体育祭佳境
午後の終盤、グラウンドに設置された謎の競技会場に、ざわめきが広がった。
「なんだこれ……?」
観客の声も混じる中、俺はその“競技”を見上げていた。
中央にそびえるのは、巨大な棒。下半分は砂に埋まり、周囲は直径3メートルほどの円形で、ふかふかに掘り返されている。
「今回から導入された新競技、“砂上の棒倒し”です!」
放送部が元気よく説明する。
「各チーム3人で、棒の周囲の砂を順番に少しずつ削っていきます! 倒したら負け! どこまで攻めるか、読みと勇気が試されます!」
なるほど、バランス感覚と駆け引きが勝負だな。
「黒組、選抜メンバーは……皇岳人、五郎丸隆、鈴木智子!」
「うち!? なんでよ!」
鈴木が叫ぶが、クラス中「いけいけ~」の大合唱。
「ほら、やるぞ」
「ちょっ、待っ……」
俺が強引に手を引く。横では五郎丸が真剣な顔でデータを眺めていた。
「この競技、砂の重心移動と崩壊タイミングがすべてです。実に……興味深い」
「それはいいから、転ぶなよ」
出場チームは全6組。注目は、マーク先輩率いる赤組と、小早川雪乃率いる白組。
先攻は白組。雪乃先輩が予想外に大胆な削りを見せ、棒を大きく傾ける。しかし倒れない。観客からどよめきが起きた。
「やっぱ雪乃会長、勝負勘エグいな……」
次に赤組。マーク先輩は丁寧に慎重な削りを見せる。
そして、黒組の番。
「まずは……私から」
五郎丸がしゃがみ込み、コンパスのような動きで均等に砂を削る。棒はピクリともしない。
さらに順番は回る。
「次、ガクト!」
「任せろ!」
俺は一気に砂を削る。棒がぐらりと傾き、鈴木が悲鳴をあげる。
「やばいやばいやばい!!」
「任せろ、見てろって!」
俺はフォースを使った(ふり)で棒を止める。その甲斐があったのか?
棒はギリギリで止まった。
そして、次の白組ターン。
アンドー先輩が足で軽く砂を払った瞬間――棒がぐらりと、そして……ごとん。
「白組、失格ーっ!!」
会場が沸いた。意外な敗退に、雪乃先輩はため息をついて笑った。
再度、棒は埋められ競技を再開。
続く赤組は慎重に攻めたが、マーク先輩のターンで誤って深く削りすぎ、棒が傾き……倒れた。
「赤組、失格ーっ!!」
「おいマック~! 靴脱げるどころか、棒倒れてんじゃん!」
「ほんとにやめてぇぇぇ!!」
最終的に、黒組がまさかの優勝。
「勝った……だと……?」
「うち、やっぱセンスある~!」
「……私の計算通りですね」
いや、それはどうだ。
そして、いよいよ最後の競技――チーム対抗綱引き。
この競技には、全員が参加。チーム全体の力が問われる。
「オレ、ヒク!」
白組のアンカーは……アンドーだった。
開始の合図と同時に、白組が黒組・赤組・他すべての組を相手に次々と圧勝していく。
「ず、ずるい……!」
「まさかの“筋肉戦車”……」
アンドーはひとりで5人分くらいの引きを見せ、まさに物理で全てを制した。
結果、綱引きは白組の優勝。
そして総合成績。
「第1位……白組!」
「第2位……黒組!」
「第3位……赤組!」
結果発表に、黒組は歓声と共に抱き合った。
「やったぁああ! 2位でも嬉しいぃ!」
「お前、泣きそうじゃん」
「泣いてねーし!」
沙羅が目をこする。
夕暮れ、表彰式が終わり、校庭の喧騒が静まっていく。
俺はバッグを背負いながら、ふと隣を見る。
「……沙羅、帰るぞ」
「うん!」
夕焼けに染まる坂道を、二人で歩く。
ほんの少し手が触れる。
「……ね、ガクト」
「ん?」
「今日、楽しかったね。ううん、すっごく、楽しかった」
振り返った沙羅の横顔が、夕日に染まっている。
なんだろうな、普段よりちょっとだけ、大人っぽく見えた。
「……うん。最高の体育祭だった」
俺は、そっと笑った。




