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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
恋のライバル編
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影の芽吹き・前編(中学一年~中学二年)

東京の東の隅の住宅街にある一軒家。四月の陽射しが柔らかく降り注ぐ午後だった。皇岳人の部屋には、机の上からベッドの端まで、マンガとラノベ、フィギュア、ガソプラ、軍事関連の模型で埋め尽くされていた。壁際の棚には『銀河勇者伝説』『コードオーギュ』『機動戦士ガソダン』のDVDボックスがずらりと並ぶ。窓は少し開け放たれ、春の心地よい風が吹き抜ける中、四人の男子中学生の熱気がこもっていた。


「いや、だからさ。MF91のフォースシールドが最強ってのは“設定上”の話なんだよ。実際の戦術展開で見るとさ——」


「うっせーよ皇! それを言ったらネオタイプの存在意義が消えるじゃねえか!」


「僕が思うにですね!戦術とか以前に、フィレーネ様の覚醒シーンは史上最高だと思うんです!」


ガクトの机を囲んで、五郎丸とその仲間たちが盛り上がっていた。床には広げられた設定資料集、開きっぱなしのファミ通、さらにはカードゲームのデッキまで転がっている。


「ん? おい沙羅、そこ踏むな。『オペレーション・デコイ』の限定版ポスター!」


「……あ、ごめん」


その一角、机の隅には、小さな女の子がちょこんと座っていた。小学六年生の沙羅だ。手には缶ジュース。当時は人見知りな性格のため、男子たちの議論には加わらず、黙ってジュースのストローをくわえながら、じっとガクト達の顔を見つめている。


ときおり目が合うと、沙羅は慌てて目を逸らす。ガクトも「あ、ヤベ」とばかりに軽く笑いを浮かべて目を逸らす。


この頃、中学一年生だったガクトは、“自分の好き”を全力で表に出していた。アニメ、ゲーム、模型、そして軍事知識。堂々と「俺は好きなもんは好きって言える奴がカッコイイと思う」と宣言していた。周囲にも社交的に話し、教室の隅で盛り上がる“オタク島”の中心にいた。




そして一年後——


中学二年になると、彼の「好き」はさらに進化する。


「皇くん、また黒コート着てきたんですか? それ、リアルでやるとただの変人ですよ」


「“漆黒の叡智を、纏いし虚無の旅人”の礼装なんだよ」


ノートの端には中二病全開の詩。自作の魔法陣。放課後は裏庭で一人魔術詠唱の真似。


体型も、成長と運動不足で少し丸くなっていた。


当人のガクトは、とても楽しかった。好きなものに囲まれ、好きなことをして過ごし、好きなことを語り合える仲間がいて、自分は唯一無二の存在だと信じていた。


——その冬までは。




十二月中旬のある日。冷たい風が吹き込む昇降口。ガクトは帰り支度の途中、偶然聞いてしまった。


「ねぇ、クリスマス、うちらでパーティーやんない?」


「あ、それいい! ね、誰呼ぶ? 裕太くんとか、飯山くんも……」


「えーでも、皇くんはやめよーよ。あの子ちょっと……“キモイ”じゃん」


「えー、それは言い過ぎ~」


女子の笑い声とともに、心臓がぎゅっと縮こまった。


「きもい」と言った声の主は、ガクトが密かに好意を抱いていたクラスの中心にいる明るくて可愛い子だった。成績優秀、運動神経も良く、誰にでも分け隔てなく接する優しさを持つ、一見して完璧な女子。


きょうの授業中も、ガクトが落とした消しゴムを拾い上げ…


「皇くん、これ、落としたわよ…」


「あ、ありがとう!」


「気にしないでクラスメートでしょ?それよりその消しゴム可愛いね!マンガのキャラ?」


「ああこれ?エンターホライズンの飛影って娘なんだ!」


優しく自分に笑いかけ、自分の話にも楽しそうに相づちをうっていたあの娘。

その娘が自分のことを“きもい”と言っている。


その瞬間、光り輝いていた世界が暗転し、全てが信用できなくなった。




「この前も授業中、謎の詠唱とかしてたし……マジやばいって」


そのあの娘が笑いながらそう言った。

足元が冷たくなる。背筋を風が吹き抜けた気がした。





それからのガクトは、すべてが変わった。


教室では以前のようにクラスメートに話しかけることができなくなり、五郎丸たちとも距離を置くようになった。

帰宅後は自室に閉じこもり、ひたすらネットサーフィン。気がつけば自分にとって心地よい情報をかき集めていた。


また学校も休みがちになる。教室にいても誰かに悪口を「オタク」などと言われているような気になり、クラスメートや友人から話しかけられても…


「…ああ」

「…また今度」

「いや、行かない…」


誘われた遊びや、会話の輪にも加わらなくなったことで、クラスメートもガクトに対する当たりを完全に変える。


“オタクで暗い性格の悪い奴”


そうしてやってきたクリスマス。

クリスマスパーティーを計画していた女子達は、ガクト以外のクラスメートを全員誘ってパーティーを行うことを決める。


二学期最後の終業式の日、ホームルームが終わった直後、ガクトが気になっていた女の子は、大声でクラスメートに話しかける。


「みんな!きょうのクリスマスパーティー忘れないでね!帰ったらすぐに私の家集合だから!」


驚いて顔を上げるガクト。

その娘はそんなガクトの顔を横目で見ながら続ける。


「どーせ来ない“誰かさん”は、放っとこうねー!」


クラス中から笑いが起きる。


「じゃーな!オタク!」


「空気よめないキモイやつは学校くるな!」


「死ねばいいのにね」


中には気の毒そうにガクトを見ている男子もいたが、多くのクラスメートは口々にガクトへの誹謗中傷を言いながら教室を後にしていた。


教室にひとり取り残されたガクトは、ただ黙って、机の影に視線を落としていた。

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