表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
恋のライバル編
98/113

開幕

九時三十分。校庭中央、三面の仮設リングが朝日に輝いていた。縁には白いロープ、マット代わりの人工芝が敷かれ、風に揺れる赤青のコーナーポストが祭囃子のカラフルな幟を思わせる。臨時観覧席に生徒が詰めかけ、熱気を帯びた声が夏草の匂いと混ざり合う。


 選手整列の号令。一段高いステージに、生徒会長・小早川雪乃が姿を現した。黒髪を高く束ねたポニーテールが陽光を反射し、執事服を思わせる白の燕尾ジャケットが翻る。マイクを握ると、眩しすぎる笑顔で――普段のクールな仮面はどこへやら――声を張り上げた。


「皆さーんっ! 桜が丘初のスポーツチャンバラ大会、ついに開幕ですわぁぁ!」


 叫んだ瞬間、場内からどよめきと歓声。雪乃は両腕を広げ、指を三本立てて見せる。


「ルールは簡単! 二本先取で勝利! レフェリーは都スポーツチャンバラ協会審判資格を持つ大山田帯刀教頭先生です!」


その瞬間、生徒達から「タッチャーン!」の声が上がる。


「そして私の右腕・宮前咲会計が副審を務めます!」


 マイクの向こうで宮前が緊張の面持ちで頭を下げ、雪乃はウインクしつつ締めくくる。


「勝者には、青春を彩るスペシャルなご褒美をご用意しましたわ! 皆さま、フェアプレーで――いざ、尋常に!」


 万雷の拍手。夏雲が割れ、真っ直ぐな日差しがリングを照らす。放送部の実況マイクがオンになり、スピーカーから爽やかな男子の声が弾けた。


『おはようございます! 実況は放送部2年、狩谷がお届けします! そして解説には陸上部の女王――朝比奈祐子先輩にお越しいただきました!』


サングラスを頭にのせた朝比奈先輩がマイクを握り、姐御スマイル。


『みんな! ケガすんなよ~! でも熱くいこうぜ! よろしくぅ!』


 第一試合呼び出し。

俺と佐々木がリングに上がると、緊張感より人工芝の人口的な香りが胸に広がった。握ったスポンジ刀は軽く、手汗で柄が少し滑る。向かい側、佐々木は唇を噛み締め、足を細かく踏み鳴らしながら構えた。


『さあ開幕カードは、2年4組・皇ガクト VS 同じく2年4組・佐々木祐介!』


 大山田先生が中央で木製レフェリースティックを掲げた。


「始めッ!」


 乾いた掛け声と同時に佐々木が突進。だが踏み込みが浅い。俺は軽く半歩引き、柄を逆手に握り直して薙ぐ。耳の横を風切り音が通り過ぎた瞬間、佐々木の上腕部に刀身が触れ――


「一本!」


 審判旗が上がる。観客席が「あっ」という息を漏らすより早く、佐々木は焦り空回りし、次の瞬間には俺の虎走りの胴打ちが決まり――


「二本! 勝負あり!」


 試合時間、わずか十八秒。実況席が騒然となり、朝比奈先輩が笑いをこらえきれず叫んだ。


『はっや! いや~ガクトくん、朝イチから飛ばすねぇ!』


 スタンドのあちこちで驚嘆と歓声が渦を巻き、沙羅は胸の前で両手を握り「やった!」と飛び跳ねた。佐々木は膝に手をつき、肩で息をしながらそれでも悔しげに拳を握りしめる。


 リングを降りた俺の鼻腔を、遠くから漂う購買部焼きそばパンのソース香が貫いた。序幕は終わった――だが、真蔵、アンドー、そして雪乃の“ご褒美”が待つ頂点までは、まだ長い道のりだ。


 俺は握り締めた刀を見下ろし、静かに息を吐く。照り返す夏陽が刀身に反射し、瞳の奥へ鋭い光を落とした。次の試合のコールが、まるで太鼓のように心臓を叩く。


――さあ、本当の勝負はここからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ