅぅぅぅ
と叫んでいるのを。
猫はひとしきり遊んだあと、倉庫から七輪を持ち出すと、とんでもないことを始めました。七輪に札束を突っ込むと、マッチで火を点け、サンマを焼き始めたのです。
ぱたぱた、ぱたぱた、ぱたぱた
うちわで盛んにあおぎます。
白い煙がもくもくと出て、香ばしいにおいがあたりに充満しました。
猫は、サンマにむしゃぶりついてもしゃもしゃと食いはじめました。
「とんでもないやつだ。お金の値打ちをまったくわかっていない」
モグさんは腹が立ってきました。
「あんな奴なら、金をすこしいただいても、大丈夫だろう」
そう思ったモグさんは庭木に登ると梢にひっかかった一万円札紙飛行機を取ろうとしました。
そのとき
ヒュッッ!!ぴしっ!
鋭い音がして
モグさんはムチで叩かれました。
「にゃああああああぁぁぁぁぁぁマイマニィだにゃあ!だれにもわたさんにゃあ!」
モグさんはびっくりして庭木から手を放し、ずどどどど~~~んと
塀の外に転がり落ちました。腰をしたたかに打って、三日三晩うんうんうなっていました。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ