表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
恋のライバル編
95/113

着々

都立桜が丘高校の七月は、湿気と若干の焦燥感が混ざり合った時期だ。朝の教室には湿った制服のにおいが漂い、扇風機の生ぬるい風がプリント用紙を無意味に舞い上げる。昼には蝉の声がけたたましくなり、放課後には各部活がインターハイ予選の準備にいそしむ声が聞こえてくる。


 そんな中、俺・皇ガクトも、剣道の練習とは別にスポーツチャンバラ大会のための準備を行う。


「剣道とは違って、“当てれば一本”って感じだな……」


 ネットの動画を見ながら、俺はつぶやく。


 剣道のような明確な打突部位がなく、勢いのある一撃が身体のどこかに触れればポイント。だから動きは剣道よりも自由で、時にはアクロバティックですらある。正直言って、初見の俺には“変則すぎて予測が利かない”世界だった。


 だから俺は、実際のスポチャン教室に体験入会して学ぶことにした。


「おぉ~!ガクトさん、柔らかい剣の扱いもサマになってきましたね!」


 小学生に褒められて若干恥ずかしかったが、それでも数回通っただけでも意味があった。足運び、間合いの取り方、体重移動――剣道で培った基礎が応用できる場面も多い。しかし、それ以上に重要なのは、“予測できない動きへの対応”だった。


 そして、沙羅。


「あ、こっちこっち! 今日はステップ強化だから、反復横跳びをしながらの素振り二百回ね!」


 俺の練習スケジュールを勝手に組んでくれたのは、他でもない妙義沙羅だ。早朝と夜、庭での“秘密特訓”が日課になっていた。


「セイセイセイッ!」


 至近距離からテニスボールを投げつけられるのはもう慣れた。だがバウンドや反射を駆使してくるようになったのは困った。ある夜、家の壁に反射させたボールが母さんの洗濯物を直撃した結果、「あんたら夜中に何やってんの!?」と怒鳴られたのは、今や良い思い出である。



 そして、ある昼休み。


 いつものように非常階段で休憩していた俺は、生徒会長・小早川雪乃と鉢合わせた。


「ごきげんようガクトくん。どう?準備は万端かしら?」


「まあ、なんとか……で? 開催のめどは?」


「……それがね、今のところ応募者が四人だけなの」


 雪乃が顔を曇らせた。想定の範囲内だ。俺と服部が出ると事前に知っていて、なおかつエントリーする生徒なんて、よほどの酔狂か自信家か、俺に恨みがあるヤツぐらいだ。


「つまり、四人トーナメントか……?」


「ふふふ、心配ご無用。策は講じてあるのよ」


 嫌な予感がした。雪乃はそう言って、口元に指を添えたまま笑った。




 翌朝。


 教室に入った瞬間、俺はクラスメートに取り囲まれた。


「おい皇! チャンバラ大会で優勝したら、好きな子にキスしてもらえるってマジか!?」


「なぁ、女子が優勝した場合も有効って話だけど、本当なの?」


「皇くん けしからんですよ! 沙羅ちゃんという存在がありながら……!」


 騒然とする教室。俺は机に荷物を置く間もなく、騒ぎに頭を抱えた。


「あの女……やりやがったな……」


 雪乃が“優勝者は好きな相手からキスをもらえる”というご褒美の“うわさ”を流したのは明白だった。


 しかしその効果は絶大で、その日、参加希望者が爆発的に増えた。なんと、最終的に男子26名、女子22名、計48名のトーナメントが組まれることとなった。


 こうして――俺は“逃げ場のない戦い”に本気で挑むしかない状況へと、見事に追い込まれていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ