M1910シルバーモデル
●Scene-26. 2059.06.16. 03:45am. 大通り公園
戒無と寿理は、夜の公園のベンチで休憩していた。
「M107って、ヤバイんですか?」
豚まんをほおばりながら、寿理が訊く。
「てゆーか……。二度と顔を合わせたくねーやつが現れるような気がして滅入ってんだわ」
戒無も、豚まんに食らいついた。
「戒無さんって、会いたくない人だらけですね。これが片づいたら、そういうのナシにして、まっとうに生きましょう」
「それを、お前が言う? 無免でカーチェイスやらかして、言うわけね」
「持ってますよ、免許なら。ただ、この国では効力がないだけです」
不満そうに言って、寿理は頬をもぐもぐさせた。
戒無は豚まんを口の中に押し込んだ。
もぐもぐいいながら言う。
「そうそう。おまえに渡しとくもんがあったっけ」
「え? なんです? プレゼントの指輪とか?」
ワクワク顔で、寿理は身を乗り出す。
「アタシ、エンゲージリングって夢なんですよね~。結婚式は教会がいいですよね。知ってます? 戒無さん。結婚式場って、着付け室から式場に直結の花嫁専用のエレベータがあるんですよう。一生に一度しか乗れないエレベータ。なんか、憧れちゃいますよねぇ」
「ただの小さいエレベータだろ?」
呆れて言いながら、戒無はポケットから小振りのブローニングを出した。
それを、寿理に握らせながら確認するように言った。
「撃ち方、知ってるよな?」
一瞬、寿理は豚まんを喉に詰まらせそうになって、ゲホゴホとむせた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。この国の普通の女の子は、銃なんか、撃ったことないに決まってるじゃないですか~」
「普通の女の子なら、な」
パチンとウインクして、戒無は立ち上がった。
ちょっと眉間にしわを寄せ、寿理は恨めしそうに戒無を見上げた。
「戒無さん……」
「その豚まんだけどな……。朝になったら、暖め直してニナに届けてくれるか?」
寿理は、やれやれと首をすくめた。
「はいはい。ニナちゃんの護衛に加わります」
「頼りにしてるぜ」
いつものように気楽に笑って、戒無は寿理に向かってなにかを放った。
チャランと空中で鳴って、それは寿理の手の中に収まった。
鍵だった。
「これ……」
問いただそうと寿理が顔を上げたとき、戒無はすでに朝もやの中に消えていた。
「これって、なくしたって言ってた、キッチンストッカーの鍵?」
冷蔵庫の横にでかでかと場所を取っているキッチン収納庫。
使うものがあるときに開けると、彼は言っていた。
使うもの……?
寿理は戒無から渡されたブローニングに視線を落とした。
大きさの割にずっしりと重い武器が、月明かりを浴びて冷たい光を放っていた。
「や~ねぇ……。ブローバックする銃って、苦手なのよねぇ~」
ふわりと髪をかき上げてぼやきながら、ヴィトンのショルダーバックのポケットをホルスターがわりにして、それをしまい込んだ。




