デートの裏側で交錯する想い(前半)
週末、晴天の下。 駅前の待ち合わせ場所近くの茂みに、三つの影がひそんでいた。
「……いや、お前ら、なにやってんの?」
岳人――皇岳人は、小声でぼやく。
「決まってるじゃないですか! お兄ちゃんのデートを見守るんです!」
双眼鏡を構えるのは服部千奈。白いサマーワンピースに身を包んだ、今日の張り切り人その一である。
「……いや、“見守る”って、ただの尾行だろ」
「うるさいです、皇先輩。……っていうか、あなた誰なんです?」
千奈がぴしりと目を向けた先にいたのは、小早川雪乃――言わずと知れた桜が丘高校の生徒会長。
「ふふ……たまたまガクトくんを見つけたのよ。桜が丘高校生徒会長として、不審な行動を見過ごすわけにはいかないわね」
「……たまたま、ね」
岳人は諦めたようにため息をつく。
千奈と雪乃はその場で、妙に丁寧に自己紹介を交わした。互いに一礼しながら、妙な連帯感が芽生えていくのが分かる。
「……なんか、俺だけ取り残されてないか?」
そんな思いを抱きながら、岳人はこっそりと、沙羅と服部の“デート”を追いかけ始めた。
最初の目的地は映画館。
今、上映している話題のポム・クルーズの映画だ。
ポップコーンを手にした沙羅と服部が、並んで座る。
「お、おれ……映画館って久しぶりっす……」
「ふーん」
沙羅は予告編を眺めながらも、どこか落ち着かない様子だった。
映画を見るだけ。そう思えばいいのに、なぜか後ろの気配が気になる。いや、そんなわけない。気のせいだ。うん。
服部は、横目で沙羅の表情を伺いながら、緊張と興奮で心臓が爆発しそうだった。
「さ、沙羅さんって、映画とか好きっすか?」
「うん、まあ、普通に……」
沙羅の返事は素っ気ない。でもその声はどこか沈んでいた。
後方の席、暗がりの中。双眼鏡を覗く千奈と、帽子を目深にかぶった岳人、そして雪乃が座っていた。
「お兄ちゃん、頑張ってるけど……沙羅先輩、表情が硬いですね」
「まあ、急にデートとか言われてもな」
「……あなた、まさか少し気になってる?」
雪乃が横目で岳人を見る。
「は? ねーよ」
即答したものの、目はスクリーンではなく沙羅の後ろ姿を追っていた。
「ふぅん」
その曖昧な返答に、雪乃はどこか面白そうに前を見つめ直した。
上映が終わると、三人はこっそりと席を立ち、映画館の外へと移動した。
「次はどこだ?」
「たしか、沙羅さんとお兄ちゃん、水族館行くって言ってました」
「お前……どこまで聞き出してんだよ……」
「LINEで聞いたんですよ。沙羅さんと私、つながってるんで」
千奈はあっけらかんと答える。
それを聞いて、岳人はなぜか心の奥がざわつくのを感じた。
沙羅が、自分ではなく千奈と、そういうやりとりをしていたということが、今さらながら少し堪えた。
「嫉妬かしら?」
雪乃が、ぽつりとささやいた。
「……だから違ぇって」
だが、否定の声は、あまりにも弱々しかった。
水族館。
照明が落とされた館内、青く光る大水槽の前で、沙羅と服部は立ち止まっていた。
「おぉ……魚って、ずっと見てても飽きないっすね」
「……そうだね」
沙羅は、水槽を漂うクラゲや小魚たちを見つめながら、返事をした。
けれど、その目はどこか遠くを見ているようだった。
思わず脳裏に浮かんだのは、以前、部活帰りに一緒に立ち寄った小さな公園の池だった。
あのときも、ガクトは何気なく言った。
『魚って、見てると落ち着くな』
なんで今、それを思い出すんだろう。
「沙羅さん?」
「え、あ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
服部は微妙に表情を曇らせたが、それ以上は何も言わなかった。
一方、数メートル離れた展示パネルの裏では、三人の尾行チームが再び張り込んでいた。
「……先輩、やっぱり気になってるでしょ」
「……うるせぇな」
「顔がもう、“気になってる”って言ってます」
千奈がからかうと、岳人は顔を背けた。
その表情を見て、雪乃は目を細めた。
「ふふ……やっぱり、これは見届ける価値がありそうね」
彼女はゆっくりと髪をかき上げながら、何かを企むように微笑んだ。




