弐話:行き先は風に聞け
何かこっちのネタが思い浮かんできたため、あと二、三話くらいこっちで
桶に入れた水を頭からかぶる。時期的には夏なので、暑くて汗ばんだ身体が冷えて気持ちがいい。できればシャワーなどがあればいいのだが、こんな時代にある訳がないので素直に諦める。いや、一応似たような物なら作れなくもないのだが、そこまでして欲しい物ではないので諦める。
釣瓶で汲んだ水を見ながら、こういうところは普通の日本と変わらないなぁと思考する。一応術とかで水を出せなくもないが、そんなことが出来るのは一部の者のみであり、普通の一般人が大半である以上こういう道具が大衆化されるのは当然のことだ。
「ゴウキく~ん、背中流してヘブッ!?」
「黙れ淑女。そもそも水浴びで背中もクソもあるか」
「あぁ~ん、いけずぅ~。でもゴウキタソの裸……いかん、鼻血出そう」
そしてこの淑女は平常運航である。出そうと言うか、入ってきた時点でもう出てたけどスルー。今現在裸だけど、見られるくらいなら安いもんだし、男なんだから気にしてない。というか下手に刺激すると本気で襲われかねないからやはりスルー。
今現在宿の水場なんだけど、周りの人がドン引きしています。幻術でカミーラの髪や目の色を黒にしているが、それでも美人であることには変わりない。そんな女性が、子どもの裸を見ながら鼻血流してハァハァしているのである。誰だって引くわ。
そんな彼女に桶をブン投げた俺も少々注目されているが、幻術で普通の子どもにしているので問題はない。この宿には泊まる前に術者の類がいないのは確認積みなのでバレる事はない。まぁ、子どもにしては筋肉質な身体だが、その位なら問題はないだろう。
浴びた水を手拭いで拭いて、褌を回す。パンツなんてものはない。初めは戸惑ってたけど、今では慣れたモノですんなり巻いて着流しを着る。わりと上質な木綿であり通気性がいい服で、同じ店で買った物が三着ある。
「はぁ……少しは自重してくれんかねぇ……無理か…………」
マジどうしようもねぇな。もうわりと諦めてる。どうにかするよりも、どのようにして被害に遭わないようにするかという方向で考えたほうがいいという結論に至った。俺の精神的衛生的な意味で。
「ふぅ…………それで、今日はどこに行くのかしら?(キリッ)」
「……江戸に行くって言ってなかった?」
「エド?……あぁ、ショーグンって人がいるところでしょ?」
この辺が彼女が外国から来たんだなぁという事が実感できるところだ。でもこいつ日本食好きなんだよなぁ……納豆とか普通に食ってたし……俺この身体になってから臭いのキツイ類の食べ物が苦手になったんだよ……無駄に五感が鋭いもんだから、味覚と嗅覚でダブルノックアウトなんだよなぁ……
基本的に玄米とみそ汁と漬物と言う一汁一菜だから、割と高い金出さないと肉とか食えないんだよね。金には困ってないからいいけど……えっ?どうやって金なんて稼いでるかって?・・・。山賊ってけっこう金持ってるよねぇ?(ニッコリ)
でまぁ、江戸に行こうかなって思ったのは特に理由はない。ただの観光だ。魔法とか妖怪とかが実在する以外には変わりのない世界だ。だったら今の時代で一番賑わっているであろう中枢に行って見てみたいと思うのは、普通な事だと思う。
「その程度の認識でいいよ。別に詳しい知識がある訳でもないし。というか、カミーラはホントに行きたいところとかないの?」
「ないわね~。今までは気ままな一人旅だったし、誰かと一緒に旅するって経験も初めてだし」
そう言ってにこにこ笑う彼女。それは、いつも通りの笑顔のようで……ほんの少しだけ寂しさが見えた。誰かと一緒という体験は、彼女の今までにはなかった事なのだろう。自らがどれほど生きているのかを忘れるほどの、長い長い吸血鬼の生。これはどれほどの孤独感なのだろうか……
だから彼女はこんなニッコリと笑っているのかもしれない。だから自分に対しての接し方とかが分からずに暴走しているのかもしれない。今ではもう色あせて消えている彼女の記憶は……一体どのようなモノだったのだろうか?
楽しいこともあっただろう。悲しいこともあっただろう。優しくしてくれた人とかもいた筈だ。吸血鬼というだけで襲いかかってきた敵もいた筈だ。その多くの事は……過去のこととして消えてしまっている。本人は気にしていないようで……心の底ではとても気にしているのではないだろうか?
「だからゴウキタソは私の初めての相手なんだよ。グヘヘヘヘヘヘ、なんだかイヤラシイわね……おっと鼻血が」
・・・。まぁ、どーでもいいや。本人こんな感じだし。
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二人を見ている影が一つ。それは二人を観察している。そんな影に、もう一つ影が近付いてきた。
「ヤツらか……」
「はい。今のことろは特に変わった様子はありません」
「そうか……」
「如何なさいますか?」
「……まだいい。行き先については何か?」
「それが……江戸に行くと……」
「何?それは誠か?」
「はい。見物に行くだけと言ってましたが……」
「そうか…………とりあえず私は報告に向かう。お前は交代の人間と替われ」
「はっ」
そうして影が二つ消えて、新しい影が別のところから現れる。
「…………ヤツらか」
鋭い眼光が二人を見つめる。それは観察というよりも、怨み辛みの籠った、視線で射殺さんばかりのものだった。
「ぐぎぎぎぎ……何よあの胸……何よあの腰……デカイし細いし……その上あんな可愛い男の子と二人旅ですって?私なんてこんなところで一人でさびしく……ムキーッ!」
要するにただの嫉妬であった。それでいいのかよ?
あいかわらずの平常運航です。これからも悪化はしますが治りはしません