月
「・・・なあ。やっぱり俺たちがここにいるの、ばれてるんじゃないのか?」
俺の問いに相方はピタッと作業の手を止めた。杵を持った手を宙に掲げたまま、俺の顔をじろりと見る。
「だから、どうした・・?」 ドスの効いた口調で彼はつぶやいた。
「い、いや。さすがにマズイんじゃないか。」大パニックになるぞ、と言いかけた僕に相方は啖呵を切った。
「馬鹿野郎!ビビってんじゃねえよ!男が女になる時代だ。逆もまたしかり。・・・・うさぎが月で餅をついているのを見たくらいで、今さら驚く奴がいるかよ!!」
(・・普通に驚くんじゃないかな)とその時の僕は思った。
しかし僕は言わなかった。
先月、行きつけの飲み屋でピンクのバニーちゃんにフラれたせいもあるのか、彼はここのところ、機嫌が悪い。今も怒りのためか、長い耳がぴくぴくしている。
「・・・・・・・。」
これ以上は何も言わない方が良い、と判断した僕は黙って彼の怒りが収まるのをただ待った。
しばらくして相方は、肩で大きく深呼吸するといったん杵をゆっくり下ろすのだった。
少し落ち着いてきたな、というタイミングで僕は相方に悪かったよ、と言った。
彼も首を横に振りながら、再び杵を持ち直す。
僕もそれに応えるように再び、餅をこねる体制に入る。
今日は中秋の名月。
きれいな満月が出ているので、下界の人間たちがいつも以上に空を見上げているはず。
見られているような気がするのはきっと・・そのせいだ。
(うん、きっとそうだ。)と一人納得する僕。
そんな僕に向かって相方は言う。
『行くぞ。・・・・うさぎは黙って!!!!』
『餅つき。』
・・・・・・・・・・・・。
・・・僕たちは何事もなかったかのように恒例の作業を再開した。
僕は餅をこねながらふっと、思った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
つい答えちゃったけど、今のフレーズ、どっかで聞いたよな、と。
完
ついに100作目。最後の一行が書きたくて書いたようなもんです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。(ペコリ)




