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なきむしのかみさま

●Scene-41. 2059.06.21. 09:26am. ススキノ 廃ビル前


 それから数日。


 愛芳と花狼のウイルスは無事に無力化され、麗芳はどこへとも告げずに姿を消した。

 ニナはずっと部屋に籠もっている。

 戒無は、ニナに近づこうとはしなかった。


 ようやく外に出られた花狼は、朝早くからせっせと土をいじっている愛芳を見やった。


「なにをしている?」

「おはなのたね、うえてるの」

「花?」


 見ると、いつか、イースト・パセオタウンで麗芳に貰った種をまいているらしい。


「アイファン……」

「なぁに?」


 少女は、くりっとした瞳を輝かせて男を仰ぐ。

 疑うことを知らない、まっすぐな瞳だ。

 花狼は言いかけた言葉を飲み込んで、静かに目を伏せた。


「いや……。早く咲くといいな」

「うん」


 嬉しそうに少女はうなずいて、せっせと土を掘り返した。



 そんな様子を、戒無は部屋の窓からぼんやり眺めている。

 あの花狼が、愛芳にだけは優しいのが、見ていて微笑ましかった。

 あの、どこか感情を切り離したような男が人間らしく笑えるなら、あの少女の存在は貴重だと思った。


 ふと、左手の甲を眼前にかざしてみた。

 もう、すっかり紅い龍は消え去っている。


 カタンと、背後で音がして、戒無は反射的に振り返った。

 無意識に左手がGパンの背にはさんだ銃把を握りかけて、慌てて思いとどまった。


 戸口で、困ったような顔をして立っていたのは、ニナだった。


「ニナ……」

「あ、あのね……。ケーキを焼こうと思ったんだけど……。スポンジが、爆発しちゃって……。あの、教えてもらえないかな……っていうか……教えて下さい……」


 ニナは、はにかんだようにうつむき、とつとつと言葉を噛みしめるように言う。

 戒無は、破顔した。


「ああ。いいぜ」


 ニナは、ホッとしたように戒無に歩み寄り、そっと左手を取った。

 触れたニナの手が震えていた。


「戒無……。ずっとお礼を言えなくて、ごめんなさい。わたし、助けて貰ったのに、あなたが怖くて……。今でも、怖いけど……、でも、それでも、どうしようもないくらい、好き。お願い。わたしのこと、嫌いにならないで……」


 戒無は、フッと笑った。


「ばかだな……んなわけねーだろ?」

「戒無……」


 見上げるニナの瞳がうるうると潤んでいる。

 大粒の涙が、ポロポロとこぼれ落ちた。

 戒無は少し戸惑って、やがて思いだしたように妙な節回しで歌い出した。


「なきむしのかみさま、なきむしのかみさま……で、なんだっけ? ぽいぽいのぽ~い?」

「なにをしている?」


 窓の外で、花狼が呆れたような声を出した。


「笑うなよ、ファラン。よくきくまじないなんだ」

「その続きは……ポイポイしてあげますね。いっぱい泣いたら幸せになれますように、だ」


 戒無は、唖然として花狼を見た。


「……んだよ。ちゃんと知ってんじゃねぇか。でも、おまえの口から聞くと、背筋が冷たくなるな」

「だったらちゃんと自分で思い出せ」


 ふん、と花狼はそっぽを向く。


 春美は、あの花狼にもポイポイしてあげたことがあるのだろう。


 戒無は、微笑みながら、泣きじゃくるニナの頭から泣き虫の神様をポイポイと掴み出す仕草を繰り返した。



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