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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
恋のライバル編
62/113

激情に駆られ

 放課後のグラウンド。夕陽に照らされたトラックのコースを、沙羅はいつものように全力で駆けていた。


 部活の練習。汗と呼吸のリズム。いつもの風景。


 ――の、はずだった。


 ふと、視線の端に違和感を覚えた。


 グラウンドの隅。部活生がいないその場所に、胴着姿の男子が立っていた。


 (あれ……ガクト?)


 沙羅の心がざわつく。


 その隣には、朝比奈祐子先輩。何かを真剣な表情で話している。


 近づいてみると、沙羅は思わず息を呑んだ。


 「ガクト!? 鼻血……それに、頬……」


 赤く腫れ上がった頬、まだ乾ききっていない血の跡。


 「えっ、なに、どうしたの? 誰にやられたの!?」


 「別に……なんでもない」


 ガクトは苦笑しながら手を振る。


 「なんでもない顔じゃないでしょ!」


 沙羅の声が大きくなった。


 その時、ひとりの女子が、道場から駆けてきた。


 剣道部の女子。息を切らせて、ガクトの背後に立つ。


 「先輩、すみません、あの……服部が……!」


 「服部? 服部って……」


 沙羅の頭に浮かぶ、あの1年の、どもりがちな男子。


 「ガクトを……服部が殴ったの?」


 女子部員はこくんと頷く。


 「……え?」


 何かが、音を立てて崩れた。


 次の瞬間、沙羅は走っていた。


 祐子先輩が「沙羅! 落ち着けって!」と叫んだが、もう耳に入っていなかった。


 ガクトを、殴った。


 あの子が。


 私の大事な、大事な――幼なじみを。


 学校裏庭の静かな空間に、足音が響く。


 剣道場の引き戸を思い切り開けて、沙羅は中に飛び込んだ。


 「服部くんっ!!!」


 道場にいた1年生たちが一斉に振り返る。その中心に、服部がいた。


 彼は目を見開いて、口をパクパクさせた。


「お、おお……沙羅、さん……なんで?」


 「なんでって……あんた、ガクトに何したの!? なんで殴ったの!? 何があったのか説明して!!」


 「お、俺は……」


 服部が震える唇を動かす。言い訳がましい言葉が喉の奥で詰まる。


 

「試合で皇先輩に勝ったんだ…そしたら、何の反応もないんだよ。なんで、なんで、そんなに冷静なんだって!心が死んでるんじゃないかって!」


 沙羅の胸の奥が、怒りで熱くなる。


 「ガクトは、いっつも人のことちゃんと見て、優しくて、でも自分のことは全然大事にしないの! それを、なんで、なんであんたが……っ!」


 涙が込み上げる寸前、背後から声がかかった。


 「沙羅、ストップ。そこまで」


 朝比奈祐子が、入口に立っていた。息を切らせながらも、鋭い眼差しで沙羅を見る。


 「……ちょっと落ち着け。怒ってるのは分かる。でも、冷静になれ」


 「……でも!」 剣道部の部長、霧山が続ける。


 「服部は、後でちゃんと部として処分する。怒鳴りつけるだけじゃ何も残らんよ」


 その言葉に、沙羅の肩から力が抜けた。


 ゆっくり、息を吐く。


 「……ごめん。服部くん」


 沙羅が絞り出すように言うと、服部は涙を浮かべて、小さく頷いた。


 静寂が、道場を包む。


 だが、沙羅はすぐに違和感を覚えた。


 「あれ……そういえば、ガクトは?」


 「え?」


 沙羅が朝比奈先輩を見る。


 「先輩、ガクトは? 一緒じゃなかったの?」


 「……あ」


 祐子が顔をしかめる。


 「やべ。グラウンドに置いてきた」


 「いや、沙羅が走っていくから……私、追っかけて……」


 その時、女子剣道部員のひとりが口を挟んだ。


 「先輩なら、すぐ後ろで見たんですけど……その後、戻ってきてないですよ」


 「……え?」


 沙羅は青ざめた。


 「じゃあ、今……どこに……?」


 再び、走り出す。


 今度は、ガクトを探すために。

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