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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
恋のライバル編
64/113

河原で叫べ!?

 6月後半の晴れた日。


 波乱の事件――服部がガクトを殴り、沙羅に怒鳴られたあの日の翌日。


 服部真蔵は、近所の河原にうずくまっていた。目の前をのどかに流れる川。その土手の草むらに、ジャージのまま突っ伏すように座り込み、ため息を三回目くらいつく。


 その隣で、白いワンピースを着た少女が、じっと兄を見つめていた。


「お兄ちゃん、大丈夫だよ。お兄ちゃんはすごく頑張ってるんだから」


 少女の名は千奈ちな。服部くんの妹で、中学三年生。長い黒髪を軽く結び、日傘を片手に小さく微笑んでいる。


「で、でも……ガクト先輩に勝ったのに、な、なんも変わらなかったし……それどころか、沙羅さんにドン引きされたどころか嫌われたと思うし……」


 服部くんは、ぐにゃりと地面に沈み込みながら言う。


「うん、ちょっとダサかったね」


「う、うわぁぁぁん……」


 千奈は、そんな兄の頭を優しく撫でた。


「でも、ちゃんと伝えたら違うと思うよ?」


 「……ど、どうせダメだよ……俺なんか……」


 その時、千奈が急に肩を叩いた。


「……お?」


「沙羅先輩、いるよ」


 服部くんが顔を上げると、ちょうど川沿いの舗装された遊歩道を歩く、小柄な女子の姿が見えた。


 風に揺れる黒髪、スポーティなタンクトップ姿。


「さ、沙羅さんっ!!」


 服部くんは思わず立ち上がった。


 沙羅がビクッと反応して立ち止まる。振り返る。


「……なに」


「お、俺……!」


 心臓の鼓動がうるさい。

 手のひらが汗でびっしょり濡れていた。


(言え、言え! 言うんだ!)


 服部くんは手をぎゅっと握りしめ、思い切って叫んだ。


「さ、沙羅さん……! す、好きだぁぁぁ!!!」


 沙羅の目が見開かれた。


「えっ……」


「俺と、つ、付き合ってください!!」


 風が吹く。草が揺れる。


 沈黙。


 沙羅は顔を真っ赤にして、くるりと踵を返すと――


 そのまま全速力で逃げ出した。


「ええええええ!?!?」


 服部くんはその場に崩れ落ちた。


「千奈ぁぁぁぁ!! 沙羅さん、逃げたぁぁぁぁ!!!」


「うん、まあ予想通り」


 千奈はあっさり頷きながら、スマホを取り出して何かを操作している。


「……な、何してんの?」


「うん、じゃあデートの予定、入れとくね」


「は?」


「だって、いきなり告白とか無理でしょ。まずは仲良くなるとこからでしょ」


「えっ、いや、でも……」


「決定☆」


 ニッコリ笑った千奈は、器用にスマホを操作して、すでにLINEを沙羅に送っていた。


 実は千奈と沙羅は、中学時代に同じ陸上の外部クラブで顔を合わせていた旧知の仲だ。誕生日プレゼントを贈り合ったこともあるし、LINEも交換済み。


 さっきも、“お兄ちゃんの失礼な態度を謝るね”というメッセージを送ったばかりだった。


「……沙羅先輩、既読ついた。『なんでアンタの妹にまで巻き込まれてんの私』だって」


「ひ、ひぇぇ……!」


「でもね、次のメッセージで『映画なら行ってやらないこともないけど、ポップコーンはそっちが買って』って書いてある」


「……え、それって……デート?」


「うん、まあ。妹の手配だけどね」


 千奈は勝ち誇ったようにニッコリと笑った。


「うちの兄がこんなに面倒くさいので、今後ともよろしくお願いしますって、沙羅先輩に送っとくね」


「ちょ、ちょっと待って!? 心の準備が……!!」


 服部くんは顔を真っ赤にして地面に倒れ込んだ。


「……でも、行かないとは言ってないんだよなぁ……」


 風がまた吹いた。

 河原には、今日も穏やかな空気が流れていた。

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