体育祭で借り物競走
午後一発目の種目は、チーム対抗・玉入れ合戦。簡単に見えて地味に体力を消耗する競技だ。
黒組の円陣の中心で、朝比奈先輩が両手を叩いた。
「よし、玉入れは数じゃない、気迫だ! ケツにぶちこむつもりでやるよ!」
「先輩それ下品です~!」
誰かのツッコミに笑いが広がる。沙羅も両手で玉を構えながら「おらおらおらー!」と叫んでジャンプしていた。相変わらず、見ていて飽きない奴だ。
結果は黒組、惜しくも2位。しかし、勢いは悪くない。
次の種目――謎のエキシビション競技「三人四脚・部活動対抗戦」。
会場がざわついたのは、その出場者に生徒会代表として「小早川雪乃」の姿があったからだ。
「……雪乃先輩が走るってマジ?」
俺が驚くと、朝比奈先輩が小さく笑った。
「去年も出たんだよ。ほら、あの人って『かっこいい』を維持するためには、たまには全力でボケるんだってさ」
「なんだその哲学」
ステージ前。姿を現した雪乃先輩は、頭上で束ねた黒髪をゆらしながら静かに整列。
隣には副会長の錦野先輩、そして書記アンドー先輩。白・純白・ゴリラと並んだインパクトに、会場がどよめく。
「雪乃さーん! その走りに未来を託します!」
「麗しき友情の絆よ、今こそ一繋がりに!」
スタートの合図。
……予想を遥かに超えるスピードで、3人は疾走した。
リズムの完璧な足運び。風になびく黒髪。硬派なアンドーが無言でテンポを支え、錦野が叫ぶたびに観客のテンションが上がる。
そして――雪乃先輩が、ゴール直前で一言。
「生徒会……最高!」
普段の寡黙なイメージを裏切る、笑顔でのガッツポーズに、拍手が沸き起こった。
「やば……ちょっと好きになりそう……」
沙羅がぽそっと呟いて、俺は思わず吹き出した。
「おい、聞こえてんぞ」
「ち、ちがっ……そっちの“好き”じゃないもん!」
顔を赤らめる沙羅を見て、俺もなんだか顔が熱くなる。
午後の競技も中盤に差しかかり、俺たち黒組は借り物リレーに出場した。
俺のカードにはこう書かれていた――
《幼なじみ》
「マジかよ……」
引いた瞬間、なんとなく嫌な予感はしていた。
「ガクト、カード何だった?」
沙羅が後ろからひょこっと現れた。
「……お前、だよ」
「へ?」
「“幼なじみ”って書いてある」
数秒間の沈黙。
そして、沙羅は顔をまっかにして叫んだ。
「な、なななっ、何それ!恥ずかしいじゃんかー!」
「走るぞ!」
手を強引に握って、スタートラインに駆け出す。沙羅の手は小さくて、けれど不思議と力がある。
二人三脚みたいに並んで走る。
笑い声、どよめき、からかいの声。
「……あのさ」
「ん?」
「こういうの、嫌じゃないよ?」
俺が小さく言うと、沙羅は驚いたような顔をしてから、目をそらした。
「……ばか」
でも、その耳は真っ赤だった。
ゴール直前。手を離さず、最後まで一緒に駆け抜ける。
ゴールした瞬間、沙羅が俺の腕をぱしんと叩いた。
「……ドキドキした……責任とれっ」
真剣なのか冗談なのか分からないその言葉に、俺の鼓動が跳ねた。
体育祭の午後、黒組は徐々にひとつになっていた。まだ勝敗は分からないけれど――




