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【1900PV感謝!】バビロン・クラック~黒の戦士と世界を救う双子の少女、銀の戦士と世界を滅ぼす生物兵器  作者: 東條零
第二章 過去を葬送《おく》る詩《うた》

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暗中模索の寿理ちゃんは五里霧中で絶体絶命

●Scene-10. 2059.06.13. 05:30pm. 中央図書館


 寿理は、図書館に入り浸っていた。


 変動以前の詳細な各種データは、入手不可能なものも多々あった。

 ネットワークは、二十一世紀初頭のように整備されたものではなく、よりアンダーグラウンドなものへと変貌していた。

 かといって、紙媒体の資料や、ディスク型の外部記憶装置の検索には気を失うほどの時間がかかる。


 寿理は安全策をとって、いちばん知りたかったレッド・クロイツのことは最後に回した。

 まず、バイオウエポン・リストを検索する。

 劉小龍リウ・シャオロン劉花狼リウ・ファランはリストに並んで記載されていた。

 最高の能力を持つと言われた伝説の傭兵の遺伝情報をもとに創られたピュア・チャイルドだった。


 ロットナンバーM68、それが戒無の型番だ。


「番号で識別されるなんて……」


 詳しい経歴は記載されていない。

 おそらく組織のほうで手を回して削除したのだろう。


 次に林麗芳リン・リーファンを検索した。

 しかし、彼女の名前は、リストはおろかネットの検索エンジンでは拾うことはできなかった。


 戒無と麗芳の会話の断片が耳に残っていた。

 それは、不気味な単語だった。

 寿理も知っている。

 二年前の中東の悪夢だ。


 バベル・ハザード……。


 戒無が、あの、史上最悪の伝染病汚染事件パンデミックに深く関わっているらしいことを知って、寿理は動揺していた。


 だが、バベル・ハザードを調べても、教科書に乗りそうな、検閲済みの内容しか出てこない。

 どうしても知りたければ、現場に居合わせた人間に聞くよりほかなさそうだった。


「アタシって……ほんっと、ばか!」


 寿理は頭を抱えた。

 勇気を出して戒無に問えばいいことばかりを調べているのだ。

 彼は答えたがらないだろうが、状況いかんによっては力になれるかもしれない。


「なのに、ああ、アタシの、ばかばかばかばか!」


 自分の頭をポカポカポカポカと殴る。

 周囲の注目を集めていることに気づいて、慌てて愛想笑いを振りまいた。


 愛芳アイファンのことも調べた。

 賞金首としての情報が山のように湧いて出た。

 目撃情報の交換をする掲示板まであった。


 その、玉石混淆と思われる情報の海を泳いでいると、ふと、イースト・パセオタウンの表示が目に入った。


 六月十二日。

 昨日だ。

 午後二時、イースト・パセオタウン……。


 花狼が連れていた赤毛の子供がいた。

 あの男は、その子を護っているようだった。

 液体肥料のボトルにあった写真はモノクロで、あの子の特徴でもある真っ赤な髪を再現していなかったのだ。


 花狼は、愛芳といっしょにいる……!


「どういうこと?」


 猛烈な胸騒ぎを感じ、急いで、レッド・クロイツを検索した。


 劉小龍を調べる。

 時の総督、皇飛龍ウォン・フェイロンの後継者として花狼とともに育てられたとあった。

 しかし、二○四九年、日本にて死亡と記載され、そこで彼の経歴は終わっていた。


「二○四九年……十年前……」


 十年前に死んだはずの小龍が、二年前のバベル・ハザードでは花狼とともに作戦行動に参加している。


「今でも、繋がってるのかしら……戒無さん……」


 胸の奥がキリキリと痛んだ。

 彼がただ者ではないことは知っていた。

 けれども、産まれたときから平穏な暮らしを望むことなどできない存在であったのは、彼の責任ではない。


 ――どうしてそんなに、ピュア・チャイルドは好戦的なんですかっ!


 戒無を責めるように言った台詞を思いだして激しく後悔した。

 彼が望むまでもなく、闘い続けなければ生きてこられなかったのだ。

 まだ、年端もいかぬ少年であった頃から……。


 寿理は、遠い昔、一度会ったきりの少年のことを思いだした。

 それは、まさに十年前、戒無がレッド・クロイツでは死亡扱いになった頃のことだ。


「もしかして……、あれって、戒無さん……?」


 しかし、のんびり回想に浸っている暇はない。

 ネットワークには監視がつきものだ。


 寿理は、そそくさと端末から離れ、図書館を出た。

 花狼と愛芳がいっしょにいたことを、戒無に知らせなければと思った。


 図書館を出て、ススキノ方面へ足を向ける。

 いつものように、アシの確保はヒッチハイクで……と思ってメインストリートに出ようとしたとたん、行く手をふさぐように五、六人の黒いコートを着込んだ男たちが現れた。


 ハッとして後ろを振り返ると、道の反対側も黒コートの男たちによって塞がれている。

 目の端にキラリと光るものを関知して、上を仰いだ。

 図書館の屋上から、命中精度の良さそうな銃が、寿理を狙っていた。


「なんで、アタシひとりに、こんな人数なの? 誰かと間違えてない?」


 いつもの元気はどこへやら、行く手を塞いだ黒コートの男にお伺いをたてるように言うと、寿理はゆっくりと両手を挙げ、その場に膝を着いて手を後頭部で組んだ。



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