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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
恋のライバル編
65/113

非常階段の駆け引き

 6月の終わり、梅雨の合間の晴れ間。

 放課後の校舎、風が心地よく吹き抜ける非常階段の踊り場に、ガクト――皇岳人は腰をかけていた。


「ほら、これ見て。今日また購買戦争で勝ち取ったクロワッサン」


 横で誇らしげにパンを掲げるのは、生徒会長・小早川雪乃。髪をひとまとめにした彼女は、校舎の陰でひとときのサボり時間を楽しんでいた。


「絶対購買でブラックリスト入ってるぞ、お前」


「それがどうしたの。私は生徒会長よ」


 いつもの軽口。ガクトは自然に笑っていた。


 だが、その笑いが消えるのに、時間はかからなかった。


「……おまたせ」


 ひょっこりと、沙羅が顔を出したのだ。


「沙羅? どうしたんだ、こんなところで」


 沙羅は、ふふっと意味深に笑った。


「んー……なんか、教室にいるのも暑くってさ〜」


 妙にテンションが軽い。その裏に、ガクトには読めない空気が潜んでいた。


「……あ、そうだ。ねえガクト、私さ、明日デートなんだ〜」


 唐突な宣言だった。


「……は?」


「うん、服部くんと映画行くの。千奈ちゃんがセッティングしてくれてさ〜、ポップコーンは彼が出すんだって」


 無邪気な顔でそう言いながら、沙羅はガクトの反応を盗み見る。


 ガクトの目が一瞬、見開かれた。


「……マジか。それ」


「ふふ、どうかなぁ〜? まあ、断る理由もないし……ね?」


 ガクトは黙った。


 隣で聞いていた雪乃が、楽しそうに目を細める。


「ふーん……青春ね。いいわ、なんかいい。映画、私もついていこうかしら」


「やめてください、雪乃先輩」


 沙羅はピシャリと突っ込んだ。


「えー? ダメ? 面白そうなのに〜」


 雪乃がニヤニヤ笑いを浮かべるその横で、ガクトは何も言わなかった。ただ、手元の焼きそばパンをもそもそいじっていた。


 ……よし。効いてる。


 沙羅は胸の奥で拳を握った。

 ちゃんとガクトに、伝わってる。

 このざわざわした気持ちの正体を、君も、少しはわかってほしい。


「じゃ、明日の映画、楽しんできまーす!」


 そう言って手を振り、沙羅は階段を軽やかに降りていった。





 そして、デート当日。


 駅前のロータリー。日曜の昼、人の流れが忙しく行き交う中で、ガクトは目立たぬ場所に立っていた。


「……俺、なにしてんだ?」


 呟いて、自分で苦笑した。


 別に沙羅が誰と出かけようと関係ない。そう思っていた。


 なのに、朝から何も手につかず、気づけばこの場所にいた。


 あいつが来るなら、このあたりだろう。そう思って、ただなんとなく歩いた結果がこれだった。


「……まるで、待ち合わせしてるみたいだな」


 そのときだった。


「お兄ちゃん、来てるよ」


 突然背後から聞こえた声に振り返ると、そこには白いワンピースの少女――服部千奈が立っていた。


「うおっ、びっくりした……お前、服部……千奈か?」


「お久しぶりです、皇先輩。中学校以来ですね。今日はお兄ちゃんと沙羅さんのデートなんですよ」


 千奈はスマホをちらつかせながら笑う。


「沙羅さんもお兄ちゃんも、もうすぐ来ますよ。……でもね、先に聞いておきたかったんです」


「……なにを?」


「皇先輩は、沙羅さんのこと、どう思っているんですか?」


 ガクトは言葉を詰まらせた。


 自分の中では決まっている。でも、まだ言葉には出したことがない。


「……俺はただ、アイツが笑ってれば、それで……」


「ずるいですよ、それ」


 千奈がぴしゃりと言った。


「それ、すごく優しくて、すごくズルい。……そのままだと、誰かに持っていかれますよ?」


「……」


 そう言った千奈の目が、駅前の階段に向いた。


「来ましたね」


 その視線の先に、沙羅がいた。


 白いブラウスにデニムのスカート。髪を軽く巻いて、いつもより少しだけおしゃれをしていた。

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