紅い龍の子守唄
●Last Scene 2059.06.21. 10:00am. ススキノ 廃ビル 台所
二人のエプロンドレスの少女を従え、ホイッパーをふるっている男のところに、騒々しい、自称乙女、が戻ってきた。
「さあさあ、みんな! 仕事よ! この寿理ちゃんが仕事を取ってきてあげたわよ~」
「あぁ? なんだよ?」
戒無は、あからさまに不審な顔をする。
「そりゃあもう、町の何でも屋さんにふさわしい、素敵なオ・シ・ゴ・ト!」
語尾にハートマークがつきそうな口調で寿理は踊りながら言った。
「だから、なんだよ?」
「じゃーん! アタシたちの得意中の得意、ビルの水道工事で~す!」
いつぞやの、給水タンクをブチ壊した挙げ句、ビルを水浸しにして、莫大な賠償金を請求された悪夢が皆の脳裏に蘇った。
「どーも、竜巻で鉄パイプが降ってから、水の出が悪いんですって」
給水タンクがハリネズミになった様子を思いだし、戒無はやれやれと天井を仰いだ。
「は……ははは……」
戒無は、なんだか可笑しくなって笑い出す。
「あら、そんなにワクワクします?」
あっけらかんと寿理は言った。
「んじゃ、ケーキが焼けたら、いっちょ、水道工事にでも行くか」
戒無は半ばヤケクソで決断した。
「そうこなくっちゃ!」
寿理が嬉しそうにキスを投げた。
戒無は嫌そうにそれを避ける。
意地になって、寿理は続けざまに投げキッスを連発した。
「だぁぁぁぁ。やめろって、この、ばか!」
本気で嫌がり、戒無はテーブルの下にボウルとホイッパーを抱えたまま潜り込んだ。
「ねぇ、ふぁらん、あれ、なにやってんの?」
キッチンの窓の外にも花を植えていた愛芳が、不思議そうな声を出してキッチンでの出来事を覗き込んでいた。
「さあな」
花狼は見て見ないふりを決め込んだ。
「おかしいねぇ」
愛芳は、コロコロと笑った。
日常は、日常であるだけで、なにものにも代え難いのものなのかもしれない。
それがいかに大切なものだったのか、失いかけた者にしか、気づけないのかもしれない。
もう二度と、殺伐とした日々が訪れないように……。
人を殺める虚しさを噛みしめる日が来ないように……。
左手の龍が目覚めないように……。
戒無は、床に座り込んで生クリームを混ぜている。
寿理は相変わらずの騒々しさだ。
そして、ニナとシャナは互いの顔を見合わせ、可憐な花がほころぶように笑っている。
家の外と中を繋ぐキッチンの窓の桟で、デブ猫のトロツキーが、ニャアフ、と変な声であくびをした。
幕
最後まで読んで下さってありがとうございます。
そして、この作品を見つけて下さって、本当にありがとうございます。
この作品は、三回ほどリライトしています。
最初はこれの五分の一ほどの短編でした。エッセンスだけの作品ですね。
それで、もっと掘り下げようと五分の三ほどの長さに書き換えました。
そのバージョンは、ススキノの雑居ビルが爆撃されて、吹っ飛ばされたアイファンが流血、そこでファランともども焼き払う……みたいな感じでした。
しかしそれでも飽き足らず、これを三つ巴の戦いにしてやろうと、アイケに登場していただきました。
アイケという実在の人物はいます。名前をお借りしました。長いナイフの夜もあります。
そして、最後のビル攻めを加え、この形に落ち着きました。
教会でドンパチやるのが好きなのは、カウビの影響かもしれません。
ちなみに、小龍はブルース・リーへのオマージュを込めて。
なんて、この作品に詰まった「好き」を語ったら色々出てきて笑えそうです。
こんな戯言まで読んで下さってありがとうございました。
もし、気に入っていただけたら、感想などいただけましたら踊って喜びます。




